心温まるアクションコメディ
この映画の主人公は、イタリアの田舎町に住む気のいい自動車修理工のギド(テレンス・ヒル)です。ある日、アメリカに渡って大企業の社長となった叔父が亡くなり、ギドは莫大な遺産を相続することになります。ただ、相続するには20日以内にサンフランシスコへ行き、書類にサインするという条件がついていました。会社の横取りを企む重役(ジャッキー・グリースン)がギドの旅を妨害します。果たしてギドは遺産を相続することができるのか…というのが粗筋です。
で、飛行機を使えばすぐに済む話だと思いますよね。ところが、重役の計画を知らず、能天気なギドは、せっかくだからイタリア人の先祖が渡米したコースをたどろうと考えて船や鉄道でのんびりと移動するのです。そこに重役の邪魔が入る隙間ができる…というわけで、このあたりに作り手たちの遊び心が感じられます。
中盤からはギドと重役一味が、アメリカ大陸を横断しながら追いつ追われつのドタバタを繰り広げますが、その渦中でギドを助けるさまざまな人々が登場します。演じるは、スリム・ピケンズ、チル・ウィルス、ウィリアム・レッドフィールド、ディック・ミラー、RG・アームストロング…といった名脇役たち。彼らの取った行動が愉快なラストシーンにつながるのでお忘れなく。
この映画は、カーチェイスなどの激しいアクションも見どころですが、全体的にはハートウォーム・コメディの要素が強い作品です。それは、遺産相続に期日指定の条件がつくという点では、バスター・キートンの『セブン・チャンス』(25)を、イノセントな若者に莫大な遺産が転がり込むことで起きる騒動という点ではフランク・キャプラの『オペラハット』(36)を、という具合に、コメディの名作を下敷きにしているからでしょう。ギドと関わった人たちが総登場するラストシーンの楽しさもキャプラの映画をほうふつとさせます。
主人公のギドを演じたヒルは『ミスター・ノーボディ』(74)などのマカロニ・ウエスタンでも活躍しましたが、この映画では彼のとぼけた感じの二枚目半のキャラクターがよく生かされています。広川太一郎の日本語吹き替えも実に楽しいものでした。
また、この映画の監督・脚本のジョナサン・カプランは、もう一本『爆走トラック'76』(75)というB級アクションの佳作を70年代に残しています。こちらも面白いですよ。