ゆうべは、数少ない私の馬券逆転劇をつらつら書きなぞっていたのだが、はじけるように記憶がよみがえってきた。ついでに、少し披露してみる。
あれは社会人2年目の夏ではなかったか。もちろん、独身である。給料はすぐに飲み代と馬券代に消え、一週間もすると100円が1万円の価値に変動する。その日も、給料日までまだ1週間以上あるにもかかわらず、所持金は1000円足らずの惨憺たるありさまだった。日曜、近所に住んでいた同僚と朝からアパートでぐだぐだしていたのだが、二人して競馬好きとあって、やはり思いは競馬に向くわけで、有り金で勝負しょうという話になった。とはいっても、二人合わせても軍資金は2000円足らず。「定期があれば、仕事にいける、こんな金ないのと一緒だ行こうぜ」てな具合だった。
向かった先は地下鉄で15分足らずのすすきのウィンズ。新聞代ももったいないので、競馬会発行の出馬表を見て、買い目を決めた。選んだのは札幌4レース、軸はエバンズシチーだった。なぜそうなったのは記憶が定かではないが、たぶんジャズ好きだったから、ビルエバンスにひっかけただけかもしれない。ともかく、それが当たり枠連で1700円ついた。500円かっていたので、所持金が8500円に膨らんだ。
すっかり気をよくして、そのままタクシーで札幌競馬場に乗り込んだ。新聞も買ってやる気満々だったが、結局ずるずると負け続け、最終レースを前に所持金は1500円、配給原点を割り込む始末だった。
もともと一度は「こんな金ないのと一緒」と始めたわけで、躊躇なく最終有り金勝負に出た。負ければ北区のアパートまでオケラ街道をとぼとぼ歩くことになるわけだが、勢いはとまるわけがない。
そして、ここでも私の土壇場のひらめきが降ってきた。「やっぱ、ノーザンテーストでしょう。イブキカザンで勝負だ」と宣言すると、すでに同僚はあきらめの境地だったらしく、「まかせた」のひとこと。結局、イブキカザンから各500円の枠連3点流しで勝負に出た。終わってみれば、カザンが勝って4-5の2千ン百円。してやったりで、万札ゲットとあいなった。タクシーは混んでいると予想し、意気揚々とオケラ街道を徒歩で帰ることにした。気分上々で疲れはない、それでも夏である。のどは乾くわけで、生が飲みたい、ジンカン(ジンギスカン)食いてえと叫び、北24条のとある石焼ジンギスカンが名物の店に駆け込んだが、満席。それなら寿司だと同じフロアの寿司屋に入り、カンパイと洒落込んだ。飲んで食ったら、残ったのは配給原点。とんだ逆転劇ではあったが、いい時代だった。