田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ようこそ映画音響の世界に』

2020-09-10 08:27:22 | 新作映画を見てみた

『ようこそ映画音響の世界に』(2020.9.9.新宿シネマカリテ)

 名作映画のフッテージ(素材映像)をふんだんに使いながら、ハリウッド映画の音響と、それに携わる人々にスポットを当てたドキュメンタリー映画。監督は自身も女性音響スタッフとして活躍するミッジ・コスティン。

 劇中、「ザ・サークル・オブ・タレント=才能の輪」と名付けられたチャートが現れる。映画音響の仕事が細かく分かれていることを示すものだ

ボイス=声:俳優の演技を現場で録音する。
ダイアログ・エディティング=編集:不要な音を環境音に置き換える。
ADR=アフレコ:俳優がセリフをスタジオで再録したものを口の動きに合わせて編集する。
サウンド・エフェクト=効果音
SFX=特殊効果音:実際は存在しない新たな音を作る。
アンビエンス:背後にある音の層を厚め、リアリティを出す。
ミュージック=音楽
ミキシング:全ての音をまとめる。

 これを見ると、映画音響の仕事は、プロの職人たちの集合体によるものだと改めて知らされる。彼らの名前は、映画ファンの間でも、よほどのマニアでもない限りはほとんど知られていないが、彼らが自分の仕事が大好きで誇りを持っていることがよく分かって、感動させられる。

 また、モノラルからステレオになったのは音楽業界が先で、例えば、ビートルズ(ジョン・レノン)の「トゥモロー・ネバー・ノウズ」「レボリューション9」、あるいはジョン・ケージの実験音楽やミュージックコンクレートが映画音響に多大な影響を与えたこと。

 バーブラ・ストライサンドの『スター誕生』(76)がステレオ上映の道を開いたこと。ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』(77)やフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』(79)が映画音響的にもいかにエポックなものであったのか、など、興味深い事実も知らされた。

 ただ、スティーブン・スピルバーグは出てくるのに、音が重要な役割を果たした『未知との遭遇』(77)について全く触れていないのがちょっと残念だった。

 この映画を見ながら、音響マンが主人公のブライアン・デ・パルマの『ミッドナイト・クロス』(81)のことや、以前取材した爆音映画祭のことを思い出した。ルーカスの「音は感動を伝える。映画体験の半分は音だ」という一言が心に残る。

【違いのわかる映画館】吉祥寺バウスシアター
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ea2b6f99e1f7da1aaaaf3b0d5c4b176a

『爆音映画祭 ゴジラ伝説』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/18f0d2bafbdc7f21107034d06dc3a207

『ミッドナイトクロス』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f3f733cdf2313994765e94d173c6c248

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『黄金』

2020-09-10 07:04:33 | 1950年代小型パンフレット

『黄金』(48)(1992.5.31.)



 メキシコで、観光客相手に日銭を稼いで生きるドブス(ハンフリー・ボガート)とカーティン(ティム・ホルト)は、黄金探しに熱中する老人ハワード(ウォルター・ヒューストン)の話を聞き、一緒にシエラマドレ山中に砂金探しに行くことになるが…。

 主要な登場人物はたった三人の男たちだけなのに、この面白さときたらどうだ。出来不出来の波があるジョン・ヒューストン監督作としては、恐らく最高傑作だろう。

 単なる金鉱探しの話から始まって、徐々に人間の本性を暴き出していく脚本が抜群だし、カラカラに乾いた雰囲気を見事に表現したテッド・マッコードのカメラワークも素晴らしい。その相乗効果を経て、最後は監督の父親でもあるウォルターの高笑いとともに、男の悲しさや、夢の空しさを強く印象付けるという具合。

 思えば、ジョン・ヒューストンが作る映画は、総じてハリウッドやアメリカという枠を突き抜けた、無国籍的な印象がある。だから、ケビン・コスナーも、メキシコを舞台にした『リベンジ』(90)を、「本当はヒューストンに撮ってもらいたかった」と語ったのだろう。

ウォルター&ジョン・ヒューストン

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【インタビュー】『陽気なギャングが地球を回す』前田哲監督

2020-09-09 07:52:03 | レッツエンジョイ東京

 本を整理していたら、伊坂幸太郎の『陽気なギャングが地球を回す』が出てきた。これは映画化された際に、前田哲監督にインタビュー(2006.5.24.『レッツエンジョイ東京』)するために読んだのだが、あまりの面白さに、続編の『陽気なギャングの日常と襲撃』まで読んでしまった覚えがある。


 
 で、この時の前田監督へのインタビューも、『トニー滝谷』(05)の市川準監督同様、本編に載らなかった会話の方が面白かった。

 以下、構成上、こぼれた話を二つ。

-いろいろな人の助監督を経験して得たものはやはり大きいということですね。

(前田)僕が一番影響を受けているのはやっぱり伊丹(十三)さんの映画です。最初に、サード助監督で美術や小道具を担当したんですが、少しでも演出にかかわりたいということで、かばんや眼鏡なんかも工夫して選んでから見せるわけです。そうすると伊丹さんは「それ面白いね」という感じで受け入れてくれて。懐が広いんですね。それで「なんて楽しいんだ」とその時に思って。だから、キャラクターが持つ背景や、それを表現する小道具や衣装へのこだわりという点では伊丹さんの影響が大きいです。

-私はこの映画を見て、同じく4人組の強盗団で、誰も死なない『ホット・ロック』(72)というアクション・コメディーの映画を思い出したのですが。そうした昔の映画から受けた影響はありますか。

(前田)『ホット・ロック』は意識しました。この映画の主人公の成瀬は、あの映画のロバート・レッドフォードのイメージなんです。あまりしゃべらないでいつも考え事をしているような。だからレッドフォードがいつもアメをなめていたように成瀬にもガムを噛ませたりしました。

 それと10代から20代にかけて見た映画というのは鮮明に覚えているんです。映画に対する基本的な考えはそこで決まってしまいました。ベトナム戦争前の健全な勧善懲悪のアメリカ映画などが染みついているので、その影響は非常に強いと思います。まだ勧善懲悪が信じられた時代、ヒーローがちゃんといて「弱い者いじめはいけない」と。スティーブ・マックィーンが神様でしたから。

 最近の映画を見ると、頭では分かっても、すごい映画だなと思っても、すぐに忘れてしまいます(笑)。結局、原点に戻るしかない。そこで培われたものしか生きないということですね。だから、若い時にもっと映画を見ておけばよかったと、ちょっと後悔しています。

【今の一言】このインタビューをしてから、もう14年もたったのか…。

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【インタビュー】「誰かが、見ている」山本千尋

2020-09-09 06:30:27 | 仕事いろいろ

三谷幸喜作品初出演 アクションを封印
https://tvfan.kyodo.co.jp/?p=1241214&preview=true

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『あしたのジョー』

2020-09-08 20:18:21 | 映画いろいろ

『あしたのジョー』(11)(2011.2.13.市川コルトンプラザ)

俳優が肉体を駆使する素晴らしさ

 名作漫画の2度目の実写映画化。白木葉子(香里奈)をドヤ街出身にしたり、ウルフ金串を白木ジム所属のボクサーにするなど、あまり意味のない改変はあったものの、CGを多用したスポーツ映画『ピンポン』(02)で名をはせた曽利文彦監督が、今回は極力CGに頼らず、俳優の肉体を駆使することに徹した点に拍手を送りたい。『イップ・マン 葉問』(10)のドニー・イェンもそうだが、やはり人は、生身の肉体から繰り出される技や力に感動するのだ。

 ジョー役の山下智久も頑張ってはいたが、伊勢谷友介の力石徹と香川照之の丹下段平がすご過ぎた。だが、もしこの後、カーロス・リベラ、金竜飛、そしてホセ・メンドーサとの対戦へと映画が続いていくならば、山下の成長が期待できる。

【今の一言】今や、この映画のジョーも力石も葉子もスキャンダルまみれか。この映画の、伊勢谷の鍛え抜いた肉体に嘘はなかったと思いたい。

伊勢谷友介容疑者、現行犯逮捕 大麻取締法違反の疑い
https://tvfan.kyodo.co.jp/news/topics/1241319

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【インタビュー】『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』山田裕貴

2020-09-08 08:16:48 | インタビュー

「しんちゃんの自由な発想に憧れます」
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1239490

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『キャプテン・フィリップス』

2020-09-08 07:41:58 | 映画いろいろ

『キャプテン・フィリップス』

 2009年に発生した「マースク・アラバマ号」乗っ取り事件で、ソマリア海賊の人質となったリチャード・フィリップス(トム・ハンクス)を描く伝記映画。

来日記者会見
https://tvfan.kyodo.co.jp/news/topics/57042

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『ロミオとジュリエット』

2020-09-08 07:07:22 | 映画いろいろ
『ロミオとジュリエット』(68)(2010.2.21.TOHOシネマズ六本木ヒルズ「午前十時の映画祭」)
 
 
 言わずもがなのウィリアム・シェークスピア原作の古典恋愛劇の映画化。映画館で見るのは今回が初となった。
 
 ロミオ役のレナード・ホワイティングとジュリエット役のオリビア・ハッセー(確かに今見ても初々しくて魅力的)は、日本ではこの映画1本で大人気となって映画誌のグラビアを飾り、人気投票では常に上位にランクされるなど、まさにアイドル的な存在となった。今では考えられない状況だ。
 
 今回は、お節介なローレンス神父役のミーロ・オーシャ、ロミオの親友マキューシオ役のジョン・マケナリー、ジュリエットの乳母役のパット・ヘイウッド、ジュリエットの従兄弟役のマイケル・ヨークら脇役がなかなかいいと感じた。
 
 製作ディノ・デ・ラウランティス、監督フランコ・ゼフィレッリほか、スタッフはイタリア人が多いからオペラのような感じに作られている気もする。中でも、パスカリーノ・デ・サンティスの色を抑えた撮影とニーノ・ロータの音楽が素晴らしい。
 
 とは言え、登場人物たちの行動や場面説明を兼ねた演劇的で大仰なセリフ、全体のテンポなどは、悲劇なのに喜劇に映るところもある。三谷幸喜が『笑の大学』でパロディーにしたのも納得できる。チャップリンも喜劇の裏には悲劇があると言っていたし。
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『悪名波止場』

2020-09-07 08:05:25 | 映画いろいろ

『悪名波止場』(63)

 日本映画専門チャンネルで、今東光原作の『悪名』シリーズを放映している。朝吉(勝新太郎)と清次(田宮二郎)が、女たちを食い物にする麻薬密売組織・鬼瓦組を相手に大暴れするこの映画は第7作目で、監督は森 一生、脚本は依田義賢。

 鬼瓦組の社長に伊達三郎、その子分の鬼瓦の吉に吉田義夫。2人の悪役ぶりが楽しい。ラストの2人への“仕置き”には笑った。また、おなご舟の親分、清川虹子のほか、滝瑛子、藤原礼子、弓恵子といった渋い女優たちが助演する。

 広島の宇品港が舞台になっており、朝吉の河内弁とは対照的に、伊達や吉田をはじめ、皆広島弁で話すのだが、いつもは言葉にうるさい広島出身の妻が「みんなちゃんとしている」と感心していた。いわゆるプログラムピクチャーだが、こういうところはきちんとしていたということか。

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『12人の優しい日本人』

2020-09-07 08:02:50 | 映画いろいろ

『12人の優しい日本人』(91)(2018.1.)



 シドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』(57)を基に、三谷幸喜が書いた脚本を、中原俊監督が映画化。室内劇、密室劇として巧みに仕上げている。もし日本に陪審員制があったら…という設定から、感情をあらわにしない、自己表現が苦手な、典型的な日本人像を浮かび上がらせた三谷の着眼は鋭いし、面白い。

 何しろ、この12人は、人の意見に左右される日和見主義者ばかりで、オリジナルでヘンリー・フォンダが演じた“正義派”が一人もいないのだから。けれども、無理に笑わせようとする作為が見え過ぎたり、デフォルメが強過ぎるところが少々鼻に付くのは否めない。これは、三谷脚本を映像化した際に、総じて感じる思いだ。

 舞台と映像ではテンポや間が異なるのだが、彼の脚本は甚だ演劇的。しかも、凝り過ぎ、捻り過ぎて、マニアックな視点が目立ち、引いては単なる自己満足のように見えてしまうのだ。だから期待とは裏腹に、本来ならもっと面白くできるはずなのに、という歯がゆさを感じさせられるのが常である。同世代で、多分好みも似ているから、余計そう思うのかもしれないが…。

 みなもと太郎の漫画を三谷が脚本化し、「真田丸」のメンバーが出演したNHKの正月ドラマ「風雲児たち~蘭学革命篇」にも同じことが言えた。あれは、先ごろ亡くなった早坂暁作の名作ドラマ「天下御免」のようなことがやりたかったのだろうか。

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