多喜二を笑いと涙で包み組曲に仕立てた、井上ひさしの名作「組曲虐殺」
「我々の藝術は 飯を食えない人にとっての 料理の本ではあってはならぬ」、小林多喜二(1903年生まれ)の書いた色紙の言葉である。プロレタリアート作家として高名で、80年前に書かれたその著書『蟹工船』は、今日の格差社会の中で、若者達に愛読されベストセラーとなっている。その小林多喜二は、29歳の若さで、特効警察の手で拷問され虐殺されている。
そんな小林多喜二に、劇作家井上ひさしが挑戦したのが、舞台「組曲虐殺」である。井上ひさしがどのように多喜二を表現するのか、とても興味深く、少し遠くはあるが、昨日「兵庫県立芸術文化センター」でその舞台を観た。
舞台奥の少し高いところに、ピアニスト小曽根真が、ピアノを生演奏しているのが浮かび上がる。そして出演者全員が「小林三つ星堂パン店 小樽で一番のパン屋さん」と歌い始める。演出は、栗山民也だ。
井上ひさしは一つの作品を描くのに、その資料代だけでも1千万円も要すると以前に聞いたことがある。小林多喜二の作品を徹底的に読み込み、かつその周辺も実に入念に調べて、書かれているのがとても良く理解できる。そしてそれを、井上作品らしく喜劇に仕立て上げ、今回は加えて組曲として、しかも笑いとともに、涙も用意されていた。笑い声とともに、ときおり会場からすすり泣く声が溢れる。まさに、素晴らしい舞台であった。
やはり、井上ひさしの戯曲はとても素晴らしい。小林多喜二を、著書『蟹工船』と同じように、今日に蘇らせた。感動だ。そして、今回の舞台では、高畑淳子が抜群の存在感を示して、魅力的だった。
これまで、岡山以外で舞台を観るのは、松たか子の舞台か劇団新感線の舞台程度であったが、今回は無理して観に来て良かったと思える、豊かな舞台だった。