硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「となりのトトロ その後 五月物語。」 37

2014-01-29 16:44:06 | 日記
季節は巡り、電車の車窓から見える外苑の桜はみずみずしいほどの青々とした葉をつけて春の到来を喜んでいた。
あれから私はちょくちょく寺島の家に足を運ぶようになり、姉とたわいのないおしゃべりをしたり、お墓の掃除をしに行ったりして、二人の関係は幼い頃に戻った感じがしていた。それでも、時々話題に昇る私が迷子になった時の出来事は見事なくらい記憶から抜け落ちていて、その話題の度に悩む私を見兼ねた姉は、

「もしかしたら、私がトトロに出会った山に行ってみたら会えるかもしれないわよ。」

と、助言を出してくれた。

「そうね! それはいい考えかも。」

そう思ったら居ても立っても居られない。早速その山への道のりを紙に書いてもらい、近年では桜の名所として知られている場所でもあるというので、娘の希と孫のあかりちゃんに「まだ桜が咲いているらしいからお花見に行かない? 」と、いう口実をつけて誘い出した。

郊外にある我が家から更に山に向けて車を走らせてゆくと、次第に田畑が多くなり高い山々がどんどん迫って来た。
あかりちゃんはお出かけが嬉しいのか、ずっとはしゃいでいて、お気に入りのアニメの歌を大声で歌ったり、そうかと思うとお菓子を食べだしたり、はたまた窓から手を出してみたりとめまぐるしく動いていて、見かねた娘の希が時々「静かにしなさい。」と諭すけれど、それにもめげず喜びを身体全体で表していた。私はそんなあかりちゃんをあやしつつ地図とにらめっこしながら希のナビを務めていた。

「あーっ! 次の信号を右だわ。右よ。右っ! 希、分かった? 間違っちゃ駄目よ。」

「大丈夫よ。母さんじゃあないんだから。」

「なんて事言うのよ。いやだわぁ。」

「何言ってるのよ。母さんの娘だからよ。」

「いやな事を言うわねぇ。」と、言うと希が大声で笑った。

信号を右に曲がると、屋敷林で囲まれた民家の間を縫うように細い登り道が山の方向へと延びていた。

民家を抜けると、田園が山のすそ野まで広がり、いつでも田植えが出来るように水がはられていて、あぜぬりや草刈りといった農作業をしている人が見えた。その風景は私達が住んでいた松之郷の景色とよく似ていて懐かしい感じがした。更に進むと、山が左右に迫ってきて川に沿って延びる道もくねくね曲がりだし、そびえる山の緑の中にポツンポツンと桜色が見えた。

「まだこの辺りは桜が咲いてるのねえ。あれは八重桜っていうのかしらね。」

「そうね・・・。本当に綺麗ね。」

あかりちゃんがふいに窓を開けると、晴れているのに冷たい風が入ってきた。希が「寒いから窓閉めなさい。」と諭すと、あかりちゃんは「は~い。」と言って窓を閉めた。山間はまだ3月の上旬ほどの陽気のようで肌寒い。
川沿いのガードレールに括りつけられた駐車場の看板を過ぎると、右側に駐車場が見えた。すでに6台ほど車が留まっていて、トレッキング姿の中高年の夫婦がリュックを背負いながら楽しそうに話をしているのが見えた。