空野雑報

ソマリア中心のアフリカニュース翻訳・紹介がメイン(だった)。南アジア関係ニュースも時折。なお青字は引用。

平行と並行/並行と平行 2

2009-01-16 20:05:39 | 国語
 承前 平行と並行/並行と平行 1

 異なる主語が同時に進行することを言う「並行」の例:

「ちょうどその頃,宗教の再生運動や,アルジェリア人が自己のアイデンティティーをイスラームの価値観と一致させようとする動きも並行して起こっていた」(私市正年『北アフリカ・イスラーム主義運動の歴史』白水社,111頁)

「一度できた体系は,後に他の新しい有力な思想が生れても,依然それと並行して生命を保って行く」(金倉円照『インド哲学史』6頁)

「猿楽の徒は古くから《翁》を尊崇してきたのであるが,それに並行して,神を《翁》のイメージとする思想が広まっていた」(小松和彦『神々の精神史』講談社学術文庫版,185頁)。

 但し小松は同書において並行・平行を必ずしも区別しない:

「現代の私たちに意義があるかないかで,過去の事実を選別し,そして時間軸にそって配列していく作業もまた重要なことと思うが,しかしそれに平行して,対象とする過去の時代に生きた人々の思考に可能なかぎり近づき…」(小松和彦『神々の精神史』講談社学術文庫版,12頁);「こうした考察の結果,昔話群Aと昔話群Bとにみられる平行性に注目することによって…」(小松和彦『神々の精神史』講談社学術文庫版,78頁)

 同時進行の一方のみ指示される場合。この場合,前後の文脈によって他方が明らかでなければならない:

「ミロシェビッチは並行して,アルバニア人の自治権制限にのり出す。」(千田善『ユーゴ紛争』講談社現代新書,192頁)

 つまり「並行」は寧ろ時間的関係(更には論理的関係)をいうものと思われる。平行は空間的(もっと言えば,数学的)な概念であると考えられる。この理解からは,以下の例は疑問:

「ユネスコの調査活動は一九四七年にはじまり,国連の委員会が討論をつづけるのと平行して活動をつづけ…」(E.H.カー,『ナポレオンからスターリンへ』p.16下)
「ナチ・ドイツの時代は,日本の軍部ファシズムの時代と平行している。」(内山敏訳『ナチスの時代』岩波新書,訳者前書きiv)

複合語中において:
並行関係:
「バーミヤーンの円堂や八角堂がこれらと直接関係するかどうかはわからないが,少なくとも建築構造の上でインドとの繋がりはほとんど見られず,地中海や中近東のキリスト教建築と並行関係にあるといえよう」(宮治昭『バーミヤーン,遥かなり』258f.)

並行現象:
「肝臓をいためる殺虫剤がひろく使われるようになってから,肝炎が急にふえてきたのは,興味ある並行現象である」(カーソン,青樹訳『沈黙の春』p.250)
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