「風化しても 澱んで 残る」、坂本堤弁護士一家殺害事件から20年が経過
6日(日)付の読売新聞で、「オウム真理教による坂本弁護士一家殺害事件からまもなく20年。坂本さんの妻郁子さんの遺体が見つかった富山県魚津市の慰霊碑前で7日、夫妻と親交のあったバイオリン奏者、松本克巳さん(56)が坂本さんの愛した『タイスの瞑想曲』(マスネ作曲)を演奏する。松本さんは『事件を風化させない、との思いを込めたい』と話している」との記事に接した。
坂本弁護士一家がある日突然に行方不明となったのは、1989年11月のことだ。そして、誰の犯行かわからない状態、そして坂本弁護士一家が見つからない事態が長く続き、ついにはオウム真理教の犯罪に行き着き、死体も発見された。
私は、まだご一家が見つからない時期に、坂本弁護士のお母さんのお話を聞いたり、また坂本弁護士と机を並べて仕事をしていた同僚の弁護士の方のお話も聞いた。同僚弁護士のお話を聞いた友人が、その概要を書いたものが今手元にあるので紹介したい。
「…彼ら一家は、ある夜突然消えた。一見平和で、人権も民主主義もそれなりに確立しているように見えるこの国で。平穏の真後ろが暗闇につながり、表面上の平和も人権も民主主義も一夜にして飲み込まれてしまう。…犯人の狙いが、人権や民主主義のためにたたかう人を暴力的に排除し、その恐怖をもって人権や民主主義を破壊しようということにあるなら、これを未解決のまま放置することの危険性は計り知れない。坂本事件もマスコミ報道される機会がめっきり減った。この事件の風化は、単に事件が忘れ去られることを意味しない。闇から放たれた矢の恐怖は、確実に人々の心の奥底に、澱みのように沈殿している。犯人の狙いを砕くのは、広く国民が『許せない』と立ち上がり、その過程で民主主義的力を身につけることではないか…」
そしてその弁護士は、続けて次のように語っている。「弁護士は人権を守るべく、全力をあげる。たとえ、我が身に危険が及ぶかもしれれなくても。しかし、坂本事件のように、家族の身にも危険が…、となると。もちろん、弁護士は頑張るけれど、自分のことだけなら一歩踏み込めていたものが、家族のことを思うと半歩しか踏み込めなくなるかもしれない」と。弁護士の活動が脅かされることは、私たち国民の人権が守られ難くなることを意味している。
今年の11月で、丸20年目となる坂本弁護士一家殺害事件を決して私たちは風化させてはならないと考える。この事件を教訓とし、国民が「民主主義的力を身につける」、そのことを急がなければならないと考える。