2012年05月31日 毎日新聞「はがき随筆」掲載
母の日、贈り物の代わりに遺影の額縁を拭く。ほほ笑んでいる顔から、あの時を思い出す。
「写真部に入る」と高校入学式の日に息子が希望。初めてカメラを手にした第一声は「おばあちゃんを写す」だった。よそ行きの姿でうれしそうな母ヘポーズをつけながら、真剣に何回もシャッターを押していた。
母はその中の1枚を大層気に入り「遺影はこれでお願い」と言う。軽い気持ちで聞き流していた。それから2年、その1枚は母の願い通りとなり、予知していたのかと驚いた。高3だった息子の目は潤んでいた。
存命なら今年は白寿の祝い。