PEN-FT #1945XXと時計2つが来ています。カメラ本体は、工場から出たままで、メンテナンスは受けていないのだろうなぁ、という感じ。巻上げゴリツキ、駒数カウンター復帰不良、セルフタイマー不良、裏蓋ラッチの跳び越しなどが確認できますが、問題は付属の38mm。ご覧のようにピントリングが1mから無限方向に回せません。これで撮影できてましたか? ピントリングのイモネジを緩めたか、分解をして鏡胴ヘリコイドを抜いていまったか? 一緒の腕時計はセイコーのスカイライナーでライナーのコストダウン機。文字盤はブラックで人気があります。使用中に動かなくなった由。もう一つは、9型のスモールセコンド。BEAUTY 15石という時計。リューズの位置が、通常の3時ではなくて12時になっていますね。これは、軍用時計のパイロットが使用するモデルにありますね。腕を前に伸ばして操縦をしている時に、文字盤が正立して見えるためのもの。海軍航空隊の搭乗員などが使用しています。緩急針はS一杯でも進み加減です。ひげゼンマイに原因がありそうです。
裏蓋を開けて機械を見ます。何度も分解を受けてネジやテンプ受けなどがキズだらけですね。プロはこんな分解はしないと思いますが・・文字盤も針を深く入れ過ぎて、短針が文字盤と干渉していた形跡があります。これではトルクが失われますね。テンプをアシストすると数秒は動いて止まります。香箱(ゼンマイ)のトルクが輪列最後のガンギ車まで伝わっていないようです。
分解のうえ、各部品を点検しましたが、ホゾ折れなどはなく、オーバーホールで復活できそうです。すべて超音波洗浄をして適正なオイルを塗布しながら組み立てて行きます。香箱をセットして受けを取り付けます。
輪列をセットして受けを取り付けます。香箱の角穴車を取り付けて、リューズを回して、ザラ回しで輪列の最後、ガンギ車がスムーズに回転することを確認します。問題がありませんので、アンクルをセットします。
テンプを載せて動き出しました。作動に問題ないようですが、ツツ車や日ノ裏車、針などの負荷を掛けた状態で止まりなどが無いかを確認します。
完成した機械をケーシングします。この時計は過去に何度も分解を受けており、文字盤や針も抜きキズや歪みが多くあります。文字盤には、中心部分に短針が接触した形跡があり(深く入れ過ぎ)状態は良くありません。しかし、この頃の黒文字盤は現存数は少なく、現在でも人気があります。私もセイコークラウンの黒新品を持っていますので、そのうち作りたいと思っています。文字盤の清掃と、針の研磨及び歪みを修正して取り付けました。歪みを修正しない状態では、針どうしが接触するか、クリアランスを取ると、今度は風防の内側に接触してしまいます。風防もキズの研磨をしてベセルで取り付けますが、古いケースですので、ベセルがパチッと嵌らず、脱落の危険性がありますので、接着と併用としています。裏蓋には前回のオーバーホール記録が記入されていますが、とても時計師の仕事とは思えませんので、それ以後にアマチュアさんが分解したのでしょう。
すみません。今日は作業はサボって中央道を走って、長野県の松本市にある国宝「松本城」に行って来ました。桜がちょうど見ごろと聞いたからです。東京は曇り勝ちでしたが、内陸は良い天気で青空に天守と桜は非常にきれいでしたね。アマチュアカメラマンが大挙して撮影をしていましたが、今日は絶好の撮影日和となったでしょう。
しかし、私はコンパクトデジカメのメモリーを入れ忘れるという大失態で、幸い、近くのコンビニで入手することが出来てラッキーでした。コンビニは便利ですね。そんな訳で、撮影は数枚です。松本城の天守は想像していたよりコンパクトでしたが、均整の取れた美しい姿でした。幕末維新には城は荒廃して天守も傾き、大修理により現在の姿に復元された由。天守の最上階まで登ることが出来ますが、私は体調により二階までとしました。
桜のほかに、これ梅ですかね。この後、お決まりのそばを食べました。気になったのは、こちらの道路を走ると、なんで信号が長いのでしょうね。東京の人間にはイライラします。おおらかな県民性だからでしょうか?
帰路の途中、下諏訪にある時の科学館「儀象堂」に立ち寄りました。こちらは、900年以上前に中国で作られた水車時計「水運儀象台」を復元展示してあります。その他、歴史的に貴重な時計やセイコーの歴代製品なども展示されています。
これは、私の生まれた時代の大好きな時計、セイコースーパーですね。私のスーパーとは微妙に文字盤が異なる。多くのバリエーションが存在したのでしょう。バンドはかなり渋いですね。私も今度付けてみましょう。女性職員のお二人と少しお話をさせて頂きました。私も機械時計を組み立てます。と言うと、熱心にお話しをしてくださいました。こちらでは、実際に工場で時計の組立をされていた先生が、組立を指導してくださるカリキュラムもあります。帰路のため、短時間の訪問でしたが、次回は、時計の組立を勉強するため、再訪したいですね。
ではFTです。オーナーさんからは「O/Hをすれば、まだまだ使えますよね」と言われています。使えますけど、満身創痍の個体ですね。巻き戻し軸受は塗布されているモリブデングリスがカラカラに乾燥して、作動不良となっていたり、外観や内部のメカも一般的な個体よりグリスと汚れでドロドロの状態でした。それだけ良く使われたということでもありますね。幸い、部品交換をしなくてはならないところは無いと思います。画像は洗浄やクリーニングをした本体。では、組立を始めて行きます。
シャッターユニットを分解洗浄しました。この個体はかなり使い込まれた形跡があって、各軸受のグリスは乾燥してカラカラの状態で固着傾向にありました。幸い、巻上げギヤや軸には著しい偏磨耗はありません。不思議ですね。コンスタントに使い続けていたからかな? 10年前から実用されているそうです。
過去に何度か分解を受けていますので、シボ革を再接着した古い接着剤が残っています。このまま再接着をしてもごまかすことは出来ますが、私は完全に清掃をしてから接着します。この性分はロードレースをやっていた頃から変わりません。自分の命を託して走るエンジンを、見えないところだからといって手を抜いて組むことは出来ませんからね。シボ革は市販のものに交換をご希望です。
組立はほぼ終了しています。駒数カウンターの復帰不良やセルフタイマーの作動不良などを修理調整してあります。この頃のセルフタイマーは変更前のタイプで調子の悪いこと・・ファインダーのピント再調整をされていますが、ストッパーが曲がるほど締め込んであります。シボ革の張替えご希望ですので、裏蓋のシボ革を剥離します。「指針動かず」、なんだ手直し機ですね。
付属でついて来たシボ革。市販されているようですね。張替えには、ちょっとコツがいると思います。まず、寸法が微妙に合っていないこと、材質が牛皮のカーフのような柔らかい材質で寸法保持のための裏打ちがないため、貼り直しをすると強力な両面テープにより、ビョーンと皮が伸びてしまい収拾がつかなくなります。(私がやりました)画像の前面はシボ革の落とし込みが深いので問題はありませんが、皮厚が厚いため端部の収まりが悪い。下地のリベットなどの段差がそのまま表面に影響してしまう。などですね。
裏蓋です。こちらはプレスで落とし込みを作っているため、シボ革が厚いと裏蓋よりも高くなってしまいます。この材料の厚みは0.7mm程度で、純正は0.55mmですから、その差分だけ盛り上がってしまいます。(特にペンは薄く出来ています)練習用として1枚余計にセットされているのは良心的だと思いますが、慣れている私でも、一発で位置を決めて貼るのは簡単ではありません。カメラ用のシボ革材料はこれらの不具合が無いように作られています。カーフではなく、ワニ皮のような材質であれば、もう少し寸法も安定し、なお且つ、滑り止め効果も高いのではと思います。両面テープ貼りのため、長期に安定した接着は望めませんが、細かなことは気にせず、お手軽に色替えをしたい向きには便利なものと思います。但し、ご自分の責任で貼ってくださいね。
38mmレンズをオーバーホールしています。分解していくと、鏡胴とヘリコイドの間に切粉が挟まっていますね。鏡胴の組立面が切粉の形に陥没しています。これは工場での組立の問題ですね。厳密には、倒れが発生しているわけです。
FT用のレンズには通常の絞り表示とTTLナンバーの両方をセットすることが出来ますが、これが問題で、絞りリングを力一杯に引かれると、ボール受けリングにカシメられているスペーサーが抜けてしまう不具合があります。意外にピントリングが回らないという場合は、この状態となっていることがあります。そこで、ポンス台を使用して、スペーサーを再カシメしておきます。
レンズを分解する時には、ピントリングのイモネジは緩めないでくださいね。仕上がった本体に取り付けて完成です。改良前のセルフタイマーユニットには、止まりの症状が改善困難なユニットもありますね。アンクルの精度が悪い場合が多いのです。画像は、セルフタイマーの作動を確認しているところ。多少、水分が混入していた経過のある個体でしたが、コンスタントに使用されていた分、大きな問題は無い個体でした。まだまだ活躍してくれます。腕時計はスカイライナーは快調。9型は作業中止としました。