今はない、三宮に在ったジャズ喫茶バンビ(バンビー)。
60年~70年代、ジャズが世界中でもっとも輝いていた時代が喫茶バンビの全盛だったという。そこには、たくさんのユニークな人達の出会いやすれ違いがあったらしい。中島らも氏がもっとも有名で、小説の中によく「バンビ」が出てくる。ヒロク二さんにその頃の話を伺うと、2階はドラック中毒のたまり場だったのは本当らしい。ヒロク二さんがいうには、「睡眠薬をやっている奴は、身体が弛緩してだらっとしてるんだよ。目も虚ろでね。傍目でみてると単にだらだらしてるみたいに見える。薬剤というのは嫌だね」という。
ヒロク二さんはジム・ホールの「スウェーデンから愛をこめて」をよくリクエストしていたという。リクエストはいつも決まっていたそうです。他には、ホレス・シルヴァー、ウェイン・ショーター、マイルス・ディヴィス、ビル・エヴァンス、ウェス・モンゴメリー、チャーリ・ミンガス、ケニー・ドーハムをよく聴いたと話してくれました。
バンビのマダムと。
ヒロク二さんは、このジャズ喫茶を人との連絡を取る‘事務所’にしていたらしい。ここで電話をよく取り次いでもらっていたとも。わたしはよく知らないが、ヒロク二さんはとてもモテタらしい。信じられないという顔をするわたしに、ヒロク二さんの悪友達が「本当やねん」と力説してくれた。このジャズ喫茶に入り浸っていた現在60歳前後の方、この顔に見覚えはありませんか?
初めてこの店に行ったのは、そんな時代がすっかり終わって静かな喫茶店だった。内装の雰囲気が古臭く、静かにかかっている音楽の中、歩くと木の床はコツコツと音がした。2階にいく階段を見上げると壁のデザインというか、在り様を見て、江戸川乱歩の世界みたいと思ったのでした。珈琲は濃くて美味しいとは思えず、わりと大きな角砂糖が2つ添えられていた。怪しい感じもあるがひっそりとしていて静かな時間を過ごすのに最適な喫茶店と思っていた。それも23年前のこと。
次に、このバンビに行くのは、ヒロク二さんに貸した画集を返してもらうため必死になってダッシュで行った。バンビはヒロク二さんが指名した喫茶店だ。ここで画集を返してもらって縁を切るつもりだったが、心外な結末になるわけです。