日々のことを徒然に

地域や仲間とのふれあいの中で何かを発信出来るよう学びます

小さな大冒険

2021年03月04日 | エッセイサロン
2021年03月04日 中国新聞セレクト「ひといき」掲載


 ある有名な川の源流。そこから湧き出る澄みきった神秘的な水-。そうした映像をふとしたきっかけで見た。「源流」という言葉など知らない小学生時分の小さな大冒険が胸をよぎる。
 それは単純な疑問から始まった。この小川の上流はどうなんだろう、そこへ行ってみよう、と深く考えもせず向かった。今
にして思えば無謀極まりない。親や先生にばれてしまえば、厳しく叱られるかもしれなかった。だが、そんな心配はつゆぼどもしなかった。山も小川も、畑や雑草の広場も、全て遊び場で怖さなどみじんもなかった。
 山の麓で川に入り、浅い流れの中を上流へ進む。二つの砂防ダムを越える。勾配は次第にきつくなる。だがさして苦では参なかった。しばらく行くと、谷幅は狭くなり勾配が増した。両側の山肌から垂れ下がる木の枝や背丈以上の雑草に阻まれて、進めなくなった。
 そこら辺りまで、うっすらと記憶に残っている。子どもだから、割とあっさり諦めて引き返したのかもしれない。だから記
憶にないのかもしれない。
 小川は、子どもにとってはフナを釣る遊び場だった。大人の社会では、錦帯橋の架かる本流の錦川へ届くまで、家庭用の井戸水や途中に広がる稲田の大切な水源だった。
 その稲田。今は幹線道路が通り、広い商業地帯となっている。かつてをしのぶものはない。散歩の折、小川の源流を目指して山を見上げる。遠い山は昔のままで変わらない。

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