悲しいわけでもなく、辛いわけでもない。ただ、母さんに余計な心配を掛けさせてしまった自分が情けなくて、それを赦してくれた母さんの優しさにとめどなく涙がこぼれた。
どれくらい泣いていたか分からないほど高ぶっていた気持ちがようやく落ち着いてきた頃、メイが病室を訪れた。メイの顔を見ると、とても不安になっているのが分かった。
「・・・母さん。大丈夫。」
「メイ・・・。元気そうね・・・。よかった。」
「なかなか会いに来なくてごめんなさい。」
「いいのよ。元気でさえいてくれれば。」
「・・・うん。」
「さあ。ようやく二人揃ったわね。今日は二人に話があるのよ・・・。これは母さんの最後の望みだからよく聞いておいてね。」
母さんは、穏やかに語りだしたが、メイは今にも泣きだしそうだった。
「母さん。最後の望みってそんなこと言っちゃやだ。」
「そうよ。母さん最後の望みなんて駄目だよ。」
「ばかねぇ。母さんはもう83歳よ。それに二人の娘を立派に育て上げたからもう十分よ。」
「やめてよ。母さん。」
「・・・・。」
「いい。よく聞きなさい。まずね、二人の間に何があったかは知らないけれど、二人とも母さんの子供なんだから仲よくしなきゃだめよ。」
「・・・うん。」
「・・・・。」
「ほら、仲直りの握手なさい。」
そう言われても、二人の間にはわだかまりがあるから、どちらも握手をする気持ちにはなれなかったが、それでも母さんの頼みなのだからしないわけはいかない。私はしぶしぶメイに手を差し伸べて握手をした。
「よしよし。それでいいわ。それからもうひとつ。」
「まだあるの。」
「ええそうよ。これは母さんの遺言だから必ず聞いてね。」
「・・・母さんがどんなに苦しんでいても、延命治療は決してしないでほしいのよ。父さんが必ず迎えに来てくれるはずだから、父さんと共に自然に行かせてほしいの。」
「嫌だよ。母さん。そんな死んじゃうようなこと言っちゃあ。」
「・・・。」
「メイったら、いつまでたっても甘えん坊さんだわね・・・。でも、いつかは死ななければいけないものだし、死を迎えるなら自然に任せたい。この歳になって、この身体を思う時、生きる事への執着は自分を苦しめるだけ・・・。」
「そんなぁ。」
「残される者の都合の為に長生きすることは、結局、誰のためにもならないのよ。貴方達がその事を分からなければ、母さんは貴方達が先にあの世に行くまで生きていなければならなくなるじゃない。そうでしょ? 」
「・・・。」
「母さんはもう十分よくしてもらったから、今度は貴方達が旦那さんや子供や孫のために一生懸命に生きなさい。人生はままならない事の方が多く、気苦労が絶えないものだけれど、だからといって、横着になっては駄目よ。困難な時は二人で助け合い、足りるを知り、ささやかな幸せに喜びを感じていれば、いい事もかならずあるから。」
「・・・うん。」
「母さん。私達は大丈夫よ。だって、母さんの子供だもの。私達の事は心配しないで、身体を治して、早く家に帰りましょう。」
「ありがとう。でも、これで安心したわ・・・・。」
そう言うと、ふ~っと息を深く吐いた後、「少しおしゃべりが過ぎたせいか、少し疲れたわ。ちょっと横にならせてもらうわね。」
と、言って母は横になって目を閉じた。メイは目に涙をいっぱいためていた。
「じゃあ、母さんまた明日来るから。」
メイがそう告げると、母は小さく頷いた。私達は静かに病室を離れると、帰ろうとするメイを呼び止め、待合室でお茶を飲みながら母から言われた事について話し合う事にした。
どれくらい泣いていたか分からないほど高ぶっていた気持ちがようやく落ち着いてきた頃、メイが病室を訪れた。メイの顔を見ると、とても不安になっているのが分かった。
「・・・母さん。大丈夫。」
「メイ・・・。元気そうね・・・。よかった。」
「なかなか会いに来なくてごめんなさい。」
「いいのよ。元気でさえいてくれれば。」
「・・・うん。」
「さあ。ようやく二人揃ったわね。今日は二人に話があるのよ・・・。これは母さんの最後の望みだからよく聞いておいてね。」
母さんは、穏やかに語りだしたが、メイは今にも泣きだしそうだった。
「母さん。最後の望みってそんなこと言っちゃやだ。」
「そうよ。母さん最後の望みなんて駄目だよ。」
「ばかねぇ。母さんはもう83歳よ。それに二人の娘を立派に育て上げたからもう十分よ。」
「やめてよ。母さん。」
「・・・・。」
「いい。よく聞きなさい。まずね、二人の間に何があったかは知らないけれど、二人とも母さんの子供なんだから仲よくしなきゃだめよ。」
「・・・うん。」
「・・・・。」
「ほら、仲直りの握手なさい。」
そう言われても、二人の間にはわだかまりがあるから、どちらも握手をする気持ちにはなれなかったが、それでも母さんの頼みなのだからしないわけはいかない。私はしぶしぶメイに手を差し伸べて握手をした。
「よしよし。それでいいわ。それからもうひとつ。」
「まだあるの。」
「ええそうよ。これは母さんの遺言だから必ず聞いてね。」
「・・・母さんがどんなに苦しんでいても、延命治療は決してしないでほしいのよ。父さんが必ず迎えに来てくれるはずだから、父さんと共に自然に行かせてほしいの。」
「嫌だよ。母さん。そんな死んじゃうようなこと言っちゃあ。」
「・・・。」
「メイったら、いつまでたっても甘えん坊さんだわね・・・。でも、いつかは死ななければいけないものだし、死を迎えるなら自然に任せたい。この歳になって、この身体を思う時、生きる事への執着は自分を苦しめるだけ・・・。」
「そんなぁ。」
「残される者の都合の為に長生きすることは、結局、誰のためにもならないのよ。貴方達がその事を分からなければ、母さんは貴方達が先にあの世に行くまで生きていなければならなくなるじゃない。そうでしょ? 」
「・・・。」
「母さんはもう十分よくしてもらったから、今度は貴方達が旦那さんや子供や孫のために一生懸命に生きなさい。人生はままならない事の方が多く、気苦労が絶えないものだけれど、だからといって、横着になっては駄目よ。困難な時は二人で助け合い、足りるを知り、ささやかな幸せに喜びを感じていれば、いい事もかならずあるから。」
「・・・うん。」
「母さん。私達は大丈夫よ。だって、母さんの子供だもの。私達の事は心配しないで、身体を治して、早く家に帰りましょう。」
「ありがとう。でも、これで安心したわ・・・・。」
そう言うと、ふ~っと息を深く吐いた後、「少しおしゃべりが過ぎたせいか、少し疲れたわ。ちょっと横にならせてもらうわね。」
と、言って母は横になって目を閉じた。メイは目に涙をいっぱいためていた。
「じゃあ、母さんまた明日来るから。」
メイがそう告げると、母は小さく頷いた。私達は静かに病室を離れると、帰ろうとするメイを呼び止め、待合室でお茶を飲みながら母から言われた事について話し合う事にした。