tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「1,100万人の担い手不足」:労働力は不足か過剰か

2023年03月30日 13時37分23秒 | 労働問題
リクルートワークスが2040年には「仕事の担い手」(労働力)が1,100万人不足するという研究結果を出し、介護などの対個人サービスが不足第1位なので、「さて、どうしよう」と心配する人も多いようです。

真面目な研究で知られるリクルートワークスですから、真面目に心配する人も多いかと思っていますが、恐らくこれは「警告」の意味が強い研究でしょう。
「今のままで行くとそういう事になりかねませんよ」と読むべきではないでしょうか。

一方で、人事院は「公務員に週休3日制を導入したら」という提言を出しました。これは、公務員の勤務環境を改善し、人材確保につなげるという意味のようです。

「人手が足りなくなるのに3日も休んだらどうなるのですか」という疑問も強いでしょが、公務の担い手が足りなくなると困るからだそうです。

もともと先憂後楽であるべき公務員から先に週休3日制というのもどうかと思いますが、やっぱり人手不足を心配しているわけです。

では、本当に日本は人手不足になるのでしょうか。これは日本人次第でしょう。
日本人がどんな社会を作るのか、どんな働き方をするのかが重要な決定要因です。

「全体の仕事量」を「1人当たりの仕事量」で割れば、全体の仕事量をこなすのに必要な人間の数が出ます。「1人当たりの仕事量」というのは「労働生産性」で、産業界では労働生産性を上げて人手不足を解消するというのが最も大事な目標の1つです。

産業界の「全体の仕事量」が完成すればそれはGDPですから、生産性が上がればGDPが増えて、経済成長が可能になるということです。

ところで、日本人全体の(働かない人も含めて)労働生産性を見ますとかつては世界の5番以内に入っていましたが、最近は27番目に落ちています。これは長期不況のせいで、不況の時は後ろ向きの仕事が多いので生産性が上がらないのです。

今年から成長する日本経済になれば、労働生産性も徐々に上がって、2,040年ぐらいには「ベスト10」ぐらいに返り咲いていけば、あまり心配することはないとなりそうですがどうでしょうか。

勿論、そのためにはAIや量子コンピュータを使ったり、いろいろしなければなりませんが、そこで大事なことは、日本経済社会全体の中には、生産性を上げやすい所と、上げにくい所があります。介護などの対個人サービスは最も上げにくい所です。

そうした問題を解決するためには、生産性の上げやすい所で生まれる「人やカネの余裕」を対個人サービスなどの上げにくい分野に政策的に配分する事です、具体的には介護職の待遇を改善して人手を確保するといった政策です。

つまり、GDPの配分を社会全体にバランスよく配分する社会にすることです。それには政府と国民の各分野の理解と納得と協力が重要です。
残念ながら、これはこの所どうも上手く行っていませんので些か心配です。

もう1つ、社会のあらゆる分野で、トラブルメーカーをできるだけ減らすことです(国会でも多いようでですね)。
仕事でも社会生活でも、1人トラブルメーカーがいると、大変な手間がかかります。
仕事ではスマートワーク、生活ではスマートライフを心がけましょう。

因みに、2019年の数字ですが、スウェーデンの国民1人当たりGDPは52000ドル(世界13位)、日本は41000ドル(世界27位)、日本人が、スウェーデン人水準の仕事や生活の仕方をすれば、人手も2割ほど余ってくるという勘定になります。

これからの雇用ポートフォリオ(試論)

2023年03月26日 13時00分32秒 | 労働問題
昨日「雇用ポートフォリオの再構築」を書きました。

何か、勝手に再構築と書いているだけで、中身はどんな事かを何も言わないのでは無責任といわれそうなきがして来ましたので、未だ生煮えの試論ですが、自分のメモ代わりに何とか整理しておくことにしました。

<試案・雇用ポートフォリオ>
Ⅰ 企業の将来を託すグループ

Ⅱ 企業の現在を支えるグループ 
① 中途採用者など
② 外国人労働力
③ 定年再雇用者など
④ 超高度専門職(役員待遇を含む)

Ⅲ 短期雇用・単純定型業務グループ

ざっとこんな所でしょうか、現在あるいは近い将来を想定しています。

Ⅰ 企業の将来を託すグループ
このグループは現在の正社員をイメージしています。採用は新卒一括採用、人間の資質中心採用で、入社してから、OJT、Off-JTで育成する対象。
育成の目標は役員、中堅管理職、高度専門職、高度技能者(高度熟練、技能継承指導者)、10年20年かけて、ローテンションが重要な育成手段。
<処遇>
職能資格制度を適用するのが適切。職能資格制度は柔軟な制度で、職務(ジョブ)が変わっても職能(職務遂行能力)は変わらないので、若い時は年功習熟的、中高年になるに従って職務的な制度運用にもなえます。企業内ローテーション育成には最適。企業によって多様な使い方が出来るという特徴がある。

Ⅱ 企業の現在を支えるグループ
企業の必要により、即戦力として採用するグループ。ジョブ型採用が一般的。新規分野進出、優れた外国人の必要など今後増える可能性が大きい。
定年制があれば、定年再雇用者もこのグルールに入ることになると考えられる。
経営管理や専門技術、特殊分野の高度専門家などの役員待遇者もこのグループに入る
<処遇>
ジョブ型賃金(職務給)が一般的であろう。job&performance でperformanceには種々の形がとりうる。

Ⅲ 短期雇用・単純定型業務グループ
このグループは従来の非正規従業員、パート、アルバイトに相当し、企業の必要と働き手の都合の合致したところに雇用が生まれる。
<処遇>
地域別、職種別のマーケット賃金が基本、企業による諸種の味付けは可能である。

最後に、特に「留意点」について触れておきます。
企業内で、こうしたポートフォリオを自社に合わせた形で作っていただいた場合、十分に柔軟な制度にしていただき、本人と企業の合意により、グル―プ間の移動には十分な可能性と配慮が必要なように思います。
特にⅡグループから人材をⅠグループに異動、パートの熟練者のⅡ乃至Ⅰグル―プへの異動など人材の活用重視です。

日本的な人事管理は本来、従業員の能力を出来るだけ伸ばし、伸ばした能力を確りと活用するという形での、人間中心、「企業はそれを構成する人間次第」という「人を中心にした経営」が基本です。

人事担当者、職場の管理監督者には、そうした人間中心の、人を生かし活用する見方を十分に備えてもらうという事も、より良い経営の大きな力になるように思うところです。

アマゾンに見るアメリカの賃金と雇用

2023年03月21日 22時03分05秒 | 労働問題
安倍政権の「働き方改革」以来、政府は、アメリカ流の雇用制度を目指して「職務(ジョブ」をベースにした雇用・賃金制度の導入の推進に力を入れて来ています。

戦後日本の人事・賃金制度は、独自の発展を遂げて来ましたが、海外の研究者からは、いずれ欧米流の制度になるだろうと見られることも多く、日本の経営者や研究者のなかにも、欧米流の制度を見て、この方が合理的と考える人もいました。

古くは戦後の職務給導入の動きから、マネジメント・バイ・レザルト、不況期に導入が言われた成果給そして今回の「働き方改革」といった系譜は、欧米流の人事賃金制度の方がより合理的という考え方によるものでしょう。

しかし現実は欧米流合理性は日本社会の文化の中では、合理性に欠ける所があるようで、部分的導入はあっても人事賃金制度の中核にはなれませんでした。

その結果、欧米流の合理性が認められ賃金制度の基本になったのは、企業の将来を託す基幹従業員・正社員ではなく、現在必要な仕事を充足するための非正規社員においてでした。

ところで現状を見れば、雇用者の約4割が非正規従業員です。現実は日本の雇用者の4割が欧米流の「職務:ジョブ」をベースとした雇用制度、人事賃金制度で働く従業員です。

そこで、最近マスコミを賑わしているアマゾンの賃金と雇用関係のニュースを見てみましょう。
2018年頃からアマゾンの賃金はだんだん高くなってきたようです。最低賃金を上回る水準で、それが地域の賃金水準に影響する事が問題になっていたようです。
アメリカの最低賃金は州によって違い10~13ドルるですが、アマゾンは15ドルを最低にしていたそうです。

然し昨年はNYでは19ドルでもホームレスなどといわれるようになりNYの事業所でアマゾン最初の労働組合が出来たりし、時給19ドルのケースもあったそうですが、この所一転して、昨20日「アマゾンで9,000人解雇」といった報道です。

報道では1月までに18,000人の解雇を決めてとのことですが、それでは間に合わないという事のようです。対象は倉庫や配送関係ではないようで、クラウドや広告関係という事で、解説によれば、大手企業でデジタル関係の人員削減が目立ってきたとのことです。

またアマゾンでは倉庫関係の時給労働者などは常時募集していますが、職場の離職率は年160%などと言われ、求人源が枯渇するのではという危惧もあるなどといった報道もあり、時給に関わらず従業員の定着率は大変低いようです。

更に、アマゾン関係の報道を探しますと昨年秋に年末商戦に向けて1万数千人の採用を打ち出し、1月に18,000人、今回さらに9,000人といったリストラは、ジョブ型採用(仕事があれば採用、無くなれば解雇)という欧米方式の典型のようにも見えます。

「ジョブ型」が合理的といった見方は、企業の利益が中心になり易い傾向を持つようで、日本の様に、「企業で一番大事なのは人間、」「人を育てるのは企業の役割の一つ」といった社会の認識が一般的な日本では、ジョブ型と言っても、欧米のそれとは、まるで違ったものになっていくのだろうと思っています。

今春闘を出発点として、日本の労使は、正規、非正規問題の望ましい解決の方法を探ることになるでしょうが、日本は不合理で欧米が合理的という単純な舶来崇拝はもうさっぱりと卒業しなければならない時だと思っています。

集中回答日、2023春闘はスタート順調

2023年03月16日 15時06分20秒 | 労働問題
2023年春闘は、集中回答日以前から満額回答が出たりと、何か様変わりですが、昨日の集中回答日の結果を見ても、自動車、電機、産業機械、食品大手など満額回答の揃い踏みのような結果になっています。

何故急にこんな変化が起きたのか考えてみますと、きっかけは消費者物価の異常な上昇でした。これまでマイナスか1%前後の上昇だったものが昨年に入り上昇をはじめ4%台にまで達しました。

原因は、誰にも解っていました。今迄原材料や最低賃金の上昇の中で、コストの価格転嫁が出来ず我慢を重ねていた企業が更なる輸入物価の上昇でコストアップに耐えられず「一斉値上げ」に踏み切った事です。

この一斉値上げに対して消費者は、実質賃金の低下で苦しみながらも、事情を理解し、値上げを容認して来ました。

一方、アメリカやヨーロッパでは値上げも賃金上げも10%近くになり、金融引締めなどでインフレ防止に大童です。その影響で日本は大幅円安になったりで、大手企業も、今まで通りでは経済が混乱、企業にとっても良くないという事を理解したようです。

結果は、企業の総本山の「経団連」が賃上げ容認の姿勢を打ち出し、連合も状況をしっかり把握、今春闘の賃上げ要求水準を5%まで引き上げ、政労使の話し合いを提唱するという事になりました。

ここまでくれば、今春闘はいままでとは様変わりになることは明らかです。
未だ、コスト上昇の価格転嫁が出来ない、下請け部門などで問題は残っていますが、今は、先ず賃金引上げが必要な事態だという労使共通の意識が生まれてきたのです。

率先して大幅賃上げを打ち出し、マスコミを賑わす企業も現れ、それを批判するのではなく、評価するような雰囲気さえ生まれてきました。

集中回答日が近づき、シンクタンクの賃上げ予想も軒並み引き上げられ、今年は賃上げをすることが社会正義に叶い、日本経済の健全路線への転換にも役立つという認識が、企業、労組、消費者にまで浸透してきている状態と言えるのではないでしょうか。

そしてそれは極めて健全で、正常な認識ではないかとこのブログでは判断しています。
何故なら、それは現状の日本経済の実力の範囲内だからです。
黒田バズーカで「為替レートの正常化」が実現して以来、その後の政策の適否は別として、大企業中心に企業はかなりの蓄積をしてきました。経常利益率なども長期不況以前より高めの水準をキープしています(法人企業統計)。

加工食品や日用品のような消費者物価直結のところも、昨年来の一斉値上げで一息ついたところでしょう。

こうした環境条件もあり、「賃上げが日本経済を活性化する」と言われれば、程度の差はあっても賃上げが可能なところが増えてきたというのが現状でしょう。
あとは需要の増加待ちという面もありますから、賃上げ率は多分3%は越えるでしょう。

そして国際情勢の悪化などの異常事態がない限り、日本経済は、やっと、「名目成長4%、実質成長率2%、賃金上昇率4%、物価上昇率2%」という、政府・日銀が掲げた「2%インフレ目標」に近い安定成長が視野に入ってくるのではないかと思っています。

日本経済の将来を決めるのは、その中でいかに人材育成、技術革新、生産性向上そしてその成果である経済成長という果実を、中小企業と大企業、賃金上昇と資本蓄積(賃金と利益の配分)民間と政府(国民負担率)の間で、いかに適切に、格差が拡大しないように考えながら配分するかです。

円安続く気配、賃金・雇用改善の好機

2023年02月27日 16時04分28秒 | 労働問題
$1=140~150円という行き過ぎた円安にはならないと思いますが、円レートが些か異常ではないかと思うほど円安傾向を強めています。

       円レートの推移(円)

                   資料:世界経済のネタ帳

今日は136円台まで付けて、日経平均はマイナスですが、輸出関連銘柄には大幅に上げているものもあります。

為替レートは出来るだけ安定しているのがいいというのは基本ですが、マネー資本主義の中ではそうはいきません。
日本銀行がこれをどう見ているか新総裁予定の植田さんもあまり行き過ぎてほしくないと思っているのではないでしょうか。

勿論この円安の主因は、アメリカのインフレがなかなか収まらないという事で、FRBが金利引き上げを続ける意向であることによるものでしょうが、同時に、日本の国際収支が大きく変化していることも影響があるようです。

          日本の経常収支と貿易収支(兆円)

                     資料:財務省「国際収支統計}、

貿易収支が大幅な赤字になっている事はマスコミが教ええくれているところですが、これが、原油、LNG、石炭や飼料用の穀物などの値上がりによることは明らかで、この高値がいつまで続くかは、ウクライナ情勢を見ても定かではないようです。
黒田日銀総裁は、海外物価高騰は一時的なものとの見方でしたし、後継予定の植田さんも年内には収まるのではという見方のようです。

そうなれば日本の貿易収支は改善に向かうという事になりますが、ここまで大幅になった貿易収支の黒字転換は容易ではないという見方もありそうです。
それは国際的な産業構造、サプライチェーンの安定などを必要とするからです。

グラフでご覧になりますように、日本の場合、経常収支の黒字は(第一次資本収支の黒字で)確保していますから、対面、過度な心配の必要はないと思いますが、アメリカの金利政策のせいで、円安傾向が長引いた場合、日本企業はいかなる対応をするか、かなり大事になるような気がします。

必要なことは、輸入価格の転嫁 を完全なものにすべきでしょう。一部の産業や小規模企業で遅れているところがあれば、完全転嫁を当然の商慣行とすべきでしょう。
もちろん 円高になればその逆の励行が必要です。

円安は、日本製品・サービスの競争力を増し、円建ての付加価値をその分増やしますから、当然それは雇用者報酬(賃金その他)への配分としても活用しなければなりません。
何故なら、円高の時日本企業は雇用者報酬の水準の大幅ダウンをやっているからです。

日本経済としては1割円高になれば営業余剰(利益)も1割増えて当然でしょう。しかしそれではお釣りが来ます。雇用者報酬も1割増やせる勘定になるはずです。

このブログでは、その分を先ず非正規社員の正規化のコスト(雇用安定と教育訓練)に充ててほしいと思っています。その上になお春闘レベルの定昇ベアも可能になるはずです。

これは日本の雇用・産業構造のかつての安定成長時代への復元という作業なのです。これからの日本経済・社会の新たな成長は、そこからの再スタートになるはずです。

そのためには、アメリカのインフレ傾向、金利引き上げ指向、それによる円安の期間が絶好のチャンスという事ではないでしょうか。
今の円安傾向を日本経済・社会正常化の大切な原資として有効活用してほしいと思っています。

賃上げと共に非正規の正規化の結果・計画も

2023年02月23日 15時12分59秒 | 労働問題
集中回答日を半月後に控え、既に満額回答といった労使合意の状況がマスコミで報じられるという今年の春闘です。

こうした合労使合意が早くも報道されることは、労使交渉の今後についての影響も小さくないでしょうし、今の日本の経済社会の状況から見て、労使双方が共に日本経済にとって賃金の上昇が必要なことを十分に認識している事の証左でもありましょう。

労使の信頼関係を基礎に置き、日本経済社会の再活性化を共通の目的とする今春闘で、日本の文化社会の伝統的在り方に根差す日本的労使関係が改めて認識されるという事であれば、日本経済復活の第一歩と評価出来そうです。

この好調の滑り出しを見せる春闘の中で、矢張り気になるのは、賃上げだけで問題は解決するのかという重い問いかけです。

確かに、大幅円高による長期不況を、雇用を維持しつつ乗り切るために、当時は「賃金より雇用」という声が労使間の共通理解として叫ばれました。

そしてそれは多分正しい選択でした。主要国の中で、日本だけが、経済の最悪期でも失業率5.5%以下という事で、雇用の確保に成功していることは明らかです。

しかし問題はその中身でした。不況があまりに深刻で長期だったため、日本の多くの企業は、緊急避難的に低賃金の非正規労働を多用して平均賃金を下げた結果、雇用の分断を生むことになったのはご承知の通りです。

今、日本の雇用構造は4割の非正規雇用を抱え、その多くは無技能のまま職場を転々、日本社会の貧困層の形成と、生産性の低迷の原因となっているのです。

この問題は、単なる賃上げでは正すことは不可能です。喫緊の課題は、(10年遅れてしまいましたが)この人たちを正規化し最速で技能労働力に育て上げ、賃金と生産性を同時に高めていくことです。

かつて、非正規従業員を増やすことで正規従業員の賃金引き下げは大きくならずに済んだのが現実であってみれば、いまこそ非正規の正規化に、遅ればせながら徹底努力するときでしょう。

余計な説明をしましたが、お願いは、まさにこの点に関してです。

春闘の賃上げの数値と同時に、非正規の正規転換についての実績、あるいは計画を表示していただくのはどうかという事です。

非正規雇用が、今の40%から20%近くに下がった時、日本経済・社会は、今よりかなり良くなっているのではないかと思っています。

非正規問題は「賃上げ」か「正規化」か

2023年02月21日 11時32分04秒 | 労働問題
2023春闘も、大手企業では、3月中旬の集中回答日に向けて労使の真剣な議論が展開されている事と思います。

交渉の中心はどうしても正規従業員対応が中心になると思われますが、マスコミや識者の意見でも、非正規従業員の賃上げ問題の重要性を指摘するものが、今年はかなりみられます。

かつての長かった就職氷河期の最大の後遺症に1つである非正規従業員の著増問題は、日本社会の格差社会化の主因でもあり、子供の6人に1人が貧困家庭の子といった深刻な社会問題やいわゆる80・50問題を引き起こしています。

今春闘の中で、非正規の賃上げ問題が取り上げられるのは大変結構なことと思いますが、マスコミにも、多くの識者にも、非正規従業員問題は「賃上げで片付く問題ではない」という指摘をぜひ忘れないでほしいとお願いしたいところです。

勿論これは経営者が自らの責任において解決すべき問題というべきでしょうが、今日の経営者の多くは雇用者の4割が非正規従業員という状態を『常態』と見ながら経営者になっているからでしょうか、非正規の正規化という意識が薄いように思われてなりません。

就職氷河期に、ベテラン従業員を定年や早期退職で削減、賃金が何分の1かの非正規で円高に対応せざるを得なかったことは理解できるとしても、大幅円安以降もその体制に甘んじ、結果は検査体制の不正や単純ミスによる事故の頻発、結果として日本経済の生産性低下の問題などは早急の是正が必要です。

特に日本経済の生産性の国際ランキングの著しい低下も、熟練の技を持つベテラン従業員の不足、教育訓練不十分の非正規従業員の多用の結果と指摘されるのが現状です。

そうした意味で、本当に今必要なことは、早期に非正規従業員の教育訓練の徹底と正規従業員化、それによる賃金水準の大幅是正を図る事で、多分ここ数年をかけて行うべき、日本経済・社会にとっての重要課題という事になるのでしょう。

本来これは、2014年の円レート120円という円高是正の時期に始めるべきだったのでしょう。あれから10年、非正規従業員の多くは無技能で職場を転々、10歳という年を取ってしまっているのです。

日本経済の生産性の低落、格差社会化による社会の劣化、これを復旧するのにこれから恐らく数年はかかるでしょうか。経営者は現場からそれをやる責任があるでしょうし、連合や政府は矢張り責任を分かち合い、それぞれ努力するという意識を持つ必要があるのではないでしょうか。

残念ながら、単に「非正規従業員の賃上げも必要」といった程度の認識では、日本経済・社会の健全状態への復元は容易でないと考えてしまうところです。

連合、首相に「政労使会議」を要請

2023年02月07日 13時24分32秒 | 労働問題
昨日、連合の芳野会長は岸田総理に会い、春闘に向けての政労使が話し合う「政労使会議の開催を要請し、岸田総理も前向きに検討という意向を示したとの報道がありました。

これに関して、経団連の十倉会長も、詳細は聞いていないけれども、そういう機会があるなら「喜んで参加する」と記者会見で表明したとのことです。

きっかけや経緯はどうであれ、当面の日本経済の行方を大きく左右する今春闘について、政労使三者の代表が一堂に会して話し合う機会が生れるというのであれば、大賛成の意を表したいと思います。

これまで毎年春闘をやりながら、日本経済に対しの成果が乏しかったのはこの三者の間のコミュニケーションが深まらなかったからで、前回は2015年だったのですが、あれは当時の安倍総理が労使を呼びつける感じで、長続きしなかったのでしょう。

今回は賃上げの要求をする主体の連合が、政府を巻き込んでという事のようですが、経団連もそうした動きに鷹揚に「喜んで参加」と言っているところが、先ずは良好な話し合いの雰囲気を期待させるところです。

もともと日本では政労使の話し合いが本音で行われる感じの「産業労働懇談会(産労懇)」というのが平成不況の初期まで続いていて、これが日本経済の安定帯形成の大いに役立っていました。

当時は、労使が共に、「労使関係は日本経済の安定帯」などと言っていましたが、これは徹底した労使の話し合い、意見は戦わせても日本経済の安定発展という共通の目的を持ち、労使の信頼関係がそれを支えるといった基盤があったからのように思います。

そうした意味で言いますと、今回はきっかけは連合が、大企業での賃上げを中小にも何とか波及させたいという気持ちから総理に政労使会議を要請したようですが、賃上げ要求を受ける立場の経団連の十倉会長が、「喜んで参加する」という表現で、政労使のコミュニケーションの深化に積極的な意思表示をされたことは素晴らしいと思います。
 
いま日本の賃金・雇用構造は大きく歪んでいます。雇用者の4割近くが低賃金の非正規労働力です。この中の多くは就職氷河期に正規従業員になれず、結果教育訓練も受けられず、専門技能も身につかず、単純労働を転々とする無技能のゆえに賃金の低い「低技能・低賃金」層を形成しています。

アベノミクスの中で、日本の産業界は、この人たちの再訓練、正規化、賃金引上げを10年近く残念ながら、ほぼ放置して来ました。

今春闘で、ようやく日本の産業界の労使は、この歪みを正さなければ、日本経済の低生産性、低賃金は治らないと気付きつつあるのでしょう。

今回の連合の発意で、日本の産業界の労使が、改めてこの問題に取り組むことになれば、多少時間もコストも掛るでしょうが、日本経済再生のプロセスが着実にすすむことになるでしょう。

この新しい政労使会議が、持続し、かつての産労懇の再生と進化の道を歩むことを期待するところです。

労働問題、政府は民間の自主性重視で

2023年02月06日 14時14分44秒 | 労働問題
安倍内閣からの混乱ですが、労働問題についての政府の口出しが岸田内閣では少しひどくなり過ぎているように思います。

賃上げもそうですが、日本的職務給とか、リスキリング、労働の流動化等々民間に任せ、民間が確り知恵を絞ってやるべきことを、政府が事細かに口の出し過ぎです。

民間に任せることが民間労使を育てることになるというのが、戦後の労働省の基本姿勢でした。それが日本の労使関係の成熟、経済の安定と発展の基礎になっていたのですが、いまは親の世話の焼きすぎが子供の自主性の発達を阻害するといった状態です。

もともと政府の役割というのは、プレーヤがやる気になるような「良いルール」を確り作り、基本的な境界線をキチンと引き、あとは、レフェリーに徹することで、レフェリーはプレーはしないのです。これはスポーツを見れば一目瞭然でしょう。

日本的職務給などは、戦後日本の労使が試行錯誤を続けて中身のあるものして来ています。高度成長期は職能資格制度が大いに役立ち、低成長・高齢化の今日は、多くの企業や賃金の専門家が、労働力のどの部分にジョブ型賃金が有効か真剣に研究しています。

リスキリングも、これは日本企業の得意技で、元もとホワイトとブルー(カラー)の区別をなくし、多能工育成から、再訓練、職種転換、リカレント教育などを手掛け、企業自体が、東レや富士フイルムの様に別の業態に変わったといった例は無数です。

こうした技能、専門知識の高度化は企業の手で、企業内の人材育成システムとして行われ、訓練した人材を自社で資格も賃金も上げ活用するのが日本で、転職しなければ賃金が上がらないという欧米との基本的な違いです。

これは欧米と日本の伝統文化の違いから来るもの(マネー中心の欧米、人間中心の日本)であることへの政府の理解はまったく足りないようです。

その結果が、企業内「異動」はあまり頭になく企業間「移動」するのが良い事だと単純に考えているようです。

日本では転職を繰り返して高給を得るのは、ごく一部の優れた人達だけで、多くの人は社内異動で安定した昇給を選びます。
これは政府の問題ではなく本人と企業の問題です。

日曜討論などでも政府代表が、雇用保険2事業(雇用安定と教育訓練)の活用で転職をし易くなどと言いますが、雇用保険2事業の資金は、全額企業が拠出して政府に業務を委託しているものですから、企業の意見をよく聞くべきでしょう。

また政府はすぐに、「国費」で補助金を出すとか、支援するとかいいますが、政府に金があるわけではなく、それは国民の税金か国民からの借金です。政府が身銭を切るようなことは「多分」ありませんから発言には十分気を付けて欲しいといつも感じるところです。

労働問題は、政府は素人です。苦労して知恵を絞り論争し、かつては時にはストまでやって、適切な着地点探しを長年続けてきた企業の労使の自主性を一層高度で合理的なものにするためにも、政府は余計なことには口を出さない、労働法規順守というレフェリーに国は徹した方がいいのですよと、この際、助言したいと思います。

日本経済のバランス回復に必要な賃上げとは?

2023年01月20日 12時15分23秒 | 労働問題
前回は今春闘では積極的な賃上げが必要と書きました。これは多分ある程度実現するでしょう。最近のアンケート結果の3%未満の予想を超えるのではないかと思っています。

マスコミでは、ユニクロが最大4割の賃上げをして、国内従業員賃金水準を海外並みに引上げるとか。サントリーは6%アップを目指す、キヤノンは一律7000円のベースアップなど、大手企業の積極的賃上げの姿勢が見え始めています。

これらは、いずれも結構なことだと思います。
しかし、本当に日本経済の安定成長路線のへの復帰という問題を考えれば、少し構造的な問題を指摘しておかなければならないように思います。

実は、過去の賃金水準の引き下げの動きの中身を見ますと、それは、正規従業員の賃金の引き下げによるよりも、圧倒的に大きいのは、正規従業員を定年や早期退職で減らし、低賃金の非正規従業員を増やすことによって行われているという問題です。

十分に訓練された正規従業員を減らし、訓練されていない非正規従業員を増やすことで、人件費の削減は出来ても現場力、現場の生産性や能率は大きく落ちます。
これが日本企業の技術レベルアップを遅らせ、韓国や中国に追い越された大きな原因の1つであることは広く指摘され始めているところです。

つまり、正規従業員を削減し、非正規従業員で補充し賃金コストを切り下げた事は、一方では企業の賃金コストを切り下げ長期不況に対応する効果はありましたが、企業全体の熟練度を引き下げ、世界的技術革新競争の中で日本企業の競争力を大きく遅らせることになったのです。

この長期不況の中での習慣が、円レート120円になったアベノミクス以降も続き、韓国・中国はじめ多くの国々に後れを取り、1人当たりGDPが世界のベスト5入りといった地位から28位(2020年)にまで転落したことの大きな原因にもなったのです。

こう見てきますと今春闘をスタートとして今後の日本経済をかつての健全、強力なものに持ち上げていくためには、単なる賃上げではなく、非正規従業員の正規化と本格的な技術・技能形成を進め、非正規労働力を中心に、日本の労動力総体のレベルアップと賃金の上昇を改めて本格的にやることが必須なのです。

残念ながら、今春闘に向けての議論の中で、「賃上げが必要」という声は広く一般化して来た感じは受けますが、雇用者の15%ほどから40%にまで増えた非正規労働力の正規化という声は、あまり多くは聞かれません。

しかし改めて、長期不況の中で日本企業がやって来た事を確り振り返れば、最大の問題は教育訓練の行き届いた正規従業員を減らし、賃金の大幅に安い非正規従業員で当面間に合わせて賃金コストを下げ、その是正をしてこなかったという現実に気づきます。

しかもそれが、円レート正常化後も10年近く放置されたことが日本経済の正常化を大きく遅らせたことを、今日本は漸く気付き始めたという事ではないでしょうか。

賃上げ促進は必要です、しかしその人件費増の最大の部分は非正規労働力を正規化することによる賃金の上昇、さらに、徹底した教育訓練をするために充てるという視点も確り入れておいて頂きたいと思うところです。

賃上げは日本経済のバランス回復に必要

2023年01月19日 14時17分59秒 | 労働問題
これから日本経済は春闘の期間に入るわけですが、前回指摘しましたように、今年はまさに異例の年で、労使が共に賃上げの必要を力説しているのです。

マスコミを見ても、労使だけでなく政府も学界も評論家もみんなが、賃上げが必要と言っているのですから、必要なことは間違いないでしょう。
今回は、何故そんなことになったかを確り見ておきたいと思います。

話は1985年のプラザ合意、1991年のバブル崩壊にさかのぼりますが、プラザ合意による円高とバブル崩壊でその後30年ほどに亘って日本企業は賃金コストの引き下げに必死でした。賃金水準を下げなければ企業が死ぬ事(破綻・倒産)になるからです。

それからリーマンショックによる円高もあり、日本企業は2012年まで、賃金コストの引き下げと生産性向上に懸命の努力をしましたが、円高分の賃金コスト引き下げには至りませんでした。

それを救ったのは日銀の異次元金融緩和政策で、円レートは1ドル80円から120円の円安に戻り、対外的には日本経済はバランスを回復しました。
対外的なバランス回復は、国内の経済バランス回復のチャンスでしたが、日本はここで対応を誤ったのです。

円安で日本の産業は国際競争力を回復し、企業収益は順調に増大しました。しかし企業は、これまでの賃金コスト引き下げ必要という意識から抜けられず、国際競争力回復の恩恵(円建ての付加価値増加)を賃金上昇に配分する必要に気付かなかったのです。

端的に言えば、円高になった時の賃金引き下げた分は、円安になったら賃金引き上げで元の戻さなければ、国内経済のバランス(賃金と利益のバランス、投資と消費のバランス)は回復しないという事に気付かなかったのです。

これはアベノミクスの初期にキッチリ労使がやらなければならなかったのですが、企業は円安にホッとしただけで、増収増益に浮かれそこまで気が回りませんでした。

連合(労働サイド)は、これまでの賃金引き下げ要請がなくなり、定昇主体の賃上げが可能になったところで安心し、下がった賃金水準の復元の要求をしなければならない事に気付かなかったようです。

こうした、現状認識の遅れによる国内経済バランスの悪化は、長期に亘る消費不足経済、貧困家庭の増加、将来不安・老後不安の増幅もあって、健全な日本経済社会の回復に大きな障害となってしまったのです。

偶々昨年来の急激な輸入インフレに直面し、賃金への配分の不足が顕在化し、今迄の対応では日本経済の回復は不可能と気づくことになって、その修復を今春闘から始めようという事になったことは、些か遅かったとはいえ、本当に良かったと感じるところです。

今春闘に関しては、それが単に輸入インフレで消費者物価の上昇が4%に達したからといった短期的なものではないという事を認識すべきでしょう。

これまでの長期不況を下敷きにした、日本経済の配分構造の是正という大きな課題解決の第一歩という本質的、構造的な視点を見落とさない事が重要と考えるところです。

さらに、問題はもう一つあります。それは、より詳細な雇用・賃金こうぞうの検討を必要としますが、「非正規労働者の増加」という問題です。これは次回確り見ていきたいと思います。

日本経済の今後を決める2023春闘

2023年01月18日 11時48分14秒 | 労働問題
昨日、日本経団連が今春闘に向けた「経労委報告」を発表しました。この報告書の第1号は1975年の春闘に向けて当時の日経連が発表した「大幅賃上げの行方研究委員会報告」です。

この報告書は1973年の第1次石油危機後の1974年春闘で33%の賃上げが行われ消費者物価の上昇はピークで26%の上昇を記録、こんな状況を続けると日本経済は破綻するという危機感から、「無理は賃上げはやめよう」と提唱したものです。

その結果は、労働側の理解・協力もあり数年を経ずして賃上げ率は正常に復し、日本経済は安定成長に戻り、スタグフレーションに苦しむ欧米所要国をしり目に、ジャパンアズナンバーワンへのスタートになっています。

今回はどうでしょうか、昨年12月に連合は賃上げ目標を5%に引き上げ、昨日、経団連は、日本経済の健全な成長のためには「賃上げに積極的に対応することが『企業の社会的責務』である」とこれに応じました。

この労使の判断の一致は極めて重要な意味・意義を持つと考えなければならないでしょう。
端的に言えば、2014年、為替レ―トが$1=120円になって、これで日本経済も復活と思いきや、その後もゼロ近傍の成長から抜けられなかった日本経済をどうするかです。

その原因、最大の問題点に、労使が共に気づいたのですから、今春闘以降の労使の対応、「成長する日本経済に向けての誤りない選択」という労使共通の目的に向けての論議、交渉、合意形成、協調行動が、具体的に期待できる段階に入ってきたという事でしょう。

これから、3月第3週(多分)の集中回答日に向けて、国レベル、産業レベル、地域レベル、企業レベルそれぞれに、労使の真剣な話し合いが続くでしょう。マスコミもいろいろな情報を提供してくれるでしょう。

そして、集中回答日の結果は、その後に決まる中小を含む全国の企業の交渉にも大きな影響力を持つことになるでしょう。

かつて春闘は「年1回の日本経済の在り方についての労使を中心にした学習集会」など言われましたが、シンクタンクや学者、評論家の参加も得て、充実した、そして成果のある春闘になることを期待したいと思います。

このブログも「枯れ木も山の賑わい」と思いながらも、次回以降、折に触れて、論議の渦に入ってみたいと思っています。何分宜しくお願いします。

賃金統計の長期的推移の示唆するもの 4

2023年01月07日 14時36分35秒 | 労働問題
賃金統計の長期的推移の示唆するもの 4
前回は、常用労働者の所定内賃金の平均が1995年から最近時点までの推移で多少の波はありますが、基本的に緩やかな上昇基調にあること、それに対して日本の雇用者全体の一人当たり人件費の平均は、景気の波に揺られながら今に至る1995年の水準に達していないことを見てきました。

 常用労働者所定内賃金と1人当たり雇用者報酬の推移 (指数:1995年=100)<再掲>

                 
これが何を表すかですが、既にお気付きの方も多いと思いますが、長期の円高不況の中で企業のコスト削減の中心であった賃金・人件費の削減は、雇用している従業員の賃下げではなく、賃金の安い非正規従業員の比率を増やす事で行われたことを示します。

正規従業員の数は、定年、自主退職、退職勧奨などの形で出来るだけ減らし、新しく採用するのは非正規従業員という形です。これが就職氷河期の実態です。

結果的に1995年ごろには15%程度だった非正規従業員は40%に近くなりました。

非正規従業員の平均賃金(現金給与総額)の月額は、厚労省の毎月勤労統計によれば、「一般労働者(主として正規)」35万円、パートタイマ―(1日あるいは週の所定労働時間が一般労働者より短い者)10万円という差があります。

こうした人件費削減策は、$1=240円が120円に、更には80円、75円になるという円高で、日本産業の国際競争力がほとんど失われた時期には「緊急避難策」として「失業よりパートでも仕事があった方いい」という意味でやむを得ぬ面もあったでしょう。

しかし問題は、こうした労働力の有効活用を犠牲にしたコスト削減策が長期に続くとき、社会は急速に劣化現象を起こすという問題があることです。
典型的には就職氷河期の新卒者の家庭では、いわゆる「80:50問題」などが見られます。

産業界に問われるのは、今の日本経済社会の主要な問題の原因を為替レートの正常化後も放置した責任です。

・非正規従業員の教育訓練が行われなかったための生産性低下、事故の多発。
・非正規の増加による低所得家庭の増加、格差社会化の深刻化。
・定年退職者の将来不安の深刻化が若年層にまで波及した将来不安。
・将来不安の深刻化による貯蓄志向と消費不振による経済成長の阻害。
・非正規の雇用不安定と低所得家庭の増加による少子化の傾向の増幅
・日本経済不振による国民の自信喪失。
数え上げればきりがありません。

こうした中で、漸く今春闘では、政府も経済団体も口を揃えて「賃上げ」を連呼しています。おそらくある程度の賃上げ率の上昇はあるでしょう
しかし「その程度で事は済むのでしょうか。」

勿論賃金の引き上げは必要でしょう。しかし、日本経済・社会がこんな事になったのはこの4回連続の分析で見てきましたように、みんなの賃金を下げたのではなく、雇用者の4割という巨大で極めて低所得の非正規労働者群を創りだしたことにあるのです。

教育訓練の行き届いていない、その結果生産性の低い、単純、あるいは未熟練労働者を1人前の熟練労働者、高度技能者、高度人材に作り上げる努力が日本産業社会には必要なのです。

この努力は、2014年アベノミクスの初期、円レートが120円になった時から、緊急避難の解除、平常時への復元政策として、増加した円高差益を活用し、産業界が率先し、政府も協力して着実な復元の環境整備を取るべきだったのです。

このブログでは2013-2014年にかけて非正規労働者の正規化の問題を先ず取り上げることを繰り返し書いてきました。

残念ながら、この10年は無為でした。遅れた分時間はかかるでしょう。今年の春闘から始めて、最低5年はかけてこの問題を軌道に乗せれば、その上に新たな日本経済の力強い成長発展の時代を創りだしていく可能性は見えてくるのではないでしょうか。

賃金統計の長期的推移の示唆するもの

2023年01月04日 20時40分48秒 | 労働問題

今日は、標記のテーマで何か発見するところがないかと考えて、データを探していました。

いくつかの統計を組み合わせなければなりませんし、長期の時系列が取れないものもあって、試行錯誤を繰り返しているうちに、利用する統計については、ほぼ見当が付いて来ましたが、午後になってちょっと邪魔が入り、時間が無くなって、今日の段階では言い訳だけという事になってしまいました。
誠に申し訳ありません。

明日は何とか纏めてご報告出来るかと思いますが、具体的な数字を追ってみると、思っていたよりも、こんな酷い事になっていたのかといった感じがするのではないかと思っています。

今春闘が、日本経済の復活への転換点といった見方が一般的になって、ほとんどの学者・評論家の方がたが、そのように言われ、矢張りそうなのかといった雰囲気も出来つつあるような気もします。

連合や傘下の単産・単組にあっても「やっぱりそうだ! それなら頑張らなければ」という気持ちも出来つつあるでしょう。

経営者サイドでも、経団連の十倉会長の発言が多くの人の共感を呼んでいるようで、連合の要求は無理とった発言は、些か霞んでいるようです。

このブログの主張は、為替レートが120円になった時に(2014年)やるべきことをやっていなかった事がアベノミクスの消費不況を生み、その後の日本経済の停滞、予想もしなかった世界経済の中での日本の、種々のランキングの低下といった問題に繋がった、という長期視点に立つものです。

その辺の現実、その実態が、数字の中でどんな形で出て来るのか、「見える化」がどこまで出来るか明日にかけて頑張って見て、その結果を。明日中にはお見せしたいと思っています。

勿体を付けるつもりは毛頭ありません。結果が上手く出なかったら「ゴメンナサイ」ですが、半分期待して下さい。
改めまして、今日は「言い訳」だけで申し訳ありません。

高齢者の就業問題:7 年金設計とまとめ

2022年12月22日 14時09分29秒 | 労働問題
日本の高齢者の就業問題という論点を軸にして、高齢化社会日本の進むべき道を論じてきました。

改めて指摘できるのは、高齢化社会の概念、つまりは高齢者とは誰かという問題ですが、これが急速に変わってきた事です。

平均寿命の伸びと共に健康寿命も延びて来ました。60歳代は高齢者という時代から70歳はまだ高齢者とは言えないのではないかという時代に変わったのです。
健康長寿を楽しめる時間が10年以上伸びているのでしょう。

こうした大きな個人生活の変化に社会が追い付いていない所に高齢化問題の発生の原因があるというのが現実ではないでしょうか。

典型的には人間と仕事の問題、これは主として企業の問題。仕事からのリタイアと年金の問題、これは政府の問題でしょう。
この2つが、現実の健康寿命の伸びに対応しよう努力しているのですが、意識の遅れが対応の遅れになり、平均寿命の伸びた日本人の老後不安を生んでいるのです。

一方勤勉で堅実な日本人は、制度の遅れに不安を持ちながらも、着実に対応の努力をしている事は統計の数字が明らかにしています。

ならば、変化を先取りとはいかないまでも、企業の雇用制度、政府の年金制度を、発想を変え、今の状態に合うような新たな基本設計にして、「ここまでの事は企業経営、日本経済の中で可能です」という制度の改革ビジョンを早急に準備、国民がそれぞれに将来設計をし易いようにする事が望ましいと言えるのではないでしょうか。

企業については既に前回述べてきました。年金については言及して来なかったので、年金設計の在り方についての方向を考えながら、このシリーズのまとめにしたいと思います。

年金については、恐らく今政府が考えている方向は、いつかは年金支給開始年齢を70歳にし、企業の雇用義務(定年?)を70歳にし、老後生活の保障を明確にしたいというところではないでしょうか。

これまで述べてきた点からも、それは合理的な線だと考えます。ただ、定年は企業に任せていいのではないでしょうか。もともと法律で決めるものではなかったのですし、リタイアの選択は個人的な問題です。

年金は早期受給の場合は減額年金制で合理的に対応できます。つまり年金制度は70歳を「標準」に置いて、個人の選択によって早期なら減額、遅らせれば加算の適切なシステムを設計すれば済むことです。

今の様なゼロ成長、ゼロ金利の日本経済では、十分な金額にならない可能性は大きいでしょう。
個人的な蓄積と両方でリタイア後の生活を支えるのです。国民はその準備をしています。平均消費性向の長期的な低下は端的にそれを示しています。

政府は国民に、率直に事情を説明する義務があります。医療費や介護も、子育ても、敵基地攻撃能力も必要なのでしょう。
ただ、老後生活には2000万円足りないという審議会の答申の「受け取り拒否」といった不誠実はいけません。国民に不安と不信を与えるだけです。

本当の問題の所在は、日本経済が成長しない事にあります。年金という将来支払うものの原資は経済成長の中でこそ負担できるのです。

このシリーズの中でも見てきましたが、政府の政策宜しきを得て、また、企業が目先の収益より日本経済の成長による企業の成長発展と社会貢献を企業理念とし(以前はそうでした。社是社訓には「時価総額最大」などと書いてはありません。社会貢献、世のため人のためと書いてあるはずです)、日本経済がかつてのように成長を始めれば、状況は着実に改善するでしょう。

高齢者の雇用、就業がより順調になれば、個人の蓄積の期間も伸び蓄積も増えるでしょう。
ゼロ金利が解消し銀行預金に利息が付けば、一層有利でしょう。
老後資金をギャンブルで稼ごうという今の政府の政策「銀行預金を株式に」で泣く人も減るでしょう。GPIFの一喜一憂もなくなるでしょう。

そしてマクロ経済スライドは、年金減額の手段ではなく、年金増額の指標になるのではないでしょうか。