田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ある日どこかで』

2016-02-12 08:46:03 | All About おすすめ映画

『ある日どこかで』 (80)(1983.7.11.大井武蔵野館.併映は『バンデットQ』)

ロマンチックな時間旅行を

 クリストファー・リーブ演じる作家が、昔の女優(ジェーン・シーモア)に恋をして1980年から1912年へと時間旅行をするロマンチックな映画です。監督は『ジョーズ2』(78)を撮ったフランス出身のヤノット・シュワルツ。公開時にはあまりヒットしませんでしたが、その後、名画座、テレビ、ビデオと移りながら、徐々にカルト的な人気を得ていった不思議な映画です。

 この映画で最も印象に残るのは、ラフマニノフの「ラプソディ」(パガニーニの主題による狂詩曲)を効果的に使い、甘く美しいテーマ曲を作曲したジョン・バリーの音楽でしょう。そして1912年当時の衣装、舞台となったグランドホテル(ミシガン州マッキナック島に実在)がクラシカルな雰囲気を盛り上げます。

 原作・脚色はリチャード・マシスンですが、念じるだけでの時間旅行、時を超えた恋愛、ノスタルジーに満ちた世界という点では、ジャック・フィニイの『ふりだしに戻る』『時の旅人』が思い浮かびます。

 また、この映画が最も強く影響を受けたのは、ジョセフ・L・マンキーウィッツの名作『幽霊と未亡人』(47)だと思われます。描かれた時代は異なりますが、男女の設定を入れ替えると細部に共通点が多く、ラストシーンもそっくりです。興味のある方は、こうした本や映画にも目を通してみてはいかがでしょうか。

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『世にも不思議なアメージング・ストーリー』

2016-02-11 10:32:30 | All About おすすめ映画

『世にも不思議なアメージング・ストーリー』(86)

80年代が懐かしく思い出されるテレビシリーズ

 スティーブン・スピルバーグが、少年時代に熱中した『ミステリー・ゾーン』を目指して製作したテレビシリーズの中から、3話を選んでオムニバス映画にしました。

 スピルバークが自ら監督した「最後のミッション」の舞台は第二次大戦下。車輪を失った爆撃機の奇跡の帰還を、お得意のファンタジーとして描いています。80年代を代表するスターの一人、ケビン・コスナーが機長を演じています。

 ミイラ男を演じる俳優の受難を描いたウィリアム・ディア監督の「パパはミイラ」は、ホラーとコメディが共存した傑作。この後ディアは、同種の味わいを持った佳作『ハリーとヘンダスン一家』(87)『エンジェルス』(95)を監督しています。

 ロバート・ゼメキスの「真夜中の呪文」は、学生が陰湿な教授と対決するブラックホラー。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)でドクを演じたクリストファー・ロイドが、グロテスクで意地悪な教授を演じています。

 このシリーズは他のエピソードも、数本まとめてテレビの洋画劇場でよく放映されていましたし、レンタルビデオ店でもよく見掛けました。その中にはクリント・イーストウッドやマーティン・スコセッシの監督作も含まれていました。バラエティに富んだこのシリーズの存在を通して、80年代を懐かしく思い出す方も多いのではないでしょうか。

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『トワイライトゾーン/超次元の体験』

2016-02-10 08:40:12 | All About おすすめ映画

『トワイライトゾーン/超次元の体験』(83)

80年代を代表する監督たちによるオムニバス映画

 この映画は、ロッド・サーリングが案内役を務め、1959年から1964年までテレビで放送された1話完結のSFドラマ『ミステリーゾーン』を基に製作された、四つの物語からなるオムニバス映画です。

 監督は80年代を代表するジョン・ランディス、スティーブン・スピルバーグ、ジョー・ダンテ、ジョージ・ミラー。全体のプロローグとエピローグはランディスが担当しました。彼らが子供の頃に親しんだオリジナルドラマに敬意を表し、楽しみながら作った様子が画面からあふれます。

 ランディスが監督した第1話は、白人の差別主義者が突然さまざまな時代にトリップし、ユダヤ人、黒人、アジア人と間違われて迫害されるというブラックユーモアに満ちた一編。演じたビック・モローが撮影中に事故死したことで、当初の設定から変更を余儀なくされたのが残念です。

 スピルバーグの第2話は、老人ホームの住人たちが、魔法の缶けり遊びで若返るというメルヘンファンタジー。同時代に作られたロン・ハワードの『コクーン』(85)にも通じる話です。

 ダンテの第3話は、超能力少年の行動をグロテスクで漫画チックなコメディとして描きました。これは、同じく彼が監督した『グレムリン』(84)と同じ手法です。

 最後を飾るミラーの第4話は、飛行機恐怖症の男が上空で見た悪夢をシュールに描いた秀逸な一編。ジョン・リスゴウの好演が光ります。

 4人の監督の異なったアプローチによる多様性が楽しめるSF映画です。

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『ファイナル・カウントダウン』(80)

2016-02-09 08:57:25 | All About おすすめ映画

アイデアが秀逸な時間SF



 1980年、ハワイ沖を航行中の米原子力空母ニミッツが、突如時間の渦に巻き込まれてタイムスリップし、1941年12月8日、日本軍による真珠湾攻撃の真っただ中に迷い込みます。ニミッツを持ってすれば日本軍を撃破することも可能です。

 艦長(カーク・ダグラス)をはじめ乗組員たちは、過去の歴史に介入することを躊躇しながらも、このまま真珠湾の基地を見殺しにしてもいいのかというジレンマに襲われます。原題の「最後の秒読み」とは攻撃か否かの決断を迫られるドキドキ感を表しています。監督は俳優出身のドン・テイラーです。

 この映画には、ニミッツ対ゼロ戦というアクション場面もありますが、どちらかと言えば時間SF物としてのアイデアの面白さが見どころ。時間や人生についてあらためて考えさせられる驚きの結末が用意されています。

 この映画は、同時代に作られた、自衛隊が戦国時代にタイムスリップする日本の『戦国自衛隊』(79)とよく比較されました。ベトナム戦争終結後の80年代は、軍隊の存在意義をあらためて問い直す時期だったのかもしれません。

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『ファンダンゴ』(85)

2016-02-08 09:00:27 | All About おすすめ映画

ベトナム戦争の影を感じさせる、苦みを持った青春群像



 スティーブン・スピルバーグが主宰するアンブリン・エンターテインメントが初めて製作したのがこの青春映画でした。タイトルはスペイン語で「バカ騒ぎ」の意。舞台は1970年代初頭、青春の終焉を拒絶し、大学卒業後に直面する徴兵・就職・結婚などの諸問題からの一時の逃避を試みた若者たちの姿を描いたロードムービーです。

 主演はスターになる前のケビン・コスナー。監督は、後にコスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)で第二班の監督を務め、『ロビン・フッド』(91)『ウォーター・ワールド』(95)も監督したケビン・レイノルズ。この映画が彼の監督デビュー作です。オープニングのエルトン・ジョンの「土曜の夜は僕の生きがい」、キャロル・キングの「イッツ・トゥ・レイト」など、時代を彩った名曲を効果的に使っています。

 この映画の特徴は、旅の端々にベトナム戦争の影を感じさせるところ。それ故、ありふれた青春群像にちょっとした苦味が加わっています。ジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』(73)がベトナム戦争以前の60年代の青春群像劇の代表作なら、この映画はベトナム以後の70年代のそれに当たるのかもしれません。公開当時は、たかだか10年前の70年代がすでにノスタルジーの対象になるのかという感慨が強く残りました。今見れば、その何倍も懐かしさを感じることでしょう。

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』

2016-02-07 10:46:26 | All About おすすめ映画

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84) 

時系列を無視して錯綜させたユニークな手法



 この映画の舞台は、1920年代から60年代のニューヨーク。ギャング団を組織して成り上がったユダヤ系の少年たちが、やがて破滅に至る姿を半世紀にわたって描いた壮大な叙事詩です。

 彼らの少年期、青年期、老年期を時系列を無視して錯綜させ、友情、裏切り、苦悩、恋を描くという手法はとてもユニークなのですが、見終った後は、分かったような分からないような妙な気分にさせられるのも否めません。それは、あたかもロバート・デ・ニーロ扮するこの映画の主人公ヌードルスがアヘン窟で見た夢幻のようです。

 セルジオ・レオーネの思わせぶりな演出は冗漫で、バイオレンスやセックスのシーンもストレートで過激なのですが、トニーノ・デリ・コリのセピア調の撮影とエンニオ・モリコーネの哀切極まる音楽が、全てを美しい青春の思い出のように転化させ、何だかとてもいい映画を見たような錯覚に陥ります。そのおかげで何度もこの映画を見てしまった人も多いはず。そんな、麻薬のような、妖しい魅力や不思議な磁力を持った映画なのです。

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【ほぼ週刊映画コラム】『オデッセイ』

2016-02-06 15:43:49 | ほぼ週刊映画コラム
TV fan Webに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

明るく前向きな主人公に魅了される
『オデッセイ』




詳細はこちら↓

http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1035747
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『ザ・コール 緊急通報指令室』

2016-02-05 11:00:21 | 映画いろいろ

『ザ・コール 緊急通報指令室』(13)

いい拾い物をしたような気分になる

 謎の男に誘拐された少女(アビゲイル・ブレスリン)からの通報を受けた、911(緊急通報指令室)のオペレーター(ハル・ベリー)が、少女の声だけを頼りに奮闘する姿を描く。

 前半は、911の仕事を紹介しながら、一度救助に失敗し、トラウマを抱えるオペレーターと、走る車のトランクの中に閉じ込められた少女の視点で話が進んでいく。スピード感に満ちた新種の追い掛け劇としての面白さで見せる。

 後半は猟奇的な犯人を中心にした『サイコ』(60)『羊たちの沈黙』(91)思わせるスリラーへと転化する。前半に比べると少々“失速”するのが残念だが、全体的には、94分の中に幾つもの山場を展開させたB級サスペンスの良作だと言える。昔、面白いB級映画を見つけて、いい拾い物をしたような気分になったことを思い出した。

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『ビッグ』

2016-02-05 08:56:07 | All About おすすめ映画

『ビッグ』(88)

いつまでも子供心や遊び心を忘れずに

 背の低さに悩む12歳の少年ジョシュは、カーニバルで魔法の機械「ゾルダー」を見付け「大人になりたい」と願を掛けます。すると翌朝、中身は12歳のままで体だけが大人になって…というトム・ハンクス主演の傑作ハートウォームコメディです。監督はペニー・マーシャル、脚本はスティーブン・スピルバーグの妹のアンが執筆しています。それ故、女性ならではの繊細な視点が随所に見られます。

 初めはあり得ない状況に戸惑い、しっかり者の親友ビリーに助けられていたジョシュですが、やがておもちゃ会社の社長(ロバート・ロッギア)に気に入られて就職し、子供らしい自由な発想で大活躍を見せます。ハンクスとロッギアが足踏みピアノで楽しそうに「ハート・アンド・ソウル」を弾く場面が、子供心や遊び心を忘れずに、というこの映画のテーマを象徴します。

 そしてキャリアウーマンのスーザン(エリザベス・パーキンス)も、純粋な心を持ったジョシュに惹かれていきますが、やはり大人と子供というギャップは埋まりません。ラストで「一緒に子供に戻らない?」というジョシュに、「私はもう、その時代を生きてしまったから…」と答えるスーザンの姿が何とも切なく映りますが、ジョシュをちゃんと子供に戻してあげるところがこの映画の粋なところなのです。

 “大人子供”の役が似合うハンクスが、後の『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)にも通じる無垢な心を持ったキャラクターを演じて、この映画で初めてアカデミー賞の主演賞にノミネートされました。

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『評決』

2016-02-04 09:00:10 | All About おすすめ映画

『評決』(82)(1983.4.13.有楽町シネマ2)

聖職者の腐敗を鋭く告発

 

 この映画は、カトリック教会系の病院で起きた医療過誤に関する訴訟を描いた法廷劇です。名優ポール・ニューマンが人生に敗れアルコール依存症となった弁護士ギャルビンを演じています。仕方なく披害者側の弁護人となった彼が、事件の調査を進めるうちに、正義に目覚め、自らも立ち直らんとして変化していく姿が見どころです。

 監督は『十二人の怒れる男』(57)で陪審員を描いた社会派の巨匠シドニー・ルメット。本作では、訴訟を通して、医師や弁護士といったいわゆる“聖職”に携わる者の腐敗を鋭く告発していきます。

 クライマックスは、ギャルビンの最終弁論のシーンに訪れます。被告側の証拠隠しによって絶望的な状況に陥ったギャルビンは、ここで正義や法のあり方を陪審員に説きます。ニューマンの名優たる所以を証明する名場面ですが、これはわれわれ観客に向けて語り掛けているとも言えるのです。そして、さまざまな人種の陪審員たちが逆転の正義を示すところにこの映画の真骨頂が発揮されます。思わず「そうこなくっちゃ!」と一声掛けたくなるような見事な幕切れです。

 ニューマンに加えて、秘密を持った女性を演じたシャーロット・ランプリング、被告側の弁護士を憎々しく演じたジェームス・メイスン、ギャルビンを陰から支える相棒役のジャック・ウォーデンら脇役たちの好演も光ります。正義や裁判制度にこだわり続けたルメットならではの力作と言えるでしょう。

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