姉の家は母の実家である寺島家の家だ。母は寺島家の一人娘だったから父は婿入りという形をとってはいたが、父が草壁家の長男だった事と御婆ちゃんが物事にこだわらない人だったから、当時にしては珍しく父の草壁を名乗る事になったらしい。
そして、なんといっても寺島の家は都心で地下鉄の駅も近くにあり父さんの勤めていた大学院も近いからとても便利だけれど、郊外に住む私の家から車で行こうとするとかならず渋滞につかまり、ひどい時は2時間もかかってしまう。でも、バスと電車で行けば45分なので姉の言うように公共交通機関で行った方が早くて安全で良いと言えば良い。
支度を済ますとバス停まで歩いてゆく。風が冷たく少し寒いけれど天気が良いから心も晴れやかだ。バスに揺られ最寄りの駅から電車に乗りかえる。車窓から見える建物がどんどん高くなり空も狭まってくると姉の実家の最寄り駅である大所駅までもうすぐだ。
大所駅で下車すると銀座も近いだけあって沢山の人が行き来している。人混みが苦手な私は早足に改札を抜けると、さっそくタクシーを拾った。本当は歩いて15分程で辿り着けるのだけれど歩くのがめんどくさくなってしまった。
タクシーの運転手さんに行き先の番地を告げると、「かしこまりました。」と言って、スムーズに車をスタートさせた。私は後ろの席に深く座ると流れてゆく風景をぼんやり眺めた。このあたりも再開発が進み街並みがずいぶん変わってしまっていて、酒屋さんがコンビニになっていたり、八百屋さんが駐車場になっていたり、銭湯がファミリーレストランになっていたりして少し淋しさを感じてしまった。
大通りを左に曲り少し細い路地進んでゆくと住宅街が広がる。ここでも世代交代が始まっているせいか所々建物が新しくなっている事に気づく。道をしばらく進むと左手に築80年の立派な日本家屋が見えてくる。寺島の家だ。
「運転手さん。ここで止めてください。」
寺島の家の前でタクシーを止めてもらい料金を支払うと運転手さんが爽やかに「御乗車ありがとうございました。」と言ってお辞儀をしてくれた。気分良くなった私は「お釣りはいいから取っておいて。」言って軽く会釈し車から降りた。そして門の横に取り付けてあるインターフォンを押すと、かしこまった声で「はい。どちらさまでしょうか?」と、姉が尋ねてきた。
「わたしよ。わたし。」
「あら、早かったわね。今開けるから入っていらっしゃい。」
家の前には小さな庭がある。一年に一度は庭師に入ってもらい手入れをする決まりを守っているだけあって美しさを保っている。お祖父ちゃんの趣味であった盆栽も姉の旦那さんが受け継いで時々手入れをしているようであの頃のままの姿を留めていた。
「こんにちは。」
玄関で待ち受けていた姉は軽く化粧をし、髪を後ろで縛り、温かそうな白いセーターに千鳥格子柄のスカートを履いてとても若々しい。それに比べ私はそう言う事に疎いから尊敬してしまう。
「いらっしゃい。お上がんなさい。」
「おじゃまします。」
仕事に追われているにもかかわらず、家もきちんと掃除されていてびっくりする。
「あいかわず、綺麗にしてるわね。さすがだわぁ。」
「あら、ありがとう。」
「応接間で待ってて。飲み物持って行くから、お茶とコーヒーがいい? 」
「・・・そうねぇ。コーヒーがいいわ。」
「わかった。」姉はそう返事をすると、さっと台所へ向かっていった。私は応接間に行き、ふかふかのソファに座る。
「へぇ。このソファまだ健在なのね。」
小学生の頃、このソファではねて遊ぶ度に御婆ちゃんに怒られていた事を思い出した。今思うとなにが面白かったんだろうと不思議に感じるけれど、当時の私にとってはこのふかふか感がたまらなかったんだろうなと思った。
この応接間も日本家屋の中に応接間だけ洋風というとても時代を感じさせる作りなのだけれど、手入れが行き届いていて変化と言えば使わなくなった暖炉の上に父と母の仲むつまじい写真が上品なフォトフレームに納められ飾られているくらいだった。
そして、なんといっても寺島の家は都心で地下鉄の駅も近くにあり父さんの勤めていた大学院も近いからとても便利だけれど、郊外に住む私の家から車で行こうとするとかならず渋滞につかまり、ひどい時は2時間もかかってしまう。でも、バスと電車で行けば45分なので姉の言うように公共交通機関で行った方が早くて安全で良いと言えば良い。
支度を済ますとバス停まで歩いてゆく。風が冷たく少し寒いけれど天気が良いから心も晴れやかだ。バスに揺られ最寄りの駅から電車に乗りかえる。車窓から見える建物がどんどん高くなり空も狭まってくると姉の実家の最寄り駅である大所駅までもうすぐだ。
大所駅で下車すると銀座も近いだけあって沢山の人が行き来している。人混みが苦手な私は早足に改札を抜けると、さっそくタクシーを拾った。本当は歩いて15分程で辿り着けるのだけれど歩くのがめんどくさくなってしまった。
タクシーの運転手さんに行き先の番地を告げると、「かしこまりました。」と言って、スムーズに車をスタートさせた。私は後ろの席に深く座ると流れてゆく風景をぼんやり眺めた。このあたりも再開発が進み街並みがずいぶん変わってしまっていて、酒屋さんがコンビニになっていたり、八百屋さんが駐車場になっていたり、銭湯がファミリーレストランになっていたりして少し淋しさを感じてしまった。
大通りを左に曲り少し細い路地進んでゆくと住宅街が広がる。ここでも世代交代が始まっているせいか所々建物が新しくなっている事に気づく。道をしばらく進むと左手に築80年の立派な日本家屋が見えてくる。寺島の家だ。
「運転手さん。ここで止めてください。」
寺島の家の前でタクシーを止めてもらい料金を支払うと運転手さんが爽やかに「御乗車ありがとうございました。」と言ってお辞儀をしてくれた。気分良くなった私は「お釣りはいいから取っておいて。」言って軽く会釈し車から降りた。そして門の横に取り付けてあるインターフォンを押すと、かしこまった声で「はい。どちらさまでしょうか?」と、姉が尋ねてきた。
「わたしよ。わたし。」
「あら、早かったわね。今開けるから入っていらっしゃい。」
家の前には小さな庭がある。一年に一度は庭師に入ってもらい手入れをする決まりを守っているだけあって美しさを保っている。お祖父ちゃんの趣味であった盆栽も姉の旦那さんが受け継いで時々手入れをしているようであの頃のままの姿を留めていた。
「こんにちは。」
玄関で待ち受けていた姉は軽く化粧をし、髪を後ろで縛り、温かそうな白いセーターに千鳥格子柄のスカートを履いてとても若々しい。それに比べ私はそう言う事に疎いから尊敬してしまう。
「いらっしゃい。お上がんなさい。」
「おじゃまします。」
仕事に追われているにもかかわらず、家もきちんと掃除されていてびっくりする。
「あいかわず、綺麗にしてるわね。さすがだわぁ。」
「あら、ありがとう。」
「応接間で待ってて。飲み物持って行くから、お茶とコーヒーがいい? 」
「・・・そうねぇ。コーヒーがいいわ。」
「わかった。」姉はそう返事をすると、さっと台所へ向かっていった。私は応接間に行き、ふかふかのソファに座る。
「へぇ。このソファまだ健在なのね。」
小学生の頃、このソファではねて遊ぶ度に御婆ちゃんに怒られていた事を思い出した。今思うとなにが面白かったんだろうと不思議に感じるけれど、当時の私にとってはこのふかふか感がたまらなかったんだろうなと思った。
この応接間も日本家屋の中に応接間だけ洋風というとても時代を感じさせる作りなのだけれど、手入れが行き届いていて変化と言えば使わなくなった暖炉の上に父と母の仲むつまじい写真が上品なフォトフレームに納められ飾られているくらいだった。