1940年、神戸で貿易商を営む優作(高橋一生)は、商用で赴いた満州で、偶然、恐ろしい国家機密を知り、正義のためにそのことを世に知らしめようとする。そして、妻の聡子(蒼井優)の知らぬところで、優作は別の顔を持ち始める。だが、夫への愛が、聡子をある行動へと突き動かしていく。
昭和初期の神戸を舞台にしたミステリー。黒沢清監督、初の“時代劇”という触れ込みで、ベネチア映画祭で銀獅子(最優秀監督賞)を受賞した。
だが、もともとはNHK BS8Kで放送されたテレビドラマ。そのせいか、戦時中を描いた過去の映画に比べると、何か物足りなさを感じた。まあ、自分も実際にその時代を知っている訳ではないのだが…。この違和感は一体どこから生じるのだろうと考えながら見ることになった。
また、ストーリーも濃いようで実は薄い。夫婦の行動の動機に関する描写も弱い。もっと重層的で凝った戦時ミステリー&ロマンスはたくさんある。だからベネチアで受賞した理由もよく分からない。確かに、黒沢監督作としては、見た後に残るもやもや感はいつもよりは少ないのだが…。
ただ、受賞理由の一つに、満州での関東軍の所業を入れ込んだ点も入っているのかもしれない。いまだに戦争をひきずるかつての同盟国、イタリアとドイツは、自国の犯した罪や傷を映画の中で描き続けているから、こうした部分には敏感なのではないかと思った。
トリックにも使われる優作が撮った劇中映画や、夫婦が山中貞雄の『河内山宗俊』(36)を見るシーンなどに黒沢監督の趣味性を感じた。高橋、蒼井ともに好演を見せるが、聡子の幼なじみの憲兵隊長を演じた東出昌大がなかなかよかった。