田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ハリケーン』

2019-03-27 19:39:23 | 1950年代小型パンフレット
『ハリケーン』(37)(1991.6.)



 南太平洋のマヌクラ島。一等航海士のテランギ(ジョン・ホール)は酋長の娘(ドローシー・ラムーア)と結婚するが、航海先のタヒチで白人といさかいを起こして投獄される。

 一応クレジット上はジョン・フォード監督作となってはいるものの、いつもの“白と黒の魔法”が見られず、ひょっとして製作者のサミュエル・ゴールドウィンにとやかく言われて嫌になって、途中で共同監督のスチュアート・ヘイスラーに任せてしまったのでは…などと勘繰りたくなってしまった。

 実際、8年も投獄されていたのに元気いっぱいの主人公の姿は今の目から見れば奇異なものに見えてしまう。まあ、50年以上前に作られた映画に対して、いまさらとやかく言うのも野暮だと思うし、単純にラストのハリケーンのスペクタクルシーンに驚きながら見てあげるのが筋なのかもしれないが、フォードの映画に特別な愛着を持つ者としては、どこかに責任転嫁したくなってしまうところがあったのだ。

 さて、この映画、79年にミア・ファロー主演でリメークされたが未見。オリジナルがこれなら、あえて見る必要もないとは思うが、どうなのだろう。

ドローシー・ラムーア



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『栄光何するものぞ』

2019-03-27 15:12:35 | 1950年代小型パンフレット

『栄光何するものぞ』(52)(1992.1.)



 第一次世界大戦下のフランスの田舎町に、新任軍曹クワート(ダン・デイリー)がやってくる。彼と部隊の大尉フラッグ(ジェームズ・キャグニー)は昔からのライバルだった。そんな2人が同じ娘(コリンヌ・カルベット)に恋をする。

 ラオール・ウォルシュの『栄光』(26)をジョン・フォードがリメークしたミュージカル風のコメディだが、この映画に関してはフォードお得意のペテンがいささか空回りした感がある。

 フォードは、ウィリアム・ワイラーやビリー・ワイルダーとは違い、その作品の全てが良作とは言えず、失敗作も作った監督である。例えばこの映画のように、軍隊や騎兵隊に肩入れし過ぎる傾向が悪い方に出た場合、あるいは明らかに気分が乗らずに撮ったと思われる場合は、彼独特のペテン味が薄れて、欠点の方だけが目立ってしまうことがある。

 だからこの映画の、本来は楽しさあふれるはずのキャグニーとデイリーのやり取りも、『静かなる男』(52)のジョン・ウェインとビクター・マクラグレンほどには盛り上がらず、ただのおふざけのように見えてしまうところがある。

 まあ、そうしたフォードの分かりやすい性格を、愛すべきものとして受け止めると、この映画も違った捉え方ができるのかもしれないが、残念ながら贔屓目に見ても傑作とは言い難い印象が残ってしまった。

ジェームズ・キャグニー

パンフレット(53・外国映画出版社)の主な内容
原作者マクスウェル・アンダスン/解説/コリンヌ・カルヴェ、ジェームス・キャグニイ/鑑賞講座ジョン・フォード得意の痛快な男性劇(大黒東洋士)/「栄光何するものぞ」への勧誘

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『タバコ・ロード』

2019-03-27 11:29:56 | 1950年代小型パンフレット
『タバコ・ロード』(41)(1992.1.)



 1930年代の米ジョージア州を舞台に、不毛の土地に生きる極貧の農民一家の暮らしを、皮肉とユーモアを交えながら描く。アースキン・コールドウェル原作の舞台劇をジョン・フォードが映画化。日本では製作から47年たった88年になってようやく公開された。

 この映画が戦後も公開されなかった理由は、アメリカの貧困や猥雑さを描いているからだという。つまり日本人にアメリカのいいイメージだけを植え付けたいと考えた進駐軍にしてみれば、この映画は教育上よろしくなかったというわけである。

 その理由にはあきれるが、その半面、「こういう映画にこそフォード本来の魅力が…」というのは、年月を経た今だからこそ言えるセリフなのかもしれないとも思った。何故なら、もし当時ちゃんと公開されていたとしても、失敗作として捉えられていたのでは…と思えるほどの異色作だったからである。

 フォードの映画にしては珍しく、感情移入しにくい貧しくぐうたらな一家が描かれ、ストーリーもあちこち横道に逸れ、真正面から「お見事!」とは言いにくい映画なのである。ところが、その端々に散りばめられたフォード独特のユーモアとペーソス、あるいは見事な映像美に乗せられて、結局は、何かいいものを見せてもらったような気にさせられる。ある意味、名監督とは希代のペテン師なのかもしれないと思わされた。

ジーン・ティアニー


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