下級武士の住まいだった古い町屋の中は馬1頭がやっと通れるほどの道幅が迷路のよう連なっている。外敵の侵入を防ぎ迷いこませるには格好の区画だろう。子どものころ、このあたりの家の周囲は高い杉囲いでその内側は見えなかった。時代とともに現代風な家が建ちはじめ、杉囲いはブロックに変わり高さは低くなり道筋は少し明るくなったが、道幅はいかんともしがたい。
そんな迷路状の通りをくねくねと散歩するのも楽しい。大方の家に四季の花が咲かせてある。今は蝋梅とサザンカが塀の外に散らばり、花の咲いた梅の枝がそれを見下ろしている。水仙の花もようやく大きく見え始めた。寒かった冬が少し邪魔したようだ。
姿が見えなくなるまで吠え続けていた犬も寝そべって知らぬ顔をしている。無害な老人と分かってくれたようだ。のんびりしたように思えるが危険がある。曲がり角で出会う自転車、道幅が狭いだけに双方の避けしろがない。最近は曲がり角では一旦止まり、確認をしてから進む。「用心はして悔やめ」という、用心に越したことはなかろう。
分かれ道で右か左か、今日は右へ。ローカル線の踏切。蒸気機関車の標識が面白い。1枚撮っておこうとミニカメラを取り出した。それに合わせたように遮断機が降りはじめる。D51などの蒸気機関車がこの線路から姿を消したのが1971(昭和46)年、迫力あったそれを思い出しながら1両だけののジーゼルカーを見送った。