tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日本経済のバランス回復に必要な賃上げとは?

2023年01月20日 12時15分23秒 | 労働問題
前回は今春闘では積極的な賃上げが必要と書きました。これは多分ある程度実現するでしょう。最近のアンケート結果の3%未満の予想を超えるのではないかと思っています。

マスコミでは、ユニクロが最大4割の賃上げをして、国内従業員賃金水準を海外並みに引上げるとか。サントリーは6%アップを目指す、キヤノンは一律7000円のベースアップなど、大手企業の積極的賃上げの姿勢が見え始めています。

これらは、いずれも結構なことだと思います。
しかし、本当に日本経済の安定成長路線のへの復帰という問題を考えれば、少し構造的な問題を指摘しておかなければならないように思います。

実は、過去の賃金水準の引き下げの動きの中身を見ますと、それは、正規従業員の賃金の引き下げによるよりも、圧倒的に大きいのは、正規従業員を定年や早期退職で減らし、低賃金の非正規従業員を増やすことによって行われているという問題です。

十分に訓練された正規従業員を減らし、訓練されていない非正規従業員を増やすことで、人件費の削減は出来ても現場力、現場の生産性や能率は大きく落ちます。
これが日本企業の技術レベルアップを遅らせ、韓国や中国に追い越された大きな原因の1つであることは広く指摘され始めているところです。

つまり、正規従業員を削減し、非正規従業員で補充し賃金コストを切り下げた事は、一方では企業の賃金コストを切り下げ長期不況に対応する効果はありましたが、企業全体の熟練度を引き下げ、世界的技術革新競争の中で日本企業の競争力を大きく遅らせることになったのです。

この長期不況の中での習慣が、円レート120円になったアベノミクス以降も続き、韓国・中国はじめ多くの国々に後れを取り、1人当たりGDPが世界のベスト5入りといった地位から28位(2020年)にまで転落したことの大きな原因にもなったのです。

こう見てきますと今春闘をスタートとして今後の日本経済をかつての健全、強力なものに持ち上げていくためには、単なる賃上げではなく、非正規従業員の正規化と本格的な技術・技能形成を進め、非正規労働力を中心に、日本の労動力総体のレベルアップと賃金の上昇を改めて本格的にやることが必須なのです。

残念ながら、今春闘に向けての議論の中で、「賃上げが必要」という声は広く一般化して来た感じは受けますが、雇用者の15%ほどから40%にまで増えた非正規労働力の正規化という声は、あまり多くは聞かれません。

しかし改めて、長期不況の中で日本企業がやって来た事を確り振り返れば、最大の問題は教育訓練の行き届いた正規従業員を減らし、賃金の大幅に安い非正規従業員で当面間に合わせて賃金コストを下げ、その是正をしてこなかったという現実に気づきます。

しかもそれが、円レート正常化後も10年近く放置されたことが日本経済の正常化を大きく遅らせたことを、今日本は漸く気付き始めたという事ではないでしょうか。

賃上げ促進は必要です、しかしその人件費増の最大の部分は非正規労働力を正規化することによる賃金の上昇、さらに、徹底した教育訓練をするために充てるという視点も確り入れておいて頂きたいと思うところです。

賃上げは日本経済のバランス回復に必要

2023年01月19日 14時17分59秒 | 労働問題
これから日本経済は春闘の期間に入るわけですが、前回指摘しましたように、今年はまさに異例の年で、労使が共に賃上げの必要を力説しているのです。

マスコミを見ても、労使だけでなく政府も学界も評論家もみんなが、賃上げが必要と言っているのですから、必要なことは間違いないでしょう。
今回は、何故そんなことになったかを確り見ておきたいと思います。

話は1985年のプラザ合意、1991年のバブル崩壊にさかのぼりますが、プラザ合意による円高とバブル崩壊でその後30年ほどに亘って日本企業は賃金コストの引き下げに必死でした。賃金水準を下げなければ企業が死ぬ事(破綻・倒産)になるからです。

それからリーマンショックによる円高もあり、日本企業は2012年まで、賃金コストの引き下げと生産性向上に懸命の努力をしましたが、円高分の賃金コスト引き下げには至りませんでした。

それを救ったのは日銀の異次元金融緩和政策で、円レートは1ドル80円から120円の円安に戻り、対外的には日本経済はバランスを回復しました。
対外的なバランス回復は、国内の経済バランス回復のチャンスでしたが、日本はここで対応を誤ったのです。

円安で日本の産業は国際競争力を回復し、企業収益は順調に増大しました。しかし企業は、これまでの賃金コスト引き下げ必要という意識から抜けられず、国際競争力回復の恩恵(円建ての付加価値増加)を賃金上昇に配分する必要に気付かなかったのです。

端的に言えば、円高になった時の賃金引き下げた分は、円安になったら賃金引き上げで元の戻さなければ、国内経済のバランス(賃金と利益のバランス、投資と消費のバランス)は回復しないという事に気付かなかったのです。

これはアベノミクスの初期にキッチリ労使がやらなければならなかったのですが、企業は円安にホッとしただけで、増収増益に浮かれそこまで気が回りませんでした。

連合(労働サイド)は、これまでの賃金引き下げ要請がなくなり、定昇主体の賃上げが可能になったところで安心し、下がった賃金水準の復元の要求をしなければならない事に気付かなかったようです。

こうした、現状認識の遅れによる国内経済バランスの悪化は、長期に亘る消費不足経済、貧困家庭の増加、将来不安・老後不安の増幅もあって、健全な日本経済社会の回復に大きな障害となってしまったのです。

偶々昨年来の急激な輸入インフレに直面し、賃金への配分の不足が顕在化し、今迄の対応では日本経済の回復は不可能と気づくことになって、その修復を今春闘から始めようという事になったことは、些か遅かったとはいえ、本当に良かったと感じるところです。

今春闘に関しては、それが単に輸入インフレで消費者物価の上昇が4%に達したからといった短期的なものではないという事を認識すべきでしょう。

これまでの長期不況を下敷きにした、日本経済の配分構造の是正という大きな課題解決の第一歩という本質的、構造的な視点を見落とさない事が重要と考えるところです。

さらに、問題はもう一つあります。それは、より詳細な雇用・賃金こうぞうの検討を必要としますが、「非正規労働者の増加」という問題です。これは次回確り見ていきたいと思います。

日本経済の今後を決める2023春闘

2023年01月18日 11時48分14秒 | 労働問題
昨日、日本経団連が今春闘に向けた「経労委報告」を発表しました。この報告書の第1号は1975年の春闘に向けて当時の日経連が発表した「大幅賃上げの行方研究委員会報告」です。

この報告書は1973年の第1次石油危機後の1974年春闘で33%の賃上げが行われ消費者物価の上昇はピークで26%の上昇を記録、こんな状況を続けると日本経済は破綻するという危機感から、「無理は賃上げはやめよう」と提唱したものです。

その結果は、労働側の理解・協力もあり数年を経ずして賃上げ率は正常に復し、日本経済は安定成長に戻り、スタグフレーションに苦しむ欧米所要国をしり目に、ジャパンアズナンバーワンへのスタートになっています。

今回はどうでしょうか、昨年12月に連合は賃上げ目標を5%に引き上げ、昨日、経団連は、日本経済の健全な成長のためには「賃上げに積極的に対応することが『企業の社会的責務』である」とこれに応じました。

この労使の判断の一致は極めて重要な意味・意義を持つと考えなければならないでしょう。
端的に言えば、2014年、為替レ―トが$1=120円になって、これで日本経済も復活と思いきや、その後もゼロ近傍の成長から抜けられなかった日本経済をどうするかです。

その原因、最大の問題点に、労使が共に気づいたのですから、今春闘以降の労使の対応、「成長する日本経済に向けての誤りない選択」という労使共通の目的に向けての論議、交渉、合意形成、協調行動が、具体的に期待できる段階に入ってきたという事でしょう。

これから、3月第3週(多分)の集中回答日に向けて、国レベル、産業レベル、地域レベル、企業レベルそれぞれに、労使の真剣な話し合いが続くでしょう。マスコミもいろいろな情報を提供してくれるでしょう。

そして、集中回答日の結果は、その後に決まる中小を含む全国の企業の交渉にも大きな影響力を持つことになるでしょう。

かつて春闘は「年1回の日本経済の在り方についての労使を中心にした学習集会」など言われましたが、シンクタンクや学者、評論家の参加も得て、充実した、そして成果のある春闘になることを期待したいと思います。

このブログも「枯れ木も山の賑わい」と思いながらも、次回以降、折に触れて、論議の渦に入ってみたいと思っています。何分宜しくお願いします。

賃金統計の長期的推移の示唆するもの 4

2023年01月07日 14時36分35秒 | 労働問題
賃金統計の長期的推移の示唆するもの 4
前回は、常用労働者の所定内賃金の平均が1995年から最近時点までの推移で多少の波はありますが、基本的に緩やかな上昇基調にあること、それに対して日本の雇用者全体の一人当たり人件費の平均は、景気の波に揺られながら今に至る1995年の水準に達していないことを見てきました。

 常用労働者所定内賃金と1人当たり雇用者報酬の推移 (指数:1995年=100)<再掲>

                 
これが何を表すかですが、既にお気付きの方も多いと思いますが、長期の円高不況の中で企業のコスト削減の中心であった賃金・人件費の削減は、雇用している従業員の賃下げではなく、賃金の安い非正規従業員の比率を増やす事で行われたことを示します。

正規従業員の数は、定年、自主退職、退職勧奨などの形で出来るだけ減らし、新しく採用するのは非正規従業員という形です。これが就職氷河期の実態です。

結果的に1995年ごろには15%程度だった非正規従業員は40%に近くなりました。

非正規従業員の平均賃金(現金給与総額)の月額は、厚労省の毎月勤労統計によれば、「一般労働者(主として正規)」35万円、パートタイマ―(1日あるいは週の所定労働時間が一般労働者より短い者)10万円という差があります。

こうした人件費削減策は、$1=240円が120円に、更には80円、75円になるという円高で、日本産業の国際競争力がほとんど失われた時期には「緊急避難策」として「失業よりパートでも仕事があった方いい」という意味でやむを得ぬ面もあったでしょう。

しかし問題は、こうした労働力の有効活用を犠牲にしたコスト削減策が長期に続くとき、社会は急速に劣化現象を起こすという問題があることです。
典型的には就職氷河期の新卒者の家庭では、いわゆる「80:50問題」などが見られます。

産業界に問われるのは、今の日本経済社会の主要な問題の原因を為替レートの正常化後も放置した責任です。

・非正規従業員の教育訓練が行われなかったための生産性低下、事故の多発。
・非正規の増加による低所得家庭の増加、格差社会化の深刻化。
・定年退職者の将来不安の深刻化が若年層にまで波及した将来不安。
・将来不安の深刻化による貯蓄志向と消費不振による経済成長の阻害。
・非正規の雇用不安定と低所得家庭の増加による少子化の傾向の増幅
・日本経済不振による国民の自信喪失。
数え上げればきりがありません。

こうした中で、漸く今春闘では、政府も経済団体も口を揃えて「賃上げ」を連呼しています。おそらくある程度の賃上げ率の上昇はあるでしょう
しかし「その程度で事は済むのでしょうか。」

勿論賃金の引き上げは必要でしょう。しかし、日本経済・社会がこんな事になったのはこの4回連続の分析で見てきましたように、みんなの賃金を下げたのではなく、雇用者の4割という巨大で極めて低所得の非正規労働者群を創りだしたことにあるのです。

教育訓練の行き届いていない、その結果生産性の低い、単純、あるいは未熟練労働者を1人前の熟練労働者、高度技能者、高度人材に作り上げる努力が日本産業社会には必要なのです。

この努力は、2014年アベノミクスの初期、円レートが120円になった時から、緊急避難の解除、平常時への復元政策として、増加した円高差益を活用し、産業界が率先し、政府も協力して着実な復元の環境整備を取るべきだったのです。

このブログでは2013-2014年にかけて非正規労働者の正規化の問題を先ず取り上げることを繰り返し書いてきました。

残念ながら、この10年は無為でした。遅れた分時間はかかるでしょう。今年の春闘から始めて、最低5年はかけてこの問題を軌道に乗せれば、その上に新たな日本経済の力強い成長発展の時代を創りだしていく可能性は見えてくるのではないでしょうか。

賃金統計の長期的推移の示唆するもの

2023年01月04日 20時40分48秒 | 労働問題

今日は、標記のテーマで何か発見するところがないかと考えて、データを探していました。

いくつかの統計を組み合わせなければなりませんし、長期の時系列が取れないものもあって、試行錯誤を繰り返しているうちに、利用する統計については、ほぼ見当が付いて来ましたが、午後になってちょっと邪魔が入り、時間が無くなって、今日の段階では言い訳だけという事になってしまいました。
誠に申し訳ありません。

明日は何とか纏めてご報告出来るかと思いますが、具体的な数字を追ってみると、思っていたよりも、こんな酷い事になっていたのかといった感じがするのではないかと思っています。

今春闘が、日本経済の復活への転換点といった見方が一般的になって、ほとんどの学者・評論家の方がたが、そのように言われ、矢張りそうなのかといった雰囲気も出来つつあるような気もします。

連合や傘下の単産・単組にあっても「やっぱりそうだ! それなら頑張らなければ」という気持ちも出来つつあるでしょう。

経営者サイドでも、経団連の十倉会長の発言が多くの人の共感を呼んでいるようで、連合の要求は無理とった発言は、些か霞んでいるようです。

このブログの主張は、為替レートが120円になった時に(2014年)やるべきことをやっていなかった事がアベノミクスの消費不況を生み、その後の日本経済の停滞、予想もしなかった世界経済の中での日本の、種々のランキングの低下といった問題に繋がった、という長期視点に立つものです。

その辺の現実、その実態が、数字の中でどんな形で出て来るのか、「見える化」がどこまで出来るか明日にかけて頑張って見て、その結果を。明日中にはお見せしたいと思っています。

勿体を付けるつもりは毛頭ありません。結果が上手く出なかったら「ゴメンナサイ」ですが、半分期待して下さい。
改めまして、今日は「言い訳」だけで申し訳ありません。

高齢者の就業問題:7 年金設計とまとめ

2022年12月22日 14時09分29秒 | 労働問題
日本の高齢者の就業問題という論点を軸にして、高齢化社会日本の進むべき道を論じてきました。

改めて指摘できるのは、高齢化社会の概念、つまりは高齢者とは誰かという問題ですが、これが急速に変わってきた事です。

平均寿命の伸びと共に健康寿命も延びて来ました。60歳代は高齢者という時代から70歳はまだ高齢者とは言えないのではないかという時代に変わったのです。
健康長寿を楽しめる時間が10年以上伸びているのでしょう。

こうした大きな個人生活の変化に社会が追い付いていない所に高齢化問題の発生の原因があるというのが現実ではないでしょうか。

典型的には人間と仕事の問題、これは主として企業の問題。仕事からのリタイアと年金の問題、これは政府の問題でしょう。
この2つが、現実の健康寿命の伸びに対応しよう努力しているのですが、意識の遅れが対応の遅れになり、平均寿命の伸びた日本人の老後不安を生んでいるのです。

一方勤勉で堅実な日本人は、制度の遅れに不安を持ちながらも、着実に対応の努力をしている事は統計の数字が明らかにしています。

ならば、変化を先取りとはいかないまでも、企業の雇用制度、政府の年金制度を、発想を変え、今の状態に合うような新たな基本設計にして、「ここまでの事は企業経営、日本経済の中で可能です」という制度の改革ビジョンを早急に準備、国民がそれぞれに将来設計をし易いようにする事が望ましいと言えるのではないでしょうか。

企業については既に前回述べてきました。年金については言及して来なかったので、年金設計の在り方についての方向を考えながら、このシリーズのまとめにしたいと思います。

年金については、恐らく今政府が考えている方向は、いつかは年金支給開始年齢を70歳にし、企業の雇用義務(定年?)を70歳にし、老後生活の保障を明確にしたいというところではないでしょうか。

これまで述べてきた点からも、それは合理的な線だと考えます。ただ、定年は企業に任せていいのではないでしょうか。もともと法律で決めるものではなかったのですし、リタイアの選択は個人的な問題です。

年金は早期受給の場合は減額年金制で合理的に対応できます。つまり年金制度は70歳を「標準」に置いて、個人の選択によって早期なら減額、遅らせれば加算の適切なシステムを設計すれば済むことです。

今の様なゼロ成長、ゼロ金利の日本経済では、十分な金額にならない可能性は大きいでしょう。
個人的な蓄積と両方でリタイア後の生活を支えるのです。国民はその準備をしています。平均消費性向の長期的な低下は端的にそれを示しています。

政府は国民に、率直に事情を説明する義務があります。医療費や介護も、子育ても、敵基地攻撃能力も必要なのでしょう。
ただ、老後生活には2000万円足りないという審議会の答申の「受け取り拒否」といった不誠実はいけません。国民に不安と不信を与えるだけです。

本当の問題の所在は、日本経済が成長しない事にあります。年金という将来支払うものの原資は経済成長の中でこそ負担できるのです。

このシリーズの中でも見てきましたが、政府の政策宜しきを得て、また、企業が目先の収益より日本経済の成長による企業の成長発展と社会貢献を企業理念とし(以前はそうでした。社是社訓には「時価総額最大」などと書いてはありません。社会貢献、世のため人のためと書いてあるはずです)、日本経済がかつてのように成長を始めれば、状況は着実に改善するでしょう。

高齢者の雇用、就業がより順調になれば、個人の蓄積の期間も伸び蓄積も増えるでしょう。
ゼロ金利が解消し銀行預金に利息が付けば、一層有利でしょう。
老後資金をギャンブルで稼ごうという今の政府の政策「銀行預金を株式に」で泣く人も減るでしょう。GPIFの一喜一憂もなくなるでしょう。

そしてマクロ経済スライドは、年金減額の手段ではなく、年金増額の指標になるのではないでしょうか。

高齢者の就業問題:6 労働生産性低迷の原因

2022年12月21日 14時51分47秒 | 労働問題
まず最初に1つの数字を挙げておきましょう。日本とアメリカの労働生産性の比較です。

アメリカのGDPは大まかに20兆ドル、日本のGDPも大まかに5兆ドルというところでしょう。
アメリカの就業者は1.6億人、日本の就業者は6700万人、総人口は2.8倍ですが、就業者は2.4倍です。日本人の方が働く人の割合は多いのです。

ところが、GDPの4倍を就業者の2.4倍で割ると、1.67となって、1人当たりのGDPはアメリカが日本の1.67倍です。つまりアメリカの就業者は、日本の就業者の平均1.7倍近いGDPを生産しているのです。アメリカの労働生産性は日本の1.7倍近いのです。

この数字はドル換算ですから円レート次第で変わります。しかし、どう考えても日米間の生産性格差は3割から5割はありそうです。

という事は、日本は今、人手不足と言っていますが、日本人がアメリカ並みの生産性を上げれば、3割ぐらいは人が余ってくるという事ですし、もし、日本がそれだけ生産性を上げればGDPは3割から5割増えるという事です。

生産性を上げる基本は、1人当たりの資本装備率を上げること教育訓練をすることの2つが基本ですが、その背後には技術革新があります。
日本は、この3つにおいて、長期不況の中で大きく遅れてしまいました。

当面する身近な問題点を具体的に上げてみましょう。
① 非正規従業員が十分な教育訓練を受けず、高度技能・技術の保持者になっていない。
② 定年再雇用者が閑職などに配転され、熟練した得意な職務を続けていない。
③ 企業が国内投資より海外投資を優先してしまっている。
④ 国や企業が基礎研究を含む研究開発に十分な資本投下をしなくなっている。
などがあるのではないでしょうか。

30年にわたる長期円高不況で、コストダウンしか生き残る道はなかった事もあるでしょう。しかし円レート正常化後も同じことを続けた失敗は早急に改めるべきでしょう。

先ずは、企業の社会的責任として、非正規従業員の希望者を正規化して、それだけの賃金を支払える様な経営をすることから始めるべきではないでしょうか。

これからますます増える定年再雇用者(定年延長者)をいかに本格活用するか、高齢化時代の雇用、人事、賃金政策を産業界としてビジョンをつくり、長期勤続の中で育成した従業員の能力を最後まで使い切る人材の徹底活用策の策定は必須でしょう。

これからの国際環境の不安定化の中で、国内を中心にした企業発展を重視し、国内産業の高度化をベースに海外展開といった経営を基本とすべきでしょう。
そのためには。日本が戦争の破壊に巻き込まれないような国の在り方について、産業界の総力で政府の政策に関与すべきでしょう。

経済社会の発展の原動力はイノベーション、技術開発にあることを現場で実証するのは産業界です。この基本を政府に認識させ、産学協力も含め、世界の技術開発をリードする高度な産業国家として日本経済社会の将来を担う役割を果たすべき産業界、企業としての気概を持つべきではないでしょうか。

こうした日本経済の底上げのために、時間とコストをかけた高齢労働者の能力をフルに活用するシステムが一般化すれば、それは日本経済全体の生産性の向上に大きな役割を果たすと思われます。

端的な表現をすれば、日本の生産性向上のために貢献すべき人材を中国や韓国の生産性向上のために供給する余裕は今の日本にはないのです。
日本的経営は「人間中心」と言いながら、国内の人材を安易に無駄遣いしていたツケが、今の日本経済の生産性の低さに繋がっていることに気付くべきでしょう。

こうした人材の徹底活用、非正規従業員の教育訓練や定年再雇用の高齢労働者の積極活用が生産性向上、所得の上昇、将来不安の解消につながり、結果的に年金問題の解決を齎してくれるというのが、今後の日本産業社会の進む道ではないでしょうか。

高齢者の就業問題:5 企業に何が必要か

2022年12月20日 18時09分02秒 | 労働問題

前回は、高齢者の就業問題について政府がやるべきことは、基本的には1つだけで、日本経済の実力で支払うことが出来るベストの年金制度を早急に作る事だと書きました。

それが国民を納得させ得るものであれば、日本の高齢者は、必ずやそれに合わせた就業と退職の選択を誤りなくやっていくだろうと(これまでのデータから)考えているからです。

今回の問題は、そうした状況の中で、企業は何をすべきかという問題です。これからの日本の企業の役割は大変重要です。

今、日本の年金制度が行き詰まっている原因は少子高齢化と言われますが、それにもまして問題なのは、経済成長がない事、ゼロ金利が10年近くも続いていることがあります。ゼロ金利も経済成長がないからで、キチンと経済成長する日本になれば、金利の正常化し、年金もそれなりに安定するでしょう。

という事で、では経済成長しない原因はというと、大体は政府の政策が悪いと言いますが、実際に経済を動かすのは企業なのです。
政府の政策が多少下手でも企業が頑張っていれば、経済は成長するのです。

2013-14年に円レートが正常化した後も経済が殆ど成長しないという背景には、企業が経営政策の方向を誤ったという事も大変大きいと思います。

30年不況の原因の大幅円高になった時、日本企業は、雇用確保を優先し、賃下げと非正規労働者の増加で賃金水準を大幅に下げて乗り切った事は緊急避難としては適切だったでしょう。

ならば、円レートが、$1=80円→120円と円安になった時、雇用・賃金の復元、つまり非正規労働の正規化、賃金の引き上げは、経済全体の復元のために必須だったのです。
それがあって、初めて日本経済はGDPレベルの需給のバランスを回復し、順調な経済成長路線に乗ったでしょう。

しかし多くの日本企業は円安の差益、交易条件の改善を、国内経済の成長より海外展開に向け、GDPは海外で増え、日本経済の得たのは第一次資本収支の大幅黒字でした。
国内経済は、常に消費不振に悩まされ、国民は公的年金の不安を中心に老後不安に悩まされ平均消費性向は低下、消費不振に拍車をかけたのです。

こうして企業は、結果的に、国民生活重視、そのための経済成長重視政策ではなく、海外投資収益重視の利益中心経営の道を選んでしまったのです。

円レート正常化から10年近くなって、国際経済の急激な不安定に遭遇して初めて、日本経済そのものの安定が、企業にとって大切だった事に気づき、経営側から小声ながら、賃上げ容認の声が聞こえて来ましたが、非正規労働の正規化の声は聞こえません。

こう見てきますと、企業は、折角日銀が異次元金融緩和で、為替レートを正常化してくれたにも拘らず、その活用を投資収益確保に向け、日本経済の正常化活性化に向けての活用を怠ったという批判を免れないともいえましょう

日銀は、待てど暮らせど日本経済が正常化しないので、異次元金融緩和を続けざるを得なくなって今に至るという事でしょうか。

こうした日本経済、企業の経営行動が、ようやく見直され、企業の設備投資が国内回帰の記事などがマスコミに登場するのは、大変結構な変化で、今春闘の労使の話し合いに期待するところですが、問題はまだまだ残っています。

それは日本経済が落ちに落ちた生産性の国別ランキングを回復させるためには、生産性を大幅に上げていかなければならないという事です。
国内投資が活発化すれば、これは漸次回復するでしょうが、そのためには、国内の労働力一人一人の生産性を徹底した労働力の高度化によって、早急に引き上げていくことが必要だという側面です。そしてこれは、高齢化問題とも、直接関連する事です。

残念ながら、今、日本は労働力不足だと言いながら、恐ろしいほどの労働力の無駄遣いをしているのではないでしょうか。
次回はこの点を見ていきたいと思います。

高齢者の就業をどう考えるか:3

2022年12月16日 12時26分26秒 | 労働問題

発表物があってとびとびになりましたが今日の日本における高齢者の就業問題を考える第3回です。

前回は日本の高齢者の就業率がこの20年で大きく上って来ている事を年代別のグラフで見ました。60歳代前半では50%から70%超へ、60歳代後半は34%から50%超へといった大きな変化です。これはまだまだ進むでしょう。

こうした変化に対して、多くの人は「少子高齢化で老後不安の深刻化のせいですね」といった理解ではないでしょうか。

勿論原因は日本人の平均寿命が延び、それに比例して健康寿命も延びている事です。しかしこれは、人間として自然体で見れば、「人生僅か50年」と言っていたのが「人生80年に延びた」という日本社会の健康長寿(昔の言葉では不老長寿)への努力の成果なのです。

このブログの視点は、こうして達成した日本社会、日本人の努力の成果を「老後不安」などという情けない言葉ではなく、誰もがより長く楽しめる、より豊かで快適な社会の実現という形で、達成の成果を謳歌しましょう、という点にあります。

そうすれば当然、これをいかにして実現するかを、国、国民全体で具体的に考えていきましょうという事になるはずです。

そこでヒントになったのが、働くという事についての日本人の伝統的な理解と、この所の日本人の長寿に対応する行動様式、高齢者の就労意欲の高さです。

既に日本人への与件となっている健康長寿の社会を「豊かで快適な長寿社会」にしていくためには、基本的に、「良く考え」、「良く働き」、「良く楽しむ」といった要素が大切です。

そして、「良く考え」、「良く働く」ことが「良く楽しむ」事を可能にするというのが人類社会共通の進歩発展の原動力であり、その中でも「良く働く」事が出来れば具体的に結果を出すことが出来るという事が、経験的に解っているのです。

という事で、日本人の高齢者の就業率が急速に高まっているという事実が、その可能性をすでに示していると考えてよいという結論が出て来るわけです。国や企業のせいどやたいどがかわれば、多分上手く成功できると思っています

という事で、この進歩のための3つの条件について現状を考えてみますと、プレイヤーは3人、政府、企業、国民です。さて、どんな状態でしょうか。

「良く考え」では、政府は年金財政の心配ばかり、アベノミクスでは「一億総活躍」と言ったが中身はないといった状態、企業は定年制や年金制度に縛られて、柔軟な考え方はまだ少数企業の状態、国民はそうした環境の中で老後の心配が大きく、考えるのは老後への貯蓄が中心といった状態です。

「良く働き」では、政府は大忙しですが最大の動機は票の獲得、国会は議員の不祥事で空転、企業は欧米のカネ中心に冒され人間中心は影が薄れ、人材の無駄遣いが多い状態、国民は、良い仕事をしたいが、それが企業の現状から不本意な非正規就労が多い。

「良く楽しむ」では政治家や官僚が楽しく仕事をしているようには思われません。政府の不条理で自死する官僚まで。企業も余り褒められません各種のハラスメント、Karoshi などという英単語が生まれる、国民の当面の敵はコロナ、老後不安、しかし楽しさ追求の潜在欲求は強い。

悪い面ばかり書いてしまいましたが、就業率上昇の数字が示しますように、国民は良い将来を目指して真面目に頑張っていることは明らかです。

この国民の望みを、政府、企業はどのように現実のものにするかが日本の課題でしょう。それを少子高齢化に対する後追いとして「困難を乗り越えて」というのではなく、「より豊かの健康長寿社会を目指して」という前向きな「希望に満ちた」活動にしてくことが問題解決の要諦でしょう。

そのためのエネルギーの源泉は国民の勤労意欲の高さ、「働く」ことは「端を楽にする」と考える伝統文化の中にあるようです。
それをいかにスムーズに国の政策や、企業の制度にして行くかは、話が戻りますが「良く考え」の中から出て来るのでしょう。

これからも折に触れてこの問題を具体的に取り上げていきたいと思っています。

高齢者の就業をどう考えるか:2

2022年12月14日 14時24分57秒 | 労働問題
前々回の続きです。
前々回は、総務省の「労働力調査」で、旧定年年齢の55歳以降の高齢就業者の「実数」を2002年―2021年2御年間5歳刻みでグラフにして見てきました。

特徴的だったのは団塊の世代の山が5年づつずれて、その高さが次第に低くなって団塊の世代退職による就業人口の減少に大きな役割を果たしている事と、も一つ、年とともに高齢就業者の数が各年代で漸増する傾向が重なって見えているという点でした。

つまり団塊の世代という就業者の山が高齢化する事による就業者の減少という動きと、高齢者の全般的な傾向として、高齢になっても引退せずに働き続ける人の比率が増えるという傾向が併存しているという様子が見られるという事です。

そこで今回は、旧定年年齢55歳以降の高齢者の就業率(労働力人口に占める就業者の割合)を「5歳刻みの年代別就業率」のグラフにしてみました。

  高齢者の就業率の推移 (単位:%)

              資料:総務省「労働力調査」

結果は上のようで、各年齢層とも一貫して顕著な上昇傾向を示しています。
とくに「60-64歳」の赤い線、「65-69歳」の緑の線の上昇が顕著です。

グラフの左端、2002年は、円高とバブル崩壊の重なった1990年代のダブルデフレがドン底に達し、さてこれから再起というスタートの時期です。

それからの20年間は、2002~2008年の「好況感なき上昇」と言われた時期、2008年リーマンショックによる更なる円高の日本経済の最悪期、2013-4年日銀の円安政策でアベノミクスの時期、更にその後のコロナ禍の時期という20年間です。

この間、非正規従業員の増加といった雇用の質の劣化のあったことは否めませんが、就業率(就業者/労働力人口)の上昇は著しいものがあります。

数字を見ますと
55-59歳の就業率は10ポイント上昇
60-64歳の就業率は20ポイント上昇
65-69歳の就業率は15ポイント上昇
70歳以上の就業率は5ポイントの上昇
大まかにみればこんな状況です。ところでこの原因をどう考えるべきでしょうか。

政府は定年延長、年金受給年齢の延伸をやりました。これも大きな影響を持つでしょう。
特に年金受給年齢の延伸は働く人にとっては絶大な影響を持ったでしょう。

しかしその背後には少子高齢化、年金財政の悪化という国民全体が考えなければならない問題が在っての事なのです。

しかし、それは同時に、日本人の世界トップクラスの平均寿命の伸び、それに並行する健康寿命の伸びという日本国民の人生の長さ、健康でそれを楽しむ時間の長期化という人間にとって、不老長寿に理想に近づくというプラスがあってこその事なのです。

そう考えれば、人間の最も基本的な欲求「不老長寿」が進展しているのに、悩んだり困ったりというのは馬鹿な話で、日本人は、この人間として望む変化に極めて自然に巧みな対応をしていると理解できるのではないでしょうか。

ならば、この現実を、日本社会としていかに活用していくかを、受け身でなく前向きに、「快適な長寿社会をいかに設計するか」という着眼点で考えるのが自然です。

さて、日本と日本人は、国として、企業として、個人として、これから長寿社会という喜ばしい与件をいかに快適な社会という現実に作り上げるかを考えなければならないようです。

高齢者の就業をどう考えるか:1

2022年12月12日 18時13分39秒 | 労働問題
日本経済社会の今後の発展を考えていくうえで高齢化との関係は最も重要な問題にひとつでしょう。

先々月「 人生には3つの時期:転換点は2度あります」というという事で3回ほど書きましたが、その3つの時期の最後の高齢者の就業問題について考えて行ってみたいと思います。

そのためにはまず実態を見ておかなければなりませんが、それには手っ取り早く適切なのは総務省の「労働力調査」でしょう。
昔から「労調」という略称で、厚労省の「毎勤」(毎月勤労統計)とともに労働経済関係では最もよう使われる統計です。

ここではその高齢者の部分にスポットを当ててみたいと思います。
現役サラリーマンとしてこの統計の線上を歩いてきた人間の一人から見てみますと、この統計数字には実感があります。

以前は定年年齢は55歳が一般的で、それは日本人の平均寿命が前提という事は先月も書きましたが、平均寿命の延伸とともにそれは伸びて、60歳に、さらに65歳になって70歳までの雇用が努力義務になろうという急速な進捗状態です。

急速なと書きましたが、客観的に見ますと、平均寿命の実態に遅れてしまって、あわてて後から追いつこうと努力しているというのが実態でしょう
現実の動きを見てみますと下の図のようになっています。

年齢別高齢就業者の推移 (単位万人)

                資料:総務省「労働力調査」

この図は就業者の実数を示したものです。就業者は雇用者と自営業主家族従業者の合計で、働いている人の数です。失業者は入っていません。

見て頂きますと55-59歳の青い線の大きな山が2000年台前半に見られます、団塊の世代が日本の労動力の中核の時代です。
団塊の世代が55歳の旧定年年齢を過ぎ、山は右に移動しますが5年後の山(赤い線)はずっと低く(170万人以上)なっています、

こうして歳とともに若い人が減り、定年とともに就業人口が減ってくるという傾向が2012—2013年あたりまで顕著ですが、その後各年代とも徐々にではありますが就業人口が上昇して来る傾向が見られます。

このグラフからは、人口として巨大な団塊の世代の高齢化を中心に就業者(雇用者+自営業者+失業者)が減ってくる動きの一方、それに対して、生産年齢人口(労働力人口+無業者)の中の無業者が(再び)仕事に就き始めるという動きのある事が見えて来るのではないでしょうか。

つまり高齢者の就業率が上がって来ている。年をとっても、元気だからもう少し働こうという動きが一般的になっているように見受けられるところです。

友人などのなかにも、定年で少しのんびりしてみたのですが、何にもやる事がないというのも詰まらないので、何かいい仕事を探しています、などという人は結構います。

マスコミでも、 高齢者は「生活のために働くのか」「仕事をしたいから働くのか」などといった議論はあるようですが、この際、高齢者の再就職といった問題を含めた動きを統計上で追ってみたいと思います。

UAゼンセン6%賃上げ要求

2022年11月08日 19時40分38秒 | 労働問題
UAゼンセンという労働組合は、正式名称「全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟」という事で、名前も長いですが、組織としても日本の民間労組最大の労働組合です。

会長は松浦明彦氏で、連合の会長代行でもあります。
そのUAゼンセンが来春闘の賃上げの要求基準として、連合の掲げた5%を上回る6%要求を掲げました。

UAゼンセンは連合の一員ではあるが、多様な産業の多様なメンバー労組を持つ元気のある組合であるという事を示そうという意気込みでしょうか、敢えて連合を上回る目標を掲げました。 

いままでの連合がおとなし過ぎたという批判もあるところから、来春闘の様な日本経済の正念場の春闘では、敢えて労使の話し合いに一石を投じようという気概は、来春闘に限って認めてもいいのではないかという感じがしているところです

アベノミクスのスタートである2013年以降の賃金の動きをグラフにしたのが下図ですが、どんな感じでしょうか。

毎月勤労統計年報の賃金指数の中で、カバーする範囲の最も広い5人以上事業所調査で、指数は現金給与総額、日本の雇用者の賃金水準を代表する指標としてグラフにしました。

全産業賃金指数(現金給与総額)の推移

                  厚労省:毎月勤労統計年報(5人以上)

指数は2013年を100にして、青い線の名目賃金、赤い線の実質賃金を見ますと、最初に気付くのは実質賃金はずっとマイナスで、まず最初の2年間は名目賃金はいくらか上がりましたが、円安で物価が上がった方が大きくて、実質賃金は下がっています。

円レートが正常化して、デフレ時代が終わったという安心感の中で、企業はホッとしたのでしょうが、雇用者の実質賃金は目減りです。
その後3年間ははインフレも小さく実質賃金は微増でしたが、2019-20年には、不況で名目賃金も下がり2021年回復したもの22年にはインフレ激化で大幅下げになるのでしょう。

この間、連合は多くの場合2%プラス定昇といった4%要求をし、妥結は2%前後が続いたかと思いますが、8年間に名目賃金で2%弱しか上っていないというのが実態です。
2%賃上げと言っても結局平均賃金は1年に平均0.2%ほどしか上がっていないのです。

春闘は2%前後の賃上げで妥結しても、平均賃金は0.2%の上昇なのです。
政府は個人消費で景気を引っ張ろうと省エネ家電の買い替え補助金からGoToまでいろいろやりましたが、賃金上昇がこんな事ではどうにもなりません。

この春闘妥結結果と平均賃金の上昇のギャップの原因はいろいろありますが、2%定昇というのに問題が在りそうです。
定昇は35歳か、せいぜい40歳ぐらいで歳とともに低率になりますし、旧定年年齢になれば大幅な賃金引き下げです。

つまり定昇と言ってもそれで平均賃金が上がるわけではないのが実態なのです。日本経済を堅調な消費が引っ張るというのは平均賃金が上がらないと不可能でしょう。

結局企業が支払賃金を増やして初めて消費の増加が期待できるので、本当は「人件費を総額でいくら増やしてくれますか」が現状では春闘の大事な意味なのです。 

そう考えるとUAゼンセンが、5%では足りない、と考えるのも当然と頷けるのではないでしょうか。
今の日本経済に本格的な賃上げが必要なことは、前3回ほどのこのブログでも確かめてきました。

経団連も賃上げの必要は認めながら、連合の5%要求は少し高いと言っているようですが、1人当たり人件費5%増は高いとしても、さてどのぐらいの人件費増を考えているのか聞いてみたいものです。 

見えて来た「構造的賃上げ」の意味

2022年10月28日 17時06分14秒 | 労働問題
岸田総理が「構造的賃上げ」というのでなんだろうと思っていました。
賃金の解説書にも、賃金事典にもありませんし、賃金問題にも長く関わっている私自身も今まで聞いたことのない言葉です。

「新しい資本主義」という言葉が出て、「成長と分配の好循環」と説明(?)があった時も具体的にどんな「資本主義」を意味するのか解らず、多分こうではないかなどといろいろ忖度してこのブログに書いた覚えがありますが、未だによく解りません。

中身が解らないと肯定も否定もコメントが出来なくて困るのですが、「構造的賃上げ」については、先日こんな説明(?)がありました。

「年末にかけて新しい資本主義など、これまで議論してきたさまざまな政策を実行に移していくための正念場を迎える。実現に向けて最優先で取り組むべきは構造的な賃上げだ」
という発言に続いて、
「現代の経済社会はこれまでにないスピードで変化を続けており、非連続的なイノベーションが次々と生じる時代だ。成長分野に円滑な労働移動がなされるからこそ経済成長と賃上げが実現できる。人への投資、労働移動の円滑化、所得の向上の3つの課題の一体的な改革に取り組んでいく」

これで見ますと「新しい資本主義」の中身の実行の正念場だが、その中の最優先は「構造的賃上げ」で、新しいイノベーションがどんどん出て来るので、労働力への教育投資を充実、教育した人材を成長分野に移動させる。

つまり、再教育した人材を成長分野に円滑に移動すればそこは賃金が高いだろうから所得の向上(賃上げ)になる「再教育、労働移動、高賃金職種に転職」こそが「構造的賃上げ」の中身だというのです。

これが「構造的賃上げ」という言葉で言いたかったことで、新しい資本主義の最優先課題なのだと理解できます。

こうしてようやく具体的な説明が聞けたのですが、用語法が適切かどうかは別として、これなら「人間中心の資本主義」(資本が中心ではない)という事で、高度成長の中で日本がやってきたことそのものという事でしょう。(ただし「移動」より「異動」が一般的:注)

技術革新をベースに(当時は導入技術、今は自主開発)、人に投資し、産業教育による人材育成に注力、それによって高付加価値経済を実現して、産業・企業の成長、着実な経済成長を実現、結果は当然一人当たり国民所得を高める(構造的賃上げ)というかつての日本の姿を再現するという経済社会発展の王道を選択することで、国民も皆大賛成でしょう。

勿論、このブログも全面的に賛意を表するところです。
本来、日本の資本主義が欧米の資本主義とは違うという指摘は、日本の高度成長時代から一貫して言われて来ているところです。

日本は資本主義ではない、社会主義に近いなどといった意見も聞かれました。日本国内でも、資本主義というより「人本主義」と言った方がいいという意見もありました。

「新しい資本主義」が、資本が人間を振り回すような資本主義ではなく、あくまでも人間が中心の資本主義であることが明確になれば、岸田総理の思想体系も、余程解り易くなるでしょう。

そして、その日本が何を間違って、30年もの長きにわたり、まともな経済成長も出来ない状態に堕していたのかが本格的に問われ、今後の新しい発展の道への挑戦がは決まるでしょう。

かつての円高不況の二十余年と円高是正後のアベノミクスの8年余という長期不況を齎した経済政策の失敗を岸田政権がいかにして正し、あるべき日本の経済社会への道を開くか、岸田政権の正念場でもあるという事ではないでしょうか。
   
(注) 政府の言う「移動」というイメージは、A社を辞め、例えばデジタル関連のリスキリングの期間を経てB社で新職務に就職するというイメージが強いですが、日本の場合は、企業在籍で新技能の再教育を受け、企業自体が新分野に進出して新部門に「異動」という形が一般的で、より効率的と見られています。

今、日本経済再活性化のカギを握るのは連合では?

2022年10月20日 13時07分32秒 | 労働問題
戦後の日本は、物不足インフレから、世界に誇る高度経済成長、原油価格の世界的高騰の二度にわたる石油危機を世界に先駆けて克服する手法の実践、プラザ合意による超円高への対応など多くの経験を積み重ねてきました。

然しリーマンショックによる更なる大幅円高によって、深刻な挫折を経験、その後日銀の政策転換による異次元金融緩和で復活の条件を整えたものの、経済政策の失敗からその条件を生かせず、10年近い無策な低迷状態を続けてしまいました。

長期不況の中での異常な深刻さの体験がトラウマとなって、精神的に萎縮し、過去の日本らしいパフォーマンスの生かし方に迷うといった状況が経済・社会活動の中心的プレイヤーである労使双方に見られるように思います。

一方政治家・官僚においても、30年の不況の経験しか持たないリーダーや中堅が
殆どとなり、世界にはびこる民主主義のポピュリズム化の中で、国の発展という本来の目標より、当面の人気取り、選挙の票勘定中心という傾向が行動の原点になっているように思われます。

このままでは統計が明確に示している日本の国際的ランキング、世界における日本という国の必要度も下がり続ける可能性すら予想されます。

戦後の日本を見てみますと、政治もさることながら、民間の特に労使の努力が国を作って来たという点は明らかでしょう。

特に、インフレ、デフレ、雇用・賃金決定、経済成長といった問題は、殆ど、それらの現場を担当する民間労使の努力によって成果が生み出されて来たのではないでしょうか。

こうした歴史の経験から見れば、今の日本の閉塞状態打破するのは矢張り民間企業労使の努力が最も頼り甲斐のあるものではないでしょうか。

かつてのインフレ時代の経済の健全化には経営サイドの努力と労働サイドの協力が大きな役割を果たしました。

いま日本の問題は長期に亘る、顕著な消費不足であることは明らかです。
政府はこれに対し、インバウンドに期待し、外国人の購買力で消費(統計的には輸出)の増加を図ろうとしているように見えます。(コロナの第8波の危険を犯しても・・)

大幅な円安の中ではそれもいいでしょう。しかしそれが消費需要復活の経済政策の本命ではないでしょう。本命は、国内の1億2千万人の消費拡大でしょう。

この所の長期の個人消費の低迷には、大きく2つの要素がからんでいます。
1つは、賃金が上がらないこと、
2つは、消費性向の長期の低迷です。
幸いなことに、今年に入って、消費性向の回復が見られています。

これを奇貨として、来春闘に向けて本格的な賃上げ体制を実現する原動力になれるのは、「まさに『連合』の役割」という事ではないでしょうか。

このときを逃さず、連合が5%の賃上げ方針を打ち出したことには、このブログは「深甚の敬意」を表するところです。

願はくば、この5%が、「定昇込み」ではなく非正規の正規化なども含む「平均賃金の5%上昇」であって欲しいと思っています。

それで、労働分配率が多少上がっても、自己資本比率が多少下がっても、今後の労使の協力と努力で経済成長率が上がれば、容易に解決する問題でしょう。

またそれで一部に賃金インフレが起きたとしても、日本のインフレ率が欧米より高くなるようなことは恐らくあり得ませんので、実害はないでしょう。値上で調整は「可」です。

その結果、賃金インフレが2%になれば、日銀は約束通りゼロ金利をやめ、銀行預金に利息が付くようになるでしょう。

現状を見れば、全ては「連合」にお願いするよりないと、このブログは考えています。
連合のご活躍に期待します。

平均賃金上昇5%で経済バランス回復か?

2022年10月12日 14時11分19秒 | 労働問題
最近の企業調査では正規社員不足の方が非正規社員不足より問題といったものもあるようです。

非正規の賃金の低さに頼り、教育訓練の手抜きをした結果でしょう。確りした製・商品やサービスを提供するには、訓練の行き届いた正規社員が必要だったという反省の結果でしょう。

長期不況の中で緊急避難のつもりの雇用・人事政策が長期になり過ぎて人材の保有に歪みが生じてしまっているのです。
非正規の正規化の問題は2013~14年の円安進行の過程でやっておくべきことだったのでしょうが、10年近く遅れてしまいました。

日本経済が競争力を取り戻すためには従業員の教育訓練が必須になります。
勿論非正規でもキチンと教育訓練をすればいいのですが、そうすれば必然的に正社員としてずっと企業にいてほしい人間になるのです。

当然賃金は引き上げなければなりません。非正規雇用で安く上げようとしたときの逆が起きるわけです。
これからこうした現象が起きざるを得なくなるでしょう、表題に掲げた平均賃金上昇の中にはこうした部分も当然入って来ます。

ところで、この所、物価が上がって来ています。長い間我慢してやりくりして来た輸入原材料などの値上がりが限界にきて一斉に製品価格に転嫁する動きが出ています。

プライス・メカニズムの機能を我慢して使わなかった事で経済停滞が起きていましたが今回の一斉値上げで関連業界は少し活性化するでしょう。

これをきっかけに日本経済に、プライス・メカニズムが正常に働くようにすれば、日本経済自体が活性化してくるでしょう。

そう考えてきますと、次にプライス・メカニズムを正常に働かせる分野は労働の対価、人件費の分野という事になるのでしょう。

物価が抑えられていたことで人件費もずっと抑えられて来ましたが、本来政府・日銀、特に日銀は毎年平均賃金を3%上げ、その内1%は生産性上昇(経済成長)で打ち消して2%の賃金インフレが発生するというのを目標にしていたのです。

ですから、今輸入物価の価格転嫁で物価が3%上がっても「2%インフレ目標は達成されていない」と異次元緩和を継続しているのでしょう。

その意味では来春闘で5%の平均賃金の上昇があれば、1%は経済成長で消され、2%は輸入インフレで消されても、後の2%は「インフレ・ターゲット」に見合うので異次元金融緩和・ゼロ金利を見直してもいいという事になるのではないでしょうか。

その後原油などの海外価格上昇が収まれば、目標の2%インフレの達成がはっきり見えるようになるという事でしょう。

プライス・メカニズムの正常な働きを想定すれば、日本経済のバランスの正常化に5%程度の人件費上昇が必要という回答が出てきます。
この辺りの平均人件費上昇は、来春闘への労使の賃上げの議論への参考にもなるのではないかと思っています。