原題は「私たちの闘い」。ベルギー出身のギヨーム・セネズ監督によれば、主人公が仕事と家庭との釣り合いを見つける闘いを描いているから、そう名付けたのだという。
2人の子供の良き母でもあった妻が突然家出する。理由も分からないまま、仕事と子育てに追われる夫(ロマン・デュリス)の悩みを描く映画と聞いて、
『クレイマー、クレイマー』(79)を連想する人は多いはず。
40年前の若き日の自分は『クレイマー、クレイマー』の家出した妻(メリル・ストリープ)を見て、随分身勝手な…と思ったものだが、今は自分も結婚し、年を取ったので別の感慨が浮かぶ。こうした問題は、誰が悪いというわけではない。だから余計に切なく苦しいのだと。
ただ『クレイマー、クレイマー』と大きく違うのは、前者の家庭が富裕層だったのに比して、この映画はいわゆる労働者階級の家庭を描いているところ。だから主人公の職場の問題なども描きながら、仕事とは? 働くこととは?を見る側に問い掛ける側面もあるし、労働問題を入れ込んだり、BGMを使わないところなどは同郷のダルデンヌ兄弟監督の映画と重なるところもある。
また、『クレイマー、クレイマー』はもちろん、それに影響を受けて作られたであろう市川崑の
『幸福』(81)のことも思い出した。脚本は女性、残された子供は2人、失踪後妻は全く姿を見せない点などもこの映画と類似していたからである。
『文化の泉 シネマアベニュー』から『クレイマー、クレイマー』(2011.11.1.)
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