タイトル不明 色鉛筆作品
ヒロクニさんはまだ風邪を引いている。
熱は下がったが、まだ頭がはっきりしていない。こんな風に絵を描かない日が続くのは、初めてのことだ。
熱が出てうなされていたときは、アイスクリーム(なんと手作り!!)や水、粥を食べさせてあげていた。口もとまで何もかも運んで「優しく」を努力していた。それが、ヒロクニさんの「あんたは、気がきかない人だね」の言葉がわたしの心に刺さり、またまた、わたしの意地悪心を刺激した。
なんでも嫌だというヒロクニさんは、作ったものは、一口も食べられない状態なのだから、水分補給だけはしてもらわないと、水飲みで出来る限り水を飲ませた。「いやだ。いやだ」ばかり言う口に水を飲ますわたしは、拷問しているわけじゃないのに、極悪人。しかし、ヒロクニさんの寝顔を見ていると切ない気持ちにもなる。
子供の頃、風邪をひくと、熱のせいか頭がボゥ~として、母が冷たいタオルを代えてくれる瞬間とか、いつもと違う態度、つまり普段と違った優しさがヒタヒタとわたしのまわりで行ったり来たりする甘いムードを思いだす。そのムードのせいか、頭の中は楽しかった思い出、海に行ったときの砂浜や波の感触、父が蛸を捕らえた姿がおぼろげに思いだされたり、徳島での庭園での生活。沢蟹の群れや、大きなスイカ、線香花火のジジジ・・・という音。そして、青い空はわたしに「こんにちは」と言い、庭園は夢の庭とでも言いたいぐらいの安心感があったことを思いだす。熱とともにそれらの思い出に包まれる。
ヒロクニさんも、風邪を引いた時は、疎開先の夕日や母と歩いた夜道、島での月夜、祖母と過ごした縁側の様子や、いつも縁側にあった石、思い出をよく語る。急に中学の時に読んだ本のことを話出し、今やそんな本を読む人もいなくなって淋しいと言う。
その本は「サンドブーヴ」小林秀雄訳と「ラマルティーヌ」。
どちらもロマン派の人で詩人なのです。ヒロクニさんの中学生時代もなんだか謎めいているなぁ。
風邪の後半では、「もう僕は死ぬのかな?」と言われても
「文句いっているうちは、死なないから大丈夫」「本当に死ぬときは、ありがとうって人は言うものなの!!」
「死にません」。わたしは、インド人になった気持ちで「ノープロブレム」を繰り返すのであった。
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