おっちーの鉛筆カミカミ

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『ONE EYES』第0‐2章 プロローグII~変わらない居場所

2008年01月04日 23時01分43秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
 曇り空の下。そこは大きな建物に隣接する空き地。
 11人の人々がそこにいる。

 そこはその人々にとって、2つと無い場所。
 人と人を繋げてくれる、そこに居る理由をくれる、またと無い居場所。

 いくつかの話し声の中、ひとりが大きな声を上げる。

みどり「ねえ、みんながこんなに集まる機会なんてそうそうないと思わない?」
慎平「え?…あぁ」
みどり「だよね。あたし、こういうのは残しておきたいの。…ねえ、みんなで集まって写真撮らない?」
将「あー」
麻衣子「なにそれ?」

 麻衣子はみどりに食って掛かっている。いつもの風景。皆は慣れっこである。

みどり「なによ。文句ある?」
麻衣子「ありまくり」
みどり「…(怒)」
修「まあまあまあ! 麻衣ちゃん面白いじゃん、撮ってもらおうよ」
麻衣子「えー」
修「記念になるよ。ねえ」
みどり「そうそう。思い出にね」
皆神「みどりちゃんの提案、私はいいんじゃないかと思いますけどねえ」

 麻衣子は興味なさそうにそっぽを向く。

恵美「うーん」
慎平「恵美どうする?」
恵美「いいんじゃない?」
みどり「おぉーさすが器が大きい」
麻衣子「…」

 麻衣子は、じゃあ私は写真に入らないだけで、器が小さいことになるの? とでも言いたげな表情。
 一方、矢崎と徹、上河と千夏はみどりたちとは少し離れた場所にいる。

徹「矢崎さん、集合写真ですって」
矢崎「ああ」
徹「我々どうしましょうか?」
矢崎「あまり興味ないな。放っておこう」
徹「そうですか」

 上河と千夏は互いに少し距離をおきつつ、隣り合って座り込んでいる。

千夏「私撮ってもらいたいなー」
上河「お前幾つだ?」
千夏「写真撮ってもらうのに年齢なんて関係あるんですか」
上河「いくつなんだ?」
千夏「失れい…だと思いますけど仕方ないですね、教えますよ。23になりました」
上河「ふむ。まだ若いな」
千夏「上河さんに比べればずっと若いですね」
上河「…ギャフン!」

 千夏は上河の意外にお茶目な言葉に衝撃を受け、一瞬の間のあとで大笑いしている。
 みどりはその2人に向って、

みどり「そこ! こっち来なさい」
千夏「はーい♪」
上河「私は行かんぞ」
千夏「上河さーん、一緒に撮ってもらいましょうよーぉ」

 千夏は上河に甘えた声を出す。

上河「…」

 上河はしぶしぶ立ち上がった。
 そして麻衣子はまだグズっている。

麻衣子「私は写んないよ。ここの卒業生のあんた達だけでやりなよ」
修「えー麻衣ちゃーん」
麻衣子「あんたはうるさい!」
慎平「麻衣ちゃん、写ろうよ」
恵美「麻衣っ」
麻衣子「嫌だ」
恵美「頑固だねー。こうなったらテコでも動かないよ」
慎平「だなー」
修「…」
皆神「皆で写真1枚撮るのも、大変ですねえ」

 すると、将が皆の真ん中あたりに立つ。

将「皆さん、集まりましょう」
慎平「うーす」

 麻衣子、矢崎、徹以外の8人は、わらわらと集まる。

将「みどり、カメラは?」
みどり「あっ…それに気付いてなかったなあー」
将「みどり相変わらず抜けてる」

 みどりはその言葉に内心少しムッとするが、

みどり「携帯があった。これで撮りまーす」
恵美「…」
将「みどり、僕カメラ持ってる。僕が撮るよ」
慎平「あっ! 俺もカメラ持ってるよ」
みどり「あっほんとにー? 写してくれる? わーい、ほんとは私も写りたかったんだよねー」

 慎平の発言はスルー。少々所在無さげになる慎平。

将「じゃあ皆さんそのへんに集まって…」
麻衣子「えっ将さんが撮るの? なら私も入る」

 麻衣子の言動に、ますます機嫌が悪くなるみどり。

修「じゃあ撮りますから並んでー。ほら慎平は高い方なんだから後ろっ 前の人は座ってくださーい」
みどり「おお、修くん仕切ってる」
千夏「修くんかっこいー」
麻衣子「そお?普通じゃん」

 修は内心ショックではあるが、表には出さずに「人員を整理」する。
 みどりと皆神以外は、それでも「だらだら」していてなかなか態勢が整わない。
 しかし修の努力の甲斐もあり、8人は次第に写真をうつす姿勢にまとまってくる。
 すると、恵美が急に矢崎たちの方を向く。

恵美「ほらほら、そっちで突っ立ってる2人」
矢崎「…」

 矢崎はその言葉を無視。

徹「矢崎さん、恵美さんなにか呼んでますぜ」
矢崎「いいんだ。無視してろ」
徹「へえ」

 麻衣子がフォローに入る。

麻衣子「おじさんたちも仲間なんだから入ったらー?」
徹「あいつ自分たちをおじさんなんて呼んでますぜ」
矢崎「いいから。無視してろ」
徹「へえ」

 そこに、将が声を上げる。

将「矢崎くん、入りなよ。その方がいい」
矢崎「…」
将「矢崎くん」

 将の言葉は穏やかだが断定的で、迷いがなく、その場によく響いた。
 矢崎は黙って列の中に加わる。もちろん徹もそれに続く。

慎平「全員揃ったな」
みどり「ねっ♪」
修「みんな枠に入ってるよな。列は乱れてない?」
千夏「よし。じゃあ撮ろーっ!」

 将は集合写真のカメラポジションに立ち、カメラを構える。

将「よし、じゃあいいかな・・・うん、全員ちゃんと入ってる」

 将はカメラのファインダーを覗いている。
 将はカメラのファインダーを覗いている。
 将はカメラのファインダーを覗いている。
 将は…

慎平「早く写せよ!じれったいなあ」
将「いや…なんか、みんなの表情が固いなと思って」

 皆は周りの人たちをそれぞれ見回す。

皆神「表情が硬いそうです」
恵美「そうねえ」
麻衣子「将さん、どうすればいいとおもいますか?」
将「そうだなあ…全員首でも回してください」
徹「はっ?」
千夏「どういう意味ですか」
将「そのまんまの意味です。首をぐるぐると、回してください」

 将の言葉には、何故か逆らえない力があり、矢崎も、上河でさえ従わざるを得ないのである。
 大人(?)が10人並んでぐるぐる首を回す。なぜか全員が時計回りだ。そろっている。
 妙に滑稽で、笑える光景である。
 そのまま4、5秒経過しただろうか、

将「ストップ!」

 間髪入れず、

将「撮るよ」

 10人はそれぞれ別の方向に顔を向けている。
 不平不満が一気に噴出す。わいがやわいがや。

恵美「やだーっ」
慎平「こんなん撮ってどうするんだよ」
みどり「水原くん大じょぶ?」
麻衣子「将さん、どうしたんですか?」
将「もういいんですよ、どこ向いたって。頭固いなあ。もう撮ります。ただしレンズだけは見ないでくださいね」

 10人は低い声で返事する。
 そうして、将はシャッターを切った。

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