空野雑報

ソマリア中心のアフリカニュース翻訳・紹介がメイン(だった)。南アジア関係ニュースも時折。なお青字は引用。

「フェミサイド」を持ち出す向きがあるようだが

2020-09-09 17:11:22 | ノート
 珍し気な単語で一発当てたい気持ちでもあるものか、私としては「この記事が出してるデータでだいたい話が終わってるじゃねえか」とか「統計で本当をつきつつひとを誤導するのは商売として正道を行ってはいないよな」とか思うんですが。

Huffpost 日本の殺人事件での死亡者は、女性が男性を上回る。「フェミサイド」の実態は? 2019年10月07日 15時12分 JST | 更新 2019年10月28日 15時49分 JST 小笠原泰明治大学国際日本学部教授・トゥールーズ第一大学客員教授

仮に、日本で100件の「女性が女性であるがゆえに、男性によって殺されるフェミサイド」が発生したとして、日本政府は迅速な対応を取ることができるだろうか

 女性が女性であるがゆえに殺される―そこまでのヘイトクライムはなかなか発生しがたく、まあ人目をひく作文としてはまあよろしい。

そもそも「femicide」という言葉は、1970年代に活躍したアメリカのフェミニストであるダイアナ・ラッセルによって広められたといわれる。今回の記事では、「femicide」を、「女性(少女を含む)が女性であるがゆえに、男性によって殺されること」と定義する。またその背景には女性への差別意識があると筆者は考えている

その背景には女性への差別意識があると筆者は考えている」と考えるのは自由だが、女性が女性であるがゆえにさっくり殺される例なんてのは―はっきりと統計的に示せる地域がありますな。中国の一部とか。出生した男女比が1000:820とかになっちゃう地域。これは、わりとはっきりと女性に対する差別意識の産物といえる。

 …経済的な・生活保障的な意味での殺害でもあり、貧困問題でもあり、一人っ子政策の関係上、政治問題でもありますが。インドでも同様ですな、下手に女の子が生まれて育っちゃうと結婚の際の持参金で詰むので、生まれるや否やのところで処分するとかいうパターン。

 しかしそれらは「幼児殺し」「嬰児殺し」と認識され、フェミサイドのうちには数えられない。

世界では大きな問題と認識されていて、「femicide」の多い地域としては中南米、南アフリカ、ロシアがあげられているが、インドでも凄惨な「femicide」が行われていることが報じられている。男性が見知らぬ人に殺されるケースが多い一方、女性は知り合いによって殺される確率が高いことが「femicide」の特徴である

 あくまで成人になってから―数えるらしい。

EU統計局(European Statistical Office)の2017年のデータによると、女性10万人あたりのパートナーによる殺害率は、ドイツが0.23人、フランスが0.18人、スイスが0.13人、スペインが0.12人、イタリアが0.11人とある

 配偶者・交際相手による、DVの延長線上にある殺人をまず数えるとでも言えばいいか。

もしかしたら、日本は殺人の少ない安全な国なので大きな問題ではないとお考えの読者もいるかもしれない。

確かに日本の犯罪率は極めて低い。2017年の国際比較では、日本の10万人当たりの殺人発生件数(殺人の定義は「非合法かつ意図的に他人を死に至らしめたもの」とし、殺人未遂、過失致死、正当防衛による死亡、法的介入による死亡、戦争・武力紛争による殺害は含まない)は0.24であり、174国中168位である。ちなみにフランスは、1.27で121位である


では、別の見方をしてみよう。前述の国連の報告書にもある通り、殺人の大多数(8割とも言われる)の被害者は男性だと言われている。では、日本の場合はどうであろう。

警察庁発表のデータによると2018年は、男性が404人、女性は286人であり、男性の方が1.5倍ほど多く、約6割である。フランスでみると8割以上が男性である(※1)


これらのデータ上の数字からは、女性が被害者となる殺人事件の加害者における男性の割合まではわからないが、少なくとも殺人による被害者は女性の方が多い、つまり日本は男性にとっては安全な国かもしれないが、女性にとっては危険な国なのかもしれない、ということがいえるのではないだろうか

 こんな伝統的な「~ということがいえるのではないだろうか」で問題提起するのは、もはやその立論が怪しげであることを示唆するものかもしれない。

※1 この数字は、フランスの人口約6500万人と上記のフランスの殺人事件発生率1.27%から死亡者数825人を筆者が算出。そのうえで2018年のフランスにおける女性の死亡者数約121名から男性比率を同じく筆者算出している

 つまり、人口約1億2000万の日本で690名の殺人被害者があり(2018年実績)、他方フランスの約6500万人から約825名の殺人被害者があったというなら―日本のほうが危険だ、日本の女性は明らかに殺されすぎだとは、ちょっと、言えないわな。―まあ割合的にどうも日本の女性は殺されがちだ、とまでは言えるが。

 ともあれフェミサイドの問題は、社会運動的には「女性が女性であるがゆえに、男性によって殺される」ことにあるが―皮膚感覚的には「女に対してあまりに『引き金』が軽い」点にあろう。強姦したついでに殺すとか、家庭内暴力の延長線でさくっといくとか、殺したついでにバラすとか(※外国の実績)。

 そして現実的には、女性であるがゆえに殺害される―ナチス支配下でユダヤ人がユダヤ人であるがゆえに殺されることになるようには―のはなかなか想定しがたい。いやまあ、『真夜中に目の前をマブい女が歩いてたので襲ったうえ、ばれるのを避けるために殺した』くらいまでいけばともかく(※女性側が有名人だと大騒ぎになる(※なった))。実際は家庭内暴力や痴情のもつれ、ストーカーの果てってなもので。それらをふくめてフェミサイドとして大きな社会運動にもっていくのだろうけど―日本ではなかなか、そこまでもっていくのは難しいのじゃないかなあ。

 通り魔殺人は、この主題になかなかに適合するものがあるが(cf. 福岡通り魔殺人)。明らかに非力な個体を狙うという抽象化をするのが通例で、必ずしも女性に限らない。いや福岡通り魔殺人(8/28発生)はしっかり21歳女性を殺害、6歳少女をロックオン、で、フェミサイドとしての理解を許すのだが。

 ―どんな概念として受容しようというのか、その辺の吟味をしっかとすべきじゃないかなあ。
 そもそもメキシコあたりでフェミサイドと言った場合、ジェンダーに基づく憎悪犯罪としてのフェミサイドじゃないんじゃないのか、あれ。

【ジェンダー問題】【gender問題】【憎悪犯罪】【ヘイトクライム】
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