遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉 237 小説 夢の中の青い女 他 骸骨のうた

2019-04-14 12:31:00 | 日記

          骸骨のうた(2019.4.2日作)

 

   ギイコタン ギイコタン

   おいらは骸骨 骨だらけ

   歩くたんびに 骨が鳴る

   ギイコタン ギイコタン

   だけど昔は この俺も

   人間様と おんなじた゛ 

   丸いお眼々に 可愛いお口

   エクボがちょっぴり いかしてた

   ギイコタン ギイコタン

   おいらは骸骨 骨だらけ

   ーーーーー

   ギイコタン ギイコタン 

   おいらは骸骨 肉がない

   骨の間を 風が吹く

   ギイコタン ギイコタン

   だれがおいらを こう変えた

   心忘れた 人の世の

   巷に未練が あるのじゃないが

   夜更けに墓場を 抜けて来た

   ギイコタン ギイコタン

   おいらは骸骨 骨だらけ

 

 

         -----

         (3)

 

 硫酸がこのすえたような、ハンカチを当てていてもその上から鼻を突いて来る、強烈な匂いを発散しているのだろうか ?

 それとも、早くも街の中には死体の山が築かれているのだろうか ?

 霧の夜には死人が多く出ると言う。

 その死体が臭気を発散しているのだろうか ?

 霧の夜に死人が多く出ると言うのは、霧が人々の口を塞いでしまうためばかりではないのではないか。現に自分がそうではないか。この知り尽くした新宿の街の中で、奇妙に不安になっている。不安になる理由など何もないのに・・・・・。

 この霧が晴れればまた、いつもの日常が戻って来る事は充分に理解している。霧の中で駅がなくなってしまう訳ではない。駅へ行って電車に乗れば、一時間足らずで自宅へ帰る事が出来るのだ。

 それでいて、この、深い穴の中へ落ち込んでゆくような奇妙に不安なな感覚は、いったい何なんだ ろう ? 霧の中で人々との交流が断たれてしまっているせいだろうか ?

 そう言えばさっき、ラジオで言っていた。

「こんな霧の深い夜には、厳重に戸締りをして、愛し合う者同士、抱き合って眠るように気象庁では呼び掛けています」

 ある識者はこうも言っていた。

「霧の深い夜にはセックスが最適なんです」

 セックスは体と体で相手を確かめ合う事が出来る。たとえ、視界をふさがれていても、言葉を遮断されていても、他者との交流を持つ事が出来る。そして、その肉体で確かめ合う喜びは、このような孤独感に満たされた夜にこそ、一層、大きくなるに違いないのだ。 恋人たちは今、誰もみんなが、公園のベンチで、路上の片隅で、熱い思いのセックスにふけっているのだろうか ? たぶん、それがこんな寂しい夜には最良の方法なのだという事を彼等は本能的に知っているに違いないのだ。

 大木は一人、この深い霧の夜の中を歩きながら、俺はだが、孤独ではない、と思う。

 自分には愛し合い、信じ合う事の出来る家族がいる。新宿駅で国電に乗り、四十分程すれば、その家族が住む街に着く事が出来る。

 帰る場所もあれば、信じ合える人間もいる、その思いが、霧の中を歩きながら、奇妙な不安感に満たされて来る大木の心を支えてくれる。

 大木はなお、一寸の先も見えない霧の中を歩いて行く。ビルの影が突然、ヌウッと眼の前に現れてはすぐに消えて行く。色彩を識別する事も、形を判断する事も出来ない。総てか乳白色の霧の中に溶けてしまい、そのものの持つ存在感を掴む事も出来ない。

 大木は、「青い女」を出てから左の方角へ行き、最初の信号を右に折れ、その突き当りの信号を今度はまた左へ折れて行く、というように、たとえ、周囲の状況が見えなくても駅への道は熟知しているつもりでいた。そして、確かに最初の信号を右に曲がった。その道を真っ直ぐ歩いて行けばまた、信号に突き当たるはずだった。ところがこの時、大木の感覚の中では奇妙な現象が起こっていた。自分がまるで反対の方角へ歩いて行くような不思議な錯覚に捉われていた。自分が次第に駅から遠ざかっているような気がしてならなかった。しかも霧はますます濃度を増していた。粘り付く感触があからさまにぬめぬめと感じられた。大木はだが、奇妙な感覚の中でこの感覚に従えば、自分はますます駅から遠ざかってしまう、と言う気がして、自分を納得させながら歩いて行った。

 霧の臭気はさらに強くなっていた。その臭気で思わず咳き込んだ。

 眼が染みるように痛かった。

 硫酸のせいに違いない・・・・・。

 突然、眼の前、霧の中に月の暈のように溶けた明かりが見えて来た。

 大木は信号かと思い、進んで行った。するとそれはまた、同じ距離に遠退いた。

 硫酸に傷め付けられた眼の錯覚だったのだろうか ?

 大木は不安と共に呟いた。

 信号灯はいったい、どうしてしまったんだろう ?

 ことによるとあるいは、自分が錯覚だと思っていたあの感覚が、実は正しい感覚だったのてはなかったのか ?

 霧のために正常な判断力さえもが狂わされてしまったのだろうか?

 それとも、酔いのため ・・・・・?

 大木はしばし、霧の中に立ち止まっていた。

 新宿駅は霧の中に溶けてしまったのだろうか ?

 それからまた、トボトボと歩き出した。自分はいったい、何処へ行くのだろう ?

 この時大木には、自分の家が、家族との距離が、何故か無限に遠くに感じられて、自分が闇の中に落ちて行くような感覚に捉われた。孤独感が更に増して、深まった。

 この深い霧の中、今、自分の周囲には誰もいない。自分は霧の中にただ一人、孤立している。いったい、この霧はいつ晴れるのだろう ?

 大木はそれでもトボトボ歩いて行く。すると今度は大木の前に、林立するビルの影がおぼろげながらにも見えて来た。おや ! と大木は思った。あれは新宿駅の建物ではないか・・・・・

 ようやく安堵の思いで呟くと、なおも勇んで歩いて行った。

 それにしても、ビルというビルの建物の明かりがことごとく消えているのは何故なんだろう ? やっぱり、この深い霧のせいでみんな、帰ってしまったという事なのだろうか ?

 さっきまでは全く見えなかったビルの影が今では、おぼろげながらにも見えてて来るのはひょっとしたら、霧が少しずつにでも薄くなって来ているという事なのだろうか ? もし、そうだとすれば、これに越した事はない。

 今度は眼の錯覚などではなかった。歩いて行く大木の方へビルはどんどん近付いて来る。

 気が付いた時には大木は、林立するビルの谷間に立っていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

   


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