マックィーン、最後の雄姿
この映画は、その機敏な身のこなしで希代のアクションスターとなったスティーブ・マックィーンの遺作です。彼はこの映画で、現代に生き残った実在の賞金稼ぎ“パパ”ことラルフ・ソーソンを演じています。見どころは、もちろんアクション場面なのですが、撮影中、すでにがんに侵されていた彼の動きに往年の切れはありません。
そればかりか、あのマックィーンが老眼鏡を掛け、車の駐車に何度も失敗し、屋根から屋根へのジャンプを躊躇し、走りながら息を切らせるシーン…、そして「疲れた」「年を取った」と弱音を吐くセリフなどが目立ちます。こちらは「何もそこまで見せなくとも…」と思うのですが、実はこうしたシーンにこそ「俺は最後まで頑張るぜ」という彼一流のメッセージが込められているのです。そして衰えた姿をさらしながら、スターとしてのイメージを観客の心に刻み続けるため、病と闘いながら撮影した彼の役者根性に心を打たれます。
映画は、生まれたばかりでくしゃみをしたわが子に「ゴッド・ブレス・ユー(お大事に)」と声を掛け、観客に向かって振り向くマックィーンのストップモーションで幕を閉じます。これは観客に向けた彼の遺言だったのではないでしょうか。
クールな役を演じることが多かったマックィーン。そのせいでしょうか、この映画のパパというキャラクターは、彼が演じた役の中で、最も人間臭くて正直なものとして心に残ります。スティーブ・マックィーンがフィルムに刻み付けた最後の雄姿を堪能してください。ミシェル・ルグランの素敵な音楽も耳に残ります。
明治人の開拓精神とバイタリティ
1970年代後半、東宝は『八甲田山』(77)『聖職の碑』(78)と新田次郎の原作を続けて映画化しました。この映画もそのうちの一本です。
明治中期、飢餓に苦しむエスキモー(イヌイット)のために、新天地ビーバー村を築いた日本人フランク安田の波瀾万丈の半生を描いたもので堀川弘通が監督をしています。
新田作品に共通するテーマは、実話を基に、極地や山岳を舞台にして、世間からは黙殺されながらも何事かを成し遂げた無名の男たちを描くというもの。
この映画で描かれる、単身アメリカの貨物船に乗り込み、イヌイットの村に住みつき、金鉱を発見し、イヌイットを大移動させるというフランクの人生は、まさに事実は小説よりも奇なりの面白さがあります。そして明治人の開拓精神とバイタリティあふれる生き方に胸を打たれます。
『八甲田山』で高倉健と共に主役を張った北大路欣也がフランクを演じ、語り部としてナレーションも担当しています。日本人の俳優が平気でイヌイットを演じ(フランクの妻になる三林京子が好演)、最後にインディアンの族長役で丹波哲郎が出てくるあたりはかなり強引なのですが、これが良くも悪くも70年代の日本映画が持っていた力技なのです。