田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『虎鮫島脱出』

2019-03-28 12:13:20 | 映画いろいろ
『虎鮫島脱出』(36)(2007.8.29.)



 けがをしたリンカーン大統領暗殺犯を正体を知らぬまま治療したことから、暗殺の共犯者の濡れ衣を着せられ孤島の刑務所に送られた医師の過酷な運命を描いた社会派ドラマ。監督はジョン・フォード。

 主人公の医師を演じるワーナー・バクスターが結構頑張っている。脇役のハリー・ケリー、ジョン・キャラダインも良。『ドクター・ブル』(33)『プリースト判事』(34)『周遊する蒸気船』(35)の“ウィル・ロジャース三部作”に続いて、またも黒人のキャラクターがいい。

 暗殺→無実の罪→孤島の刑務所への投獄→脱獄未遂→伝染病の流布→主人公の再起…とまるでロールプレイングゲームのような波乱万丈の展開。だが、これらは製作者のダリル・F・ザナックの横槍の結果とか。フォードは自らを揶揄して「自分はハリウッド一の交通整理のおまわりさんだ」と言ったらしい。主人公の妻役のグロリア・スチュアートは『タイタニック』(97)に、ケイト・ウィンスレットが演じたヒロインのその後の老婆役で出ていた。
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『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』

2019-03-28 08:31:52 | 新作映画を見てみた


 結婚50年を迎えた老夫婦(藤竜也、倍賞千恵子)の飼い猫チビが突然いなくなる。それを機に夫婦間の溝が露わになり、妻は離婚を考え始めるが…。

 西炯子の人気漫画を小林聖太郎監督が映画化。『毎日かあさん』(11)『マエストロ!』(15)でユニークな家族と隣人たちを丁寧に描いてきた監督ならでは映画になっているが、今回は倍賞と藤という、かわいらしさとダンディの残り香を漂わせる2人を得たことが映画のポイントになっている。映画を見ると、長いタイトルにもそれなりの意味があることに気づく。

 もっとも、藤が演じた、家のことはなにもしない、無口でええかっこしいの昭和の親父はいまや絶滅危惧種だろう。この後、2人はどうなる…というラストシーンが余韻を残す。
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ジョン・フォードとウィル・ロジャース『ドクター・ブル』『プリースト判事』『周遊する蒸気船』

2019-03-28 06:10:36 | 映画いろいろ
『ドクター・ブル』(33)(2007.8.27.)

 田舎町で孤軍奮闘する医師を主人公にした人間喜劇だが、テンポの悪さが目立つ。これは、この映画が初めての顔合わせとなったジョン・フォードとウィル・ロジャースがまだお互いの良さを生かせなかった結果なのだろうか。ロジャース扮する医師の行動にも謎というか、あいまいな点が多く、彼が本当に好人物なのかどうかもはっきりとしない。加えて、見る者の神経を逆なでするような住民たちのキャラクターにいらいらさせられるところもある。この映画にはフォードの魔法が見られない。

『プリースト判事』(34)(2007.8.28.)

 南部ケンタッキーを舞台にした、法廷人情劇。スティーブン・フォスターの「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」が流れるとケンタッキー・フライドチキンを思い出す。さもありなんこの映画にもチキンが盛んに登場する。本当にアメリカ南部はチキン料理が名物なんだと改めて知らされた。裁判の結果なんてどうでもいいようなラストの処理が面白い。フォードとロジャースのコンビも2作目で段々となじんできた感じがする。

『周遊する蒸気船』(35)(2007.8.26.)

 19世紀末、ミシシッピー川を往来するおんぼろ蒸気船を買ったドク・ジョン・バリーが主人公。ジョン・フォードとウィル・ロジャース、コンビの最終作。映画全体がロジャースの軽妙な持ち味を生かした軽快なテンポで貫かれる心地良さを感じることができる。脇役たちのキャラクターの面白さ(バートン・チャーチルの新生モーゼ! ステッピン・フェチットの変な黒人)も抜群。
 特に、ラストの、自分たちが乗っている船を壊し、怪しい酒や蝋人形までも燃料にするというめちゃくちゃな展開は、SLを壊して燃料にする『キートンの大列車追跡』(26)『マルクスの二挺拳銃』(40)にも通じる楽しさがある。ところがこの映画、実は製作者のダリル・F・ザナックによって大幅にカットされ、フォード本人は不満だったという。だから映画は不思議だ。

 ウィル・ロジャースは、アメリカ最高のユーモリストとして親しまれ、1932年には大統領候補に指名されたが、1935年に飛行機事故で亡くなった。『幽霊紐育を歩く』(41)は、彼の死を惜しんで作られたとも言われる。淀川長治先生が座右の銘とした「私は嫌いな人とまだ会ったことがない」はロジャースの言葉だ。
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