田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『善人サム』

2019-01-26 11:36:51 | 1950年代小型パンフレット
『善人サム』(48)(1996.5.23.)



 フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』(46)の主人公ジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュワート)に遅れること2年、『我が道を往く』(44)のレオ・マッケリーが、ゲーリー・クーパー演じる同種の主人公サム・クレイトンを登場させ、人間の善意の裏表を描いた映画。

 ところが、思いの他楽しめず、後味もあまり良くなかった。釈然としないまま、双葉十三郎さんの『僕の採点表』を読んでみたら、「監督のマッケリーが善意、善意といい気になり過ぎている」とか「主人公が善意を示した相手の図々しさが見苦しい」「全体の雰囲気が馬鹿らしく、空々しく感じられる」などと書かれていた。

 『アメリカ映画作品全集』の南部圭之助さんも「さぞかし優れた作品だろうと思ったら、大間違いのひどいズレかた」とこちらも散々。向こうの『MOVIE GUIDE』でも「不発」「生活ズレしたコメディ」と酷評されていた。

 まあ、そこまで酷評しなくても…とも思ったが、リアルタイムでこの映画を見た人は、マッケリーへの信頼を裏切られた思いがして、後追いのオレがこの映画に対して抱いた不満以上のものを感じたのだろう。確かに、あまりにも善意を押し付けられると、逆に反発やしらけが生じる。そのあたりのバランスが、こうした映画の成否を握っているとも言えるだろうし、そのさじ加減がとても難しい。

 思えば、この映画は『素晴らしき哉、人生!』という先駆があったために、損をしているところもある。例えば、両作に共通するラストの、失意の主人公に訪れるクリスマスの奇跡を見比べてみると、この映画の、そこに至るまでの持っていき方の弱さが露呈するからだ。

 そんな、この映画の収穫は、主人公サムの妻を演じたアン・シェリダン。オレたちにとっては“幻の女優”の一人だが、思わず「いょ、姐御!」と一声掛けたくなるような、何ともいい雰囲気の、年増女の色っぽさを見せてくれた。ちょっと彼女について調べてみたら、この映画に出演した時の彼女は、今のオレ(35歳)よりも年下だった。昔の女優は今よりも成熟していたということか。それともこれは映画の持つ魔力故なのか。

ゲーリー・クーパーのプロフィールは↓

コメント (3)
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『歴史は夜作られる』

2019-01-25 20:59:19 | 1950年代小型パンフレット
『歴史は夜作られる』(37)(1997.2.13.)



 アメリカの海運王夫人アイリーン(ジーン・アーサー)と、パリのホテルの接客チーフ・ポール(シャルル・ボワイエ)が恋に落ちる。2人は処女航海の豪華客船に乗ってニューヨークからパリに向かうが…。監督はフランク・ボーゼージ。

 水上勉が、青函連絡船・洞爺丸の沈没という大惨事に触発されて『飢餓海峡』を生み出したように、この映画も豪華客船タイタニック号の沈没という大事故と無縁ではあるまい。ただ、感心するのは、クライマックスに豪華客船の遭難を持ってくるがために、そこまでに費やされた手練手管の見事さであった。

 言い換えるなら、全編が、これ一組の男女を一緒させるためのご都合主義の連続であり、半ば「そんなはずはないよ」と思わせながらも、見事な映画的なテクニック(演出、脚本、撮影、俳優の力…)を駆使して、トータルとしては見る者を乗せてしまうのだ。

 何しろ、この映画が作られたのは今からおよそ60年も前のこと。もちろん、豪華客船によるパリ~ニューヨーク間の旅など、限られた人にしか体験できなかったであろうし、高級レストランの接客チーフと大富豪夫人の恋など、絵空事以外の何ものでもなかったはずだ。

 つまり、当時の観客にとっては甚だリアリティがない反面、ゴージャスな夢を見るにはもってこいの設定だったのだろう。今、こんな映画を作ったら、時代遅れと言われて、一笑に付されてしまうのが落ちなのではないか。

【今の一言】などと書いていた同じ年の暮れに、ジェームズ・キャメロンの『タイタニック』が公開され、大ヒットを記録したのだから、オレの意見など当てにはならない。

ジーン・アーサーのプロフィール↓


シャルル・ボワイエのプロフィール↓
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『我等の生涯の最良の年』

2019-01-25 09:53:26 | 1950年代小型パンフレット
『我等の生涯の最良の年』(46)(1998.3.31.)



 第二次世界大戦後に市民生活に復帰した復員兵が直面するさまざまな問題を鋭く描き、アカデミー賞では9部門で受賞した。淀川長治先生は「(タイトルとは逆に)彼らにとっては、本当は最悪の年なんですね」と言っていた。製作サミュエル・ゴールドウィン、監督ウィリアム・ワイラー。

 名作の誉れ高い映画だが、3時間近くの上映時間がネックとなって今まで見逃していた。ところが、いざ見始めると、さすがはワイラー。一気に見せられたばかりでなく、改めて監督としての力量の大きさを知らされた。

 俳優たちも、くささ一歩手前のうまさで見せるフレドリック・マーチ、良妻賢母を演じたマーナ・ロイ、おばさんっぽいかわいらしさのあるテレサ・ライト、好漢ダナ・アンドリュース、敵役のバージニア・メイヨはちょっとかわいそう、とそれぞれの個性が遺憾なく発揮されている。

 本物の傷痍軍人であるハロルド・ラッセルの起用は、少々ルール違反では、という気もするが、それがこの映画に一種のドキュメンタリー的な側面を与えていることも確かである。

 敗戦国民である当時の日本の観客が、この映画を通して、勝戦国のアメリカですら帰還兵の社会復帰は容易ではなかったことを知らされたわけだが、どんな思いでこの映画を見たのだろう。複雑な心境だったことは想像に難くない。

 また、戦中に、一種の戦意高揚映画である『ミニヴァー夫人』(42)を撮ったワイラーが、一転、戦後第一作となったこの映画では、戦争がもたらす苦さを描いている。その変転には、ジョン・フォードやフランク・キャプラと同じく、実際の戦場を映像として記録したことが影響しているような気がする。

 同年、フォードは戦争から解放された安堵感が漂うような『荒野の決闘』を撮り、キャプラはもう一度人間を信じてみようという思いから『素晴らしき哉、人生!』を撮った。それぞれが名作だが、戦場を目の当たりにした彼らの復帰映画の作風に、大きな違いがある点も興味深い。



ハロルド・ラッセル&ウィリアム・ワイラー


フレドリック・マーチ




テレサ・ライト


バージニア・メイヨ


【今の一言】先頃、ゴールドウィンの評伝『虹を掴んだ男―サミュエル・ゴールドウィン』を読んだが、この映画はワイラーの映画というよりも、むしろゴールドウィンの映画と呼ぶべきが正しいのか…とも思った。
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/10cc294f9f7bbf8525eb9e6db7ce937f
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『リバティ・バランスを射った男』

2019-01-25 06:15:54 | 1950年代小型パンフレット

『リバティ・バランスを射った男』(62)(1997.3.10.)



 ジョン・フォード、晩年の佳作を久しぶりに再見したところ、いくつか新たな思いが浮かんできた。

 ジョン・ウェインが遺作『ラスト・シューティスト』(76)より、10年以上も前に“最後の西部男の悲しい死”を演じていたことに改めて気づいた。その分、ジェームズ・スチュワートが演じた、後に議員になる主人公が、前に見た時よりも、尊大で横柄な人物として映ってしまった。このウェインとスチュワートが『ラスト・シューティスト』で再共演しているのも感慨深い。

 ところで、ウェイン演じる“影の男”トム・ドニファンに、さらに影のように寄り添う黒人御者ポンピー(ウディ・ストロード)が泣かせる。『バファロー大隊』(60)もそうだが、こうした扱いを見ると、フォードはストロードをとてもかわいがっていたのだろうと思う。

 また、ラストに吐かれる「西部では伝説を事実にする」という名ゼリフが、今となっては、フォードが映画という作り物に対して発した、暗示的な遺言のようにも聞こえる。





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『いちごブロンド』

2019-01-24 18:02:51 | 1950年代小型パンフレット
『いちごブロンド』(41)(1998.5.16.)



 “いちごブロンド”の髪の女性(リタ・ヘイワ―ス)に恋をした歯科医(ジェームズ・キャグニー)は、彼女にふられ、仕方なく別の女性(オリビア・デ・ハビランド)と結婚するが、いちごブロンドのことが忘れられない…。監督はラオール・ウォルシュ。

 憧れの女であるヘイワ―スが実は悪女であり、彼女にふられた腹いせに、半ば焼けになって結婚したデ・ハビランドが良妻だった、という逆説的な設定がこの映画の面白さの真骨頂であり、なかなかそこに気づかない主人公が、悲しくもおかしい男の愚かさを象徴する。思わず「いい加減に気づけよ」と言いたくなる。

 古き良きハリウッドのハートウォームコメディの一作。ギャングスターのイメージが強いキャグニーの別の面が見られるし、硬派監督のイメージが強いウォルシュにしても、珍しい一編と言えるのではないか。

ジェームズ・キャグニーのプロフィール↓


オリビア・デ・ハビランドのプロフィール↓


リタ・ヘイワ―スのプロフィール↓
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『幽霊と未亡人』

2019-01-24 12:06:57 | 1950年代小型パンフレット
『幽霊と未亡人』(47)(1997.2.3.)



 若く美しい未亡人ルーシー(ジーン・ティアニー)が海辺の一軒家に引っ越してくる。ところが、その家には、前の持ち主のグレッグ船長(レックス・ハリスン)の幽霊が出るのだ。だが、ルーシーは幽霊の脅しにも屈せず、一緒に暮らし始める。やがて2人は引かれ合うが…。監督はジョセフ・L・マンキーウィッツ。

 主人公の未亡人は絶世の美女ジーン・ティアニー! 相手役の幽霊船長は珍しく粗野なレックス・ハリスン。だが、粗野な中にも、時折品格を感じさせるところが彼の真骨頂。この、現実には決して結ばれないカップルのやり取りが、おかしくも切なく展開していく。恋敵役でジョージ・サンダースも登場する。

 いわば、この映画は『ある日どこかで』(80)の逆パターンの話だった。というよりも、『ある日どこかで』 がこの映画を大いに参考にしたのであろう。描かれた時代は異なるが、男女の設定を入れ替えると細部に共通点が多く、ラストシーンもそっくり。しかも、ヒロイン役のジェーン・シーモアは、この映画のティアニーをほうふつとさせるからだ。このあたり、あの映画の監督ヤノット・シュワルツに確かめてみたい気もするが。

 ただ『ある日どこかで』 と大きく違うのは、この映画では、2人の絆の構築が、一軒の家を媒介にして描かれる点だ。それ故、時の移り変わりが自然に描け、密度の濃い、深い恋愛劇として成立する。このあたり、またしてもマンキーウィッツのうまさにうならされた。所詮、こんな話は嘘なのだが、その嘘を、いかに夢も説得力もある話として見せるかが映画監督の腕の見せどころではないか。その点、この映画は満点に近いものがある。

ジーン・ティアニーのプロフィール↓


レックス・ハリスンのプロフィール↓


ジョージ・サンダースのプロフィール↓


All About おすすめ映画『ある日どこかで』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c0daf9574990b3b417ed4c1715b965ab  
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『先生のお気に入り』

2019-01-24 07:29:41 | 1950年代小型パンフレット
『先生のお気に入り』(58)(1992.6.20.)



 叩き上げの新聞記者ジム(クラーク・ゲイブル)が、上司からの命令で、市立大学で講演をすることになる。嫌がるジムだったが、担当の美人教授(ドリス・デイ)に惚れてしまい、生徒になりすまして学内に潜り込む。

 晩年のゲイブルはあまり作品に恵まれなかったと思っていたのだが、この映画はちょっと違った。いかにも叩き上げ、といった感じの新聞記者を見事に演じていたからである。しかも、相手役は不思議な色気のあるドリス・デイ。で、こちらが2人の恋愛模様をニヤニヤしながら見ていると、そこに、恋敵の教授役でギグ・ヤングが絡んでくるという具合だ。ジョージ・シートン監督の勘所を押さえた演出が効果を生み、落ち着いた感じの傑作コメディに仕上がっている。

 こうした叩き上げ対権威という図式は、ハリウッドのコメディ映画の常套手段であるが、その奥には、自由の国をうたいながら、権威や伝統に弱いという、“若い国アメリカ”の弱点が潜んでいるとも思える。それにしても、こうした能天気な楽しい映画の裏で赤狩りが行われていたとは信じ難いものがある。
 
クラーク・ゲイブルのプロフィール↓


ドリス・デイのプロフィール↓


ギグ・ヤングのプロフィール↓
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『メリー・ポピンズ リターンズ』エミリー・ブラントにインタビュー

2019-01-23 11:53:19 | 仕事いろいろ


 今回のメリー・ポピンズは、前作よりも原作のイメージに近いという。ディック・バン・ダイクについて質問すると、大喜びで語ってくれたので、聞いたこちらもうれしくなった。詳細は後ほど。

『メリー・ポピンズ リターンズ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/bc875b74be7a523cd8136e059a60d593

『メリー・ポピンズ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f4081a10c89be8c7641e4b54d91149a5
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『ソローキンの見た桜』安部純子にインタビュー

2019-01-23 10:24:20 | 仕事いろいろ


 『ポンチョに夜明けの風はらませて』(17)『孤狼の血』(18)で演じたエキセントリックな役よりも、この映画のような清楚な感じの役の方が似合うと思うのだが、本人はコメディもやってみたいという。詳細は後ほど。

『ソローキンの見た桜』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/3e2a5c7b2bbd36dd1191a71981200f2c
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『くたばれ!ヤンキース』

2019-01-23 06:19:35 | 1950年代小型パンフレット

『くたばれ!ヤンキース』(58)(98.7.1.)



 ファウスト伝説を基にしたブロードウェー劇の映画化で、舞台は1950年代後半のニューヨーク・ヤンキース全盛時代。ワシントン・セネタース(後のミネソタ・ツインズ)狂の中年男が、病が高じて悪魔(レイ・ウォルストンが絶品!)に魂を売り渡し、若きスラッガー(ダブ・ハンター)に変身してセネタースを優勝に導くというストーリー。監督はスタンリー・ドーネンとジョージ・アボット。

 ゲームシーンもかなりリアルに描かれており(ミッキー・マントルやヨギ・ベラの姿も映る)、グエン・バードンや振付師時代のボブ・フォッシーが登場するミュージカルシーンと併せて楽しめる。

 また、サイドストーリーとして、中年夫婦の愛憎劇が巧みに盛り込まれており、主人公がラストで元に戻るための伏線をちゃんと張っているのも見事。楳図かずおの『アゲイン』は、多分この映画からヒントを得たのだろう。

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