ロシアのウクライナ侵攻に世界が揺さぶられる中での憲法の日だ。日本国憲法は3日、施行から75年を迎える。

 侵攻は戦争の残虐さをこれでもかと知らしめた。約2カ月間で民間人数百万人が国を追われ、判明しているだけで2万人超が犠牲になった。

 各国の武器支援を受けて徹底抗戦のウクライナに対し、プーチン大統領は日ごとに「核の脅し」を強める。今月9日の対独戦勝記念日に開戦宣言との見方もあり、戦闘の長期化と激化、民間人の一層の犠牲が懸念されている。

 戦争を終わらせるには非常な痛みと困難を伴う。20世紀に2度の大戦を経験した世界だが、21世紀に入っても戦火が収まる気配はない。

 そんな国際社会で平和を維持するには、戦争を始めないことが最も重要だ。戦争違法化のうねりを背景に、過去の教訓を踏まえつくられたのが日本国憲法だった。

 前文では「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにする」と明記。さらに「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」と続く。

 これら前文と9条が示すのは徹底した日本の平和主義だ。武力を放棄し、話し合いで紛争を解決してきた手腕は、国際的にも高く評価されている。危機の時にこそ、この理念を再確認し、新たな国際秩序形成に向け日本として独自の役割を果たすべきだ。

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 専守防衛について岸田文雄首相は1日のテレビ番組で「憲法や平和安全法制、専守防衛といったわが国の方針は守りながら、その枠内で何ができるか考えていきたい」と述べた。

 ただ、自民党は相手国のミサイル発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と改称するよう提言。国内総生産(GDP)の1%程度に抑えてきた防衛費の倍増方針も示されており、戦後の国是だった専守防衛が骨抜きにされる恐れがある。

 自衛隊の南西シフトも急速に進む。与那国島、宮古島、石垣島に続き北大東島への配備計画も浮上している。

 一方で周辺国との緊張は高まるばかりだ。北朝鮮のミサイル発射訓練や中国の東シナ海などでの軍事的な動きは近年、加速度的に増している。

 自国の安全を高めようと軍事強化した結果、衝突につながる緊張の増加を生み出す「安全保障のジレンマ」に陥っていないか。

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 共同通信社がウクライナ侵攻後の3~4月に実施した世論調査で9条改正の必要性を「ある」とした人は50%、「ない」48%と賛否が拮(きっ)抗(こう)した。昨年に比べると9条堅持の意見がわずかに増えた。国民の冷静な判断がうかがえる。

 戦争は現実に起こり、いったん起きれば甚大な犠牲と破壊で日常は奪われ、多くの命が失われる。

 国際社会を見れば、軍事力や抑止力の強化だけでは戦争を回避できないことは一目瞭然だ。緊張が高まる今こそ、平和主義に立った上での取り組みが最も重要だ。