
城下町ということもあって散歩のコースにはいくつも寺がある。新しい住居表示に変わる前には、岩国七町と並行して寺町という名称の通りもあった。どの寺の門前にも法話や参拝のお知らせの掲示がある。それに並んで、仏の教えを表す短い言葉やその解説など意味深い言葉が毛筆でしたためられている。
散歩中、その掲示が新しくなっていると、どの寺の前でも立ち止まって黙読する。真の意味は何だろう、そう思う墨書が多いが、気持ちだけは安らかになった気がして再び歩き始める。「受けたご恩は返すのは難しい せめてできるのは恩送り」、これは春の彼岸会の後で菩提寺の掲示に貼られた。
恩送り、この言葉はエッセイ同人のYさん(女性)が2度にわたって作品にしている。1編目は恩送りを知った経緯とそれを実行した内容。2編目は、最初の作品を読まれた方が1編目を携帯し仕事に活かされていることを知り、共感してくれる人が身近にあっておどろいたが励みになったという内容が書かれている。1編目は東日本大震災直後の作品で、被災地へ恩送りを始めた内容になっている。私はこの作品で恩送りという教えを知った。
Yさんは「恩送り」について次のように書かれている。辞書に「恩返し」はあるが「恩送り」はない。お世話になった方へ親切を返そうにも返せない場合、代わりに誰かにその恩返しを受けてもらう。送られた次の人がまた次の人に送り、たくさんの人たちで送り繋いでいく、という意味を持つらしい(自費出版「おしめほしたる」より転載)。知っている言葉が目に入るとやはり心するものを感じ心がけようと思う。