回数にすればかなりの回数と思うし、年数にすれば何十年という長い間その前を行き来していた通りに手押しポンプのあることをごく最近気づいた。何と、うかつだったことかと思いながら撮った。同様のポンプは川沿いの菜園では幾本か見かける。また、古い家の続く裏通りを歩くと壊れかけた塀内や屋敷跡でも見かける。水道が普及するまでは家庭用水を得るには欠かせないポンプだった。
このポンプは、ハンドルを上下させピストンに往復運動をさせることで水を吸い上げる。取り扱いは簡単で子どもでも容易に扱え、家事手伝いの一つになった。たまに迎え水を差すこともあった。何となく大きな仕事をした気分になったようなことを思いだす。見かけたポンプはハンドルが外されているが、取り付けて迎え水を差しても周囲の様子から汲み上げそうには思えない街の骨董品のようだ。
手押しポンプには「津田式」の文字がついていた記憶がある。前身は昇進ポンプと呼ばれ広島県が発祥の地らしい。各家庭への普及は昭和10年代半ばというから、その歴史は浅いようだ。若い人には「トトロの井戸」と言えば手押しポンプに通じるという。
骨董的ポンプの残っている辺りは藩政時代の岩国七町の一つで宿場町で栄えたよその町の商人が移住した通り。美しい日本の歴史的風土100選に選定されている。近年は歴史を感じさせる旧家も、車社会という時代の波に押されるように今風に建て替わり始めている。ポンプ足下では、耐震用水道管の施設工事が進んでいる。手押しポンプはそんな変わりようをどう眺めているだろうか。