tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

政府の賃上げ要請

2008年03月08日 21時21分55秒 | 労働
政府の賃上げ要請
 3月12日の集中回答日を前にして、マスコミ上では賃上げ論議が盛んになって来ています。そうした中で、今年は珍しく、政府も賃上げしてほしいと発言をしているようです。
 
 選挙を控えて、景気の悪化を何とかしたいという気持ちの表れかもしれませんが、政府が独り言のように、「企業の収益の改善を国民にも還元してほしい」といったところで、産業・企業の労使関係にはそれぞれの事情がありますし、賃上げしても景気は良くならないという意見も強いですし、政府がどこまで本気かも解らない中では、多分影響はほとんどないでしょう。確かに日本経団連も、収益の上がっている企業は、従業員に還元するという趣旨の発言もしているようですが、それは企業それぞれの事情によるべきだと補足していて、議論はかみ合ってはいないようです。

 政府が賃金について意見を述べることは、日本はもとより、海外主要国でも通常はほとんどありません。最低賃金のように法的拘束力を持つものでさえ、本来は、労使と公益の三者に任せているのが制度の仕組みです。かつてケネディー大統領が、アメリカの鉄鋼の賃金交渉に「アメリカ鉄鋼業の国際競争力を失わせるような無理な賃上げ要求は止めなさい」と介入したことがありましたが、そのときには、アメリカでは法的に使用者団体が作れないから、経営者に代わって政府が介入するしかない、と解説されていました。

 ヨーロッパでも、一時、「所得政策」といって、政府が賃金や物価の決定に介入したことがありましたが、ほとんど失敗でした。ですから今では「所得政策」という言葉は使われなくなってしまって、同じことを金融政策でやろうとして、「インフレ・ターゲット」などという言葉が使われています。

 政府が(政府も)行動を取って成功した、数少ない成功例を挙げますと、歴史的にも名高いドイツの経済の安定成長のための「協調行動」、オランダのワークシェアリングのための「ワッセナー合意」などで、これは政府が介入したというよりも、政・労・使の三者が、社会・経済・労使関係の安定化、健全化を願って、十分に話し合って、納得した上で実行されたものです。

 日本には、連合も、日本経団連もあります。政労使が協力して、オイルショックを乗り切ってきた経験もあります。政府が勝手に、最低賃金を大幅に引き上げるべきだとか、賃上げをすべきだとかいうのではなく、コンセンサス社会といわれる日本の特色を生かすような、日本らしい納得のいく政労使三者の合意による政策がほしいなと思います。