田中雄二の「映画の王様」

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『明日なき追撃』

2016-01-04 09:15:04 | All About おすすめ映画

『明日なき追撃』(75)

異色コメディ西部劇

 この映画の脚本はウィリアム・ロバーツが書いています。彼は黒澤明の『七人の侍』(54)を翻案した『荒野の七人』(60)や、三船敏郎扮する侍が西部で大活躍する『レッド・サン』(71)といった異色西部劇を手掛けた人です。それだけに、この映画には一筋縄では行かないどこか風変わりな感覚があふれています。

 まず、監督、主演のカーク・ダグラスが、上院議員を目指す胡散くさい連邦保安官というアンチヒーローを演じているところがだましの第一歩。この映画の原題である「Posse」とは、連邦保安官が治安維持のために召集した犯人追跡隊のことを指しますが、この保安官と、彼が売名のために捕らえたブルース・ダーン扮する悪党の立場が逆転していくさまなどに、異色コメディとしての雰囲気が漂い始めます。そして保安官は常軌を逸した行動を取るようになり、本性をあらわにしていきます。

 この映画、公開当時はあまり話題に上りませんでしたが、今見直すと、無法の時代から、新聞、鉄道、電信といった文明が幅をきかせる時代へと変化しつつある西部を舞台に、ベトナム戦争やウォーターゲート事件による政治不信という製作当時の世相を巧みに反映させていることに気付きます。

 フレッド・J・コーネカンプのカメラワーク、『男の出発』(72)同様、ルーク・アスキュー、ボー・ホプキンスなど、70年代に活躍した脇役たちが登場するのも時代を表しています。

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