私達の間にできた溝は、母さんのおかげで解消したけれど、その時の名残というか、もともと面倒くさがりの私は寺島の家に行かなくなってしまった。それでも、そのおかげか臆することなく姉に皮肉交じりの冗談を言えるようになったのは私にとって大きな進歩だった。
「姉さんは、いつも手堅いものね。旦那様も霞が関にお勤めで、しかも、お見合いだったし・・・。私には到底分らないわ。」
と、言い放った。すると、姉はストレートに、
「いやだわ。それって嫌み? 」
と、言った。私も負けじと、
「そうよ。嫌みよ。」
と、言い返したら、何となく可笑しくなり二人で笑った。
「そう言えば、旦那さまは健在? 」
「まァ、元気なんだけれどね・・・。」
そう言うと、ため息をついた。姉の旦那様はいつも忙しいせいか姉の結婚式から数えるほどしか会っていない。だから訪問する度に旦那さまの様子を聞くのだけれど、いつもの明快な返事ではなくて、なにかあったのかもと思った私は黙って姉を待った。すると姉は少し間をおいてから歯切れ悪そうに話を再開した。
「実は。つい、この間・・・。口論しちゃって。今、少しぎくしゃくしているのよ。」
「へぇ。口論って、姉さんにしては珍しいね。」
「そうかな。でもね、久しぶりに本気で議論したわ。」
「なんなの? 何が原因なの? 洋司君の事? 」
「洋司の事は何も心配してないわよ。もうお嫁さんに任せてあるから。」
「じゃあなによ。」
「特定秘密保護法よ。」
「えっ。家の事じゃないの? 」
「そうよ。」
「・・・それで。」
私は大きなため息をついた。姉らしいと言えば姉らしいのだけれど、法案を巡って中が悪くなるなんてちょっと考えられない。でもどういういきさつで口論になったのか気になる所。だから私は姉の話の行方を見守る事にした。
「洋介君はね、特定秘密保護法はこれからの国家と国益を守るためには必要不可欠な法だっていうのよ。それでね。科学は飛躍的に進歩を遂げたが、人間の根本は紀元前から進歩していないだろう。したがって、利便性の向上というものは、経済を発展させる要素ではあるが、人間を堕落させ、リスクを増長するだけだから、国家が主体となって抑制し、国民が低きに流されないように導かなければならない。それを怠れば国家が国家としての体を失ってしまいかねないって、そんな不遜な事を言うのよ。」
「はぁ。」
「だからといって、国家と国益のために私達の生活の根幹にかかわる事のすべてを政府の都合で秘密してしまうって、どう考えてもおかしいでしょ。だから、その考え方は、国民主権や民主主義をないがしろにしている。あなたは日本が戦中に戻ってしまってもかまわないっていうの? もし人間の根本が紀元前から変わらないなら、それを作った法案自体に国家の体を失う危険性が含まれているんじゃないの。特定の国に対して守秘する事を約束するよりも積極的に情報を開示したほうが、世界から信頼を得られ、それが国益に繋がるんじゃないのって言ってやったのね。そうしたらお互いにヒートアップして・・・。」
姉は国会中継で行われている答弁している人のようにその趣旨を語るけれど私にはあまり響かないものだった。気持ちは分からないでもないけれど気持ち半分で聞いていた。
「姉さんは、いつも手堅いものね。旦那様も霞が関にお勤めで、しかも、お見合いだったし・・・。私には到底分らないわ。」
と、言い放った。すると、姉はストレートに、
「いやだわ。それって嫌み? 」
と、言った。私も負けじと、
「そうよ。嫌みよ。」
と、言い返したら、何となく可笑しくなり二人で笑った。
「そう言えば、旦那さまは健在? 」
「まァ、元気なんだけれどね・・・。」
そう言うと、ため息をついた。姉の旦那様はいつも忙しいせいか姉の結婚式から数えるほどしか会っていない。だから訪問する度に旦那さまの様子を聞くのだけれど、いつもの明快な返事ではなくて、なにかあったのかもと思った私は黙って姉を待った。すると姉は少し間をおいてから歯切れ悪そうに話を再開した。
「実は。つい、この間・・・。口論しちゃって。今、少しぎくしゃくしているのよ。」
「へぇ。口論って、姉さんにしては珍しいね。」
「そうかな。でもね、久しぶりに本気で議論したわ。」
「なんなの? 何が原因なの? 洋司君の事? 」
「洋司の事は何も心配してないわよ。もうお嫁さんに任せてあるから。」
「じゃあなによ。」
「特定秘密保護法よ。」
「えっ。家の事じゃないの? 」
「そうよ。」
「・・・それで。」
私は大きなため息をついた。姉らしいと言えば姉らしいのだけれど、法案を巡って中が悪くなるなんてちょっと考えられない。でもどういういきさつで口論になったのか気になる所。だから私は姉の話の行方を見守る事にした。
「洋介君はね、特定秘密保護法はこれからの国家と国益を守るためには必要不可欠な法だっていうのよ。それでね。科学は飛躍的に進歩を遂げたが、人間の根本は紀元前から進歩していないだろう。したがって、利便性の向上というものは、経済を発展させる要素ではあるが、人間を堕落させ、リスクを増長するだけだから、国家が主体となって抑制し、国民が低きに流されないように導かなければならない。それを怠れば国家が国家としての体を失ってしまいかねないって、そんな不遜な事を言うのよ。」
「はぁ。」
「だからといって、国家と国益のために私達の生活の根幹にかかわる事のすべてを政府の都合で秘密してしまうって、どう考えてもおかしいでしょ。だから、その考え方は、国民主権や民主主義をないがしろにしている。あなたは日本が戦中に戻ってしまってもかまわないっていうの? もし人間の根本が紀元前から変わらないなら、それを作った法案自体に国家の体を失う危険性が含まれているんじゃないの。特定の国に対して守秘する事を約束するよりも積極的に情報を開示したほうが、世界から信頼を得られ、それが国益に繋がるんじゃないのって言ってやったのね。そうしたらお互いにヒートアップして・・・。」
姉は国会中継で行われている答弁している人のようにその趣旨を語るけれど私にはあまり響かないものだった。気持ちは分からないでもないけれど気持ち半分で聞いていた。