田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『SF/ボディスナッチャー』

2016-01-25 09:15:24 | All About おすすめ映画

『SF/ボディスナッチャー』(78)

人間不信の恐怖

 1955年に発表されたジャック・フィニイの小説『盗まれた街』の2度目の映画化です。最初の映画化となったドン・シーゲル監督の『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56)には、赤狩り、冷戦といった当時の世相が巧みに取り入れられ、宇宙生命体によるボディスナッチ=“人体乗っ取り”の形を借りて、マスヒステリーや人間不信(家族や隣人が外見はそのままで別人になる)の恐怖が描かれていました。

 このフィリップ・カウフマンが監督したリメーク版になると、そうした設定に加えて、70年代後半という時代を象徴する環境問題が絡められています。登場する俳優の中で一番不気味な感じがするドナルド・サザーランドに、最後までボディスナッチに抗う男を演じさせた点が逆説的で面白いです。公開当時は、人間と犬が合体して複製されてしまった“人面犬”の登場も話題になりました。

 この手の映画や吸血鬼ものなどを見ると「迷わず、逆らわずに同種になった方がむしろ幸福なのではないのか」とも思いますが、実はそう思わされることの方が怖いのかもしれません。

 この映画の後も、同じ原作を使って、アベル・フェラーラ監督の『ボディ・スナッチャーズ』(93)とオリバー・ヒルシュビーゲル監督の『インベージョン』(07)が作られています。この原作が何度も映画化されるのは、時代や背景がどう変化しようとも、一番怖いのは人間不信だという真理が根本に描かれているからでしょう。

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『信長協奏曲』

2016-01-25 08:41:59 | 新作映画を見てみた

わずかながらも期待したのだが…



 戦国時代にタイムスリップした高校生のサブロー(小栗旬)は、自分と瓜二つの織田信長(小栗二役)と出会う。そして病弱で家を捨てた信長に代わって、信長として生きることになる。

 『戦国自衛隊』(79)の個人版ともいうべき、歴史に無知な現代の高校生が信長となり、戦国時代で活動したらどうなるか…という発想は、自分が信長になった気分でプレーする歴史シミュレーションゲーム的なもの。だが、そこで大事になるのは戦国時代の基本的な約束事やディテールがしっかりと設定されているかということ。タイムスリップものならばなおさら行った先の時代描写が大事になる。

 その点、この映画の作り方はひどいものだった。登場人物の言葉遣いやキャラクター設定も含めて、フィクションと歴史的な事実を中途半端に混ぜ合わせるからおかしなことになる。この上ない違和感を抱かされ、感情移入ができなかった。これは、原作漫画もテレビドラマも全く見ていない自分ような者が、一本の映画として見た故に抱いた違和感なのか。

 その上、映像的にはスローモーションを多用し過ぎるからテンポがずれること甚だしい。これは最近の若い監督たちの悪しき傾向だと思う。小栗の二役もあまり生きてはいない。新種のタイムスリップものとして、わずかながらも期待したこちらがばかだった。

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