カメラをさぼって、普段使いの56キングセイコーを組んでいました。5625-7000と、現存数が一番多いタイプですね。文字盤と針は良くありませんが、風防ガラスは新品の純正品です。このモデルは、ワンピースケースで、裏蓋は開きません。機械は風防を取って入れることになります。すると、歩度調整の度にベセルを外さなくてはならないため、画像のように、ラグの間からドライバーで緩急針を調整できるようになっています。メクラ蓋のパッキンは自作したものです。ワンピースケースは、防水性を上げるためと思いますが、こんなビス孔があるんじゃ、あまり意味が無いようにも思えますけどね。分解が面倒なだけです。
裏側です。ご覧のように、裏蓋はケースと一体で開きません。中央にはメダリオンが付いています。使い込まれた個体では、メダリオンが欠落しているものや、摩滅しているものが多いです。複製を売っている方もいますが、これはオリジナルのようです。
さすが8振動、精度は安定しています。これぐらいなら、クォーツの精度に慣れた方でも支障はないでしょう。文字盤の太いインデックスと剣型の針がキングセイコーの特徴ですが、左は少し後の製造5625-7121です。こちらはワンピースケースではなくて裏蓋が開きます。ほら、こっちの方が合理的じゃないの。メダリオンは省略されたのは寂しいですけど・・ケースや文字盤など、少し軽いイメージになっていますね。両モデルは基本的に同じ機械ですが、緩急針の調整の違いでA、Bタイプに分類されます。
で、到着のダンボールを開けましたら、あらら、「連休に使いたい」連休って入っているじゃん。幸い、初期型ですが、非常にきれいな個体で、このままでも問題ない程度ですが、メンテナンスのご希望ですので急いでやりましょう。
フィルムの巻上げ不良以外は問題の無い個体と思ったのですが・・・だいぶ手が入っていますね。トップカバー裏の駒数ガラスなどは電動工具で研磨を受けていて、駒数ガラスも再接着されています。じつは、FVの初期は上下カバーの留めビスはスリ割り(巻上げレバー裏のみ+)のはずですが、全て+になっています。まぁ、途中のメンテナンスで替えられていることもありますが、この個体は、本体とカバーが合っていないのではないでしょうか?
底部を見ます。あぁ、これは違いますね。ダイカスト本体はFTで言えば後期に属するもので、概ね27万代付近のボディーだと思います。たぶん、FTの後期型があって、トップカバーにダメージがあるので、機械が不調のFVから専用部品を移植して価値の高いFVを作った。そんなところでしょう。
シボ革の剥離を見れば、分解した方の技量が分かります。キズだらけですね。
スプロケットの滑りによる巻上げ不良を起こしている個体は、スプールのスプールバネが弱い傾向にあるというのを経験的に感じます。この個体もやや弱いので、強化バネに交換しておきます。
時間の無いときに限って厄介な個体です。通常、シャッター幕まで分離している分解は少ないのですが、この個体は分解してありました。グリスをべっとり付けて組立のビスは斜めに入っています。ねじ山を修正して組んでありますが、グリスを付けることより、部品の磨耗による金属粉を洗浄する方が先決だと思います。で、二軸を組んだボディーに完成したシャッターユニットをセットしました。ここで、スプロケットのクラッチをテストしようとボタンかけを取り付けますが、バネが外れてしまいます。これはFT用のバネを使っているためで(FTボディーですから当然ですが)電池室が無く、電池受けのみのため、FT用のバネでは外れてしまうのです。そう、FTとFVではバネの形状が異なるのです。FV用のバネは用意していませんので、ステンレスバネ材にて製作(セットしてあるもの)してあります。(ピンセット先は付いていたFT用バネ)
あちゃー、写ってないね。オーナーさんから、スクリーンのシミをご指摘いただいていました。右下角部分にシミが確認できます。
原因はこれです。下のミラーユニットに多量の通常グリスを塗布したために、流化して上方向にしみ出しています。スクリーンはすぐ上なので、スクリーンにもしみてきたということです。グリスの選択と塗布量及び塗布部分を吟味しなくてはなりません。
前板の組立を終えて、シボ革を接着しますが、シャッターダイヤルをFV(Fと同型だが別部品)用に交換したのにシボ革を換えていないため(FTベースなので当然ですが)シャッターダイヤルの形状に合っていませんね。FTは単純な丸型でFとFVは上下にでっぱりがあります。F用に合わせてカットして使用します。
本体は完成。付属のレンズは絞りリングがスムーズに回らないとのこと。原因は、絞りリングを受ける鏡胴の変形。分解歴がありますが、なんで変形させるのか意味不明。真円に研磨修正の上、全体の清掃をしてあります。元はFTにFV専用部品を移植してFV化をしたと言う個体ですね。個体数維持のために、止む終えずニコイチにすることは仕方の無いこともありますが、このケースでは、FVオリジナルを修理する選択肢は無かったのでしょうか? 私ならそうします。これで全て完成。細かな破綻個所を修正してしまいましたので、一般的には元FTであると言うことを見破ることは出来ないでしょう。(私は記録しています)この個体の場合、FVの初期なのに改良後のセルフタイマーユニットが付いている。上下ビスが+がヒントでしょう。後期型ベースなので、シャッターのトルクも出ていますので、調子はよろしいと思います。将来手放す時があれば、是非、FTベースであることを告げてください。いつもお土産を頂いていますので頑張りました。連休後半に使用出来ますね。