『SF/ボディスナッチャー』(78)
人間不信の恐怖
1955年に発表されたジャック・フィニイの小説『盗まれた街』の2度目の映画化です。最初の映画化となったドン・シーゲル監督の『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56)には、赤狩り、冷戦といった当時の世相が巧みに取り入れられ、宇宙生命体によるボディスナッチ=“人体乗っ取り”の形を借りて、マスヒステリーや人間不信(家族や隣人が外見はそのままで別人になる)の恐怖が描かれていました。
このフィリップ・カウフマンが監督したリメーク版になると、そうした設定に加えて、70年代後半という時代を象徴する環境問題が絡められています。登場する俳優の中で一番不気味な感じがするドナルド・サザーランドに、最後までボディスナッチに抗う男を演じさせた点が逆説的で面白いです。公開当時は、人間と犬が合体して複製されてしまった“人面犬”の登場も話題になりました。
この手の映画や吸血鬼ものなどを見ると「迷わず、逆らわずに同種になった方がむしろ幸福なのではないのか」とも思いますが、実はそう思わされることの方が怖いのかもしれません。
この映画の後も、同じ原作を使って、アベル・フェラーラ監督の『ボディ・スナッチャーズ』(93)とオリバー・ヒルシュビーゲル監督の『インベージョン』(07)が作られています。この原作が何度も映画化されるのは、時代や背景がどう変化しようとも、一番怖いのは人間不信だという真理が根本に描かれているからでしょう。