すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「アジア人の怒り」⑨

2005年03月07日 | 小説「アジア人の怒り」
 外の景色が近づくにつれて、何か騒がしい物音が聞こえてきた。何だ?人の話し声が聞こえる。5、6人はいるらしい。きっと村の人が・・・。きっとそうだ。村の人が心配して来てくれているんだ!
 私は洞穴の中を走って、―――全速力で走っていた。ジムは相変わらず、分厚い本のページを忙しそうにめくっていた。宮本は、落ち着いたらしく、ぐっすり眠っていた。私は、ページをめくるジムの指を遮るようにいきなりジムに顔を近づけた。ジムの怪訝そうな顔をよそに、私は、一気に、外で見聞きしてきたことを話した。ジムは見る見るうちに表情を変えていった。
 外に走り出そうとしているジムを必死で止めながら、私は宮本を揺すり起こし、さっきと同じことをしゃべり出した。宮本は興奮して目を見開き、ふらふらと立ち上がった。私は宮本に肩を貸しながら外に向かった。ジムは、私たちを心配そうに振り返りながら、一足先に走って行った。
 しばらくして、おーい!と叫ぶジムの声が聞こえてきた。私たちも、後から追い着き、一緒に、おーい!!と叫んだ。何度も何度も叫んだ。手も振った。帽子も振った。ぴょんぴょんと飛び跳ねてもみた。しかし誰も気がつかない。ジムと宮本は、疲れ果てて諦めようとしたが、私はそれでも叫び続けた。村の人たちの姿が、小さく、木々の中を見え隠れしてきたので、雨で足場がかなりぬかるんでいたのもそっちのけで、私は走り出した。その時だ。後ろで、気がついたみたいだぞ!と叫ぶジムの声を聞いたのは。
 ――― 一瞬の出来事だった。その声を聞いて立ち止まった時、私は、村人の1人が銃を所持しているのを見つけた。私の足はすくみ、目は銃に釘付けになった。野犬狩りに銃はつき物だが、私は、またもやあの不安を感じたのだ。ゆっくりゆっくり、ゆっくりゆっくり、ゆっくりゆっくり、銃口が、・・・野犬の影に、ではなく、私の方向に向いた。まさか、・・・まさか私たちを、・・・いや、私だ!その時、激しい爆発音と衝撃が私を襲った。倒れたまま私は、ぬかるみの中で、ジムと宮本が必死で私に声をかけるのを聞いた。肩の辺りの燃えるような熱さと、目の前のまぶしいほどの木々の緑に目が回り、私は意識を無くしてしまった。


(つづく)
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