今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
(お問合せ)tomytmzk@titan.ocn.ne.jp
 

キヤノン Demi S のメンテナンス

2012年04月12日 23時22分47秒 | インポート

Dscf102246_3 はい、その前にPEN-Sの駒数ガラスの接着をします。この個体は、オーバーホール後、3回ぐらい帰って着たかな? 前回はカウンターが動かないとのことで戻りましたが、原因はオリジナルの駒数ガラスの接着剥離によりガラスと針が干渉していたものでした。通常のオーバーホールでは駒数ガラスには触れていません。そこで、うちのオリジナルの駒数ガラスに交換接着をしてお返ししたのですが、また、同じ症状で戻って来ました。カウンターボタンを操作する時に、駒数ガラスにも過大な圧力を掛けたためと推測します。特に、エポキシ接着剤は最大接着強度に達するまでには数ヶ月掛かりますので、再接着をした当初は、極力、駒数ガラスに圧力を掛けないようにお願いします。私も、クレームには真摯に対応して来ましたが、このような原因で、複数回戻ってくるのは困るのです。

Dscf102418

では、デミSです。さすが、キヤノンだけあって、デザインは非常に洗練されて商品性が高いと思いますし、私もデザインは大好きです。しかし、ダイヤル35も同様ですが、デザインを優先するあまり、組立が非常にしにくい傾向にあると思います。合理的な設計のPENに慣れていると「何で外れないの」という個所が多数あります。不良個所のご指摘にはありませんでしたが、露出メーターの針が突然振れなくなる症状がありますね。画像のように光源に向けても全く振れていません。上下カバーが黒のため元はカラーデミではなくて黒のシボ革モデルですね。カラーデミはグレー色です。

Dscf102557 外装はアルミアルマイト製になったもので、落下をするとすぐにへこんでしまうという弱点がありますね。また、この個体は、ジボ革を本皮の強力な両面テープ貼りとしてありますが、これは市販品なのかな? しかし、本皮は強度が無く、剥離時に溶剤も使えないために使いにくい素材です。再分解を考慮するメーカー製では採用しない理由です。過去に何度も分解を受けており、レンズのゴミ混入や距離リング、シャッターリングなどの作動が堅いなどの症状がありますので、分解メンテナンスをしておきます。

Dscf103264シャッターを分離して洗浄、スローガバナー注油、レンズ清掃などをしてあります途中の画像は撮り忘れました。何度も分解を受けて、無限遠が出ていませんね。ピントの調整範囲は非常に小さいため、ヘリコイド部の調整を変えるとチャージのリンケージが干渉して、無限遠の調整が出来なくなります。

Dscf103037ご指摘頂いていた他にも、あっちこっち不具合がありますね。カウンターが作動しません。原因は二つあって、まず、トップカバーの角部へこみのため、カウンター板と接触をして作動不良になっていることです。ギリギリのクリアランスですから、少しへこますと干渉してしまいます。二つ目はピンセット先の運針したカウンター板を保持する爪のバネ力が劣化しており、カウンター板を止められないという不良。Sから動きそうになっても戻ってしまう症状。トップカバーのへこみ修正とバネの修正をして改善しています。ファインダーはご覧のようにプリズムでオフセットされた構造。プリズムの腐食も多く、清掃をしても改善しない個体が多くありますね。

Dscf102972 デミは最中構造ですが、Sの場合は前面カバーに上下ツーピースになっています。シボ革は張替えられいているのば良いとして、オリジナルの糊カスがそのまま残っています。アマチュアさんに良くある作業で、完全に清掃した仕上がりとはおのずと違ってくるのです。工数に制約のないアマチュアさんほど、時間を掛けて丁寧な作業を心がけるべきです。

Dscf103264_2 シンクロソケット用のリード線を配線して行きます。

Dscf103152 このカメラで面倒なモルトの張替えをしました。オリジナルの接着剤と、その後に貼ってあった、植毛紙が頑固に固着しており、完全に清掃するのには時間が掛かりました。しかし、この作業を蔑ろにすると仕上がりは良くなりません。モルトはオーナーさんの支給品で、市販されているようですが、確かに便利ではありますが、実際にきれいに貼るのには、それなりの器用さが必要でしょうね。細い糸状の部分が多く、このよう場所は、両面テープ貼りでは無理があります。本来は接着です。また、この個体は特に、上側の右端部分に落下によるへこみがあって、モルトを貼ると、本体側に干渉して剥離してしまいます。この点からも両面テープでは困難なのです。へこみを修正しておきました。

Dscf103399 これで完成です。可愛いデザインのデミですから、赤いシボ革は華やかな雰囲気で良いですね。オリジナルのシボ革は、厚みがあって、シボの形も手に滑りにくいものですが、その点では、本皮はちょっと劣る気がします。小さくて重いカメラですから、滑らないという性能は無視できないと思います。落下をすれば、すぐにへこんでしまうカメラですからね。

 


またまた来ましたPEN-FT三兄弟(3)

2012年04月05日 12時22分43秒 | インポート

Dscf101499 ちょっとピンボケだな。え~と、三兄弟の2台目です。MazKenさんのところの生徒さんの供給用ですが、お待ちの方がいらっしゃるとのことで、腕時計ばかりやってましたので止まっていました。じゃ、急いでやりますよ。この個体は#3703XXと、まぁ、良い頃の個体で、特に問題は無い状態ですね。いつものように全て分解洗浄から始めています。シャッターユニットも磨耗も少なめだと思います。

Dscf100926 すみませんね。特に書くことがないのです。但し、露出メーターは基板別体タイプが搭載されており、露出計の製造が46.3.31で、カメラの完成が1971年4月ですから整合性はピタリです。これによって、後年にSSで交換されたものではなくて、工場で組立られた時の仕様だと推測します。欠点の無い個体ですが、後ろの13万代機に比べて、巻上げのスムーズさでは負けますね。これは、メインのスプリングが強化されているので仕方が無い部分もあります。とりあえず、MazKenさんのセミナーに参加される生徒さん用に2台お送りしておきます。どちらを選ばれるか、ちょっと迷うと思いますよ。

Dscf101054 で、急ぎ発送をした後はセイコーのスモールセコンドを作りました。機械は、新10Aと呼ばれているタイプで、戦後まもなくの復興最初の機械になります。分針が6時位置にあるスモールセコンドです。現存でオークションで入手出来るジャンクは殆どがケースはニッケルめっきの劣化、文字盤の腐食などがあり、機械をケースに固定するネジやリューズの巻き芯の抜け止めネジなどが錆び付いて分離出来ず、あきらめてオークションに出品されて来るものが多いのです。たまたま、当時としては珍しいステンレスケースで文字盤もそこそこと言う個体が入りましたので、他の個体から部品を移植しながら1台仕上げるという感じです。しかし、この個体には針が付いていません。他から調達で、風防は新品とする予定です。

多くのジャンクから、程度の良い部品を寄せ集めています。しかし、同じ10Aでも、製造時期によって細かな部分は設計変更を受けており、流用が出来ない部分もあります。奥が深いですね。

Dscf101151 完成した新10Aの機械。テンプのひげゼンマイが変形しておりリ、修正に時間が掛かってしまいました。ご覧のように、受けが特徴的なデザインで、バナナに似ているところから、バナナ型とも言うそうです。一見、細かな受けが沢山あるように見えますが、三つの受けは繋がっており、実際は一つの部品です。このような古典的なデザインはこの頃までで、次に発売をされたセンターセコンドのスーパーは近代的なデザインを採用しています。機械は10石と7石が有ったようですが、この機械はピンセット先の三つともルビーは使用されていない7石のタイプです。しかし、意外に磨耗は少なく、テンプの振りも安定しています。

Dscf101286 セイコーでは、戦中にすでに10型の機械は存在して、将校用に供給されていたようですが、戦後、新しく設計をした10型なので「新10A(B)」と称するんだってさ。他の工業製品と同様で、お手本は外国の機械だったようで、零戦のエンジンやプロペラ、果ては自慢の20mm機銃だって、すべて真似っこなので、今の中国は笑えないのです。10A型は1946年頃に発売された機械とのことですが、裏蓋に打刻されている数字からは、1944年の7月に製造されたものと読めます。昭和19年ですと、敗色濃い戦時中ですから変ですね。途中でケースを換えたものか或いは1957年まで生産されたものかも知れません。しかし、ケースがステンレスだったことから、文字盤や機械も時代を考えれば良好な方でしょうね。ケースには大きなキズはなく、軽く研磨をしてから超音波洗浄をしておきました。ただし、バンドを留めるバネ棒は完全に固着しており、ケースから分離は不可能でしたので、ニッパにて破壊して取り去っています。

Dscf101424_2 機械に文字盤を取り付けて針をセットします。針は、以前に分離してあったようで、オリジナルが見つかりました。樹脂の風防は新品に交換予定でしたが、クラックは無く、研磨できれいになりましたので、再使用をします。恐らく、20年前ぐらいに交換されていると思われます。現在の秒針がセンターセコンド型が普及する以前は、6時位置に小さく小時計が付く、スモールセコンドが主流だったのです。

Dscf101564 隣りのクォーツ式クロノグラフと同じスモールセコンドですね。結果的に、殆どオリジナルの部品で復活しています。元々、あまり消耗していない個体だったのですね。完成して、ではバンドとなりますが、カン幅が15.5mmという中途半端な設計。この当時としては、ケースとのバランスから適切なサイズだったのでしょうけど、現在の規格にはありません。引き通しのパリス冠タイプのバンドを製作しているところでも探してみましょう。

Dscf101255 では、三兄弟の末っ子をやりましょう。このPEN-FTは#3213XXと30万代の良い頃の個体ですが、最初の点検で気になったのは、トップカバーのフィルムカウンター部分がへこんでいますね。それと、メカでは、低速1秒が13秒掛かっています。光学系は新しい分、特に問題はないと思います。

Dscf101375 ところで、皆さんはこの本をご存知でしょうか? 先日の検査入院の時にINOBOOさんが送ってくださった本「東京シャッターガール」です。暇なベットで一気に読んでしまいましたが、内容は、高校の写真部に所属する女子学生の目を通して、主に東京都内の撮影ポイントを紹介しています。私の住んでいるところからも近い吉野梅郷なども紹介されています。当初は、女性の作家さんかと思いましたが、桐木憲一という男性作家さんでした。登場するカメラもマニアックな機種が多く、カメラも非常に正確に書かれています。オリペンとか言って、ペンEEもちらっと登場します。オリペンって、私初めて聞きました。へぇ~、マニアさんではそう言うんだぁ。私は治すばかりで知りません。お陰で退屈せずに済みました。

Img_2066今日の関東地方は南風が入って気温が上がって20℃を超えました。外出のついでに東京シャッターガールではありませんが、車で満開となった桜を見ながら走って、毎年恒例の定点観測、百恵ちゃんちの前です。少し前に外装を塗り替えていましたね。あまり趣味の良い外観とは思えませんけど、近隣では目立ちますね。国立の富士見通りは、いつもより車の通行が多かったです。みなさん、桜を見にこの通りを通っているのでしょう。

Dscf101511 では、FTに戻ります。スローが異常に遅かったわけですが、分解してみると・・・あら、ちょっと騙されちゃったかも知れませんね。外観は良かったので安心をしていたところがありましたが、画像のスローガバナーが激しく腐食しています。分解しようと試みた形跡もありますね。解んない人には治せないの。普通は錆びない巻上げユニット部分のギヤが錆びていましたので、ちょっと変だなとは思ったのですが、こうななるとは・・恐らく、水気でも入ったまま放置されたのではないでしょうか? さて、このガバナーは復活できるか、それとも交換か、まず、ユニット単体まで分解して状態を見ます。

Dscf101666 スプール軸とスプロケット軸を組んで行きますが、スプール軸のアイドラーギヤが錆びていますね。これに対応したスプロケット側のギヤも錆が発生しています。水気が入ったまま放置されて、噛み合っているギヤ部分の湿気が抜けずに錆びついたのでしょう。

Dscf101714 錆び付いていたスローガバナーです。こちらもアイドラーギヤが錆び付いてスムーズに回転しません。それで13秒も掛かっていたのです。本来は、スローガバナーは分解不可で、ショートパーツの部品設定もありません。まぁ、今となっては、例えあったとしても同じことですが・・・そこで、手持ちの部品からギヤを調達して交換してあります。幸い、1/4以下で繋がる薄ギヤは使えます。(ちょっと錆はあるのですが)基本的に時計と同様な原理ですが、腕時計であれば、これだけ錆が発生していたら絶対に動きません。その意味ではカメラはクロックレベルの精度です。

Dscf101884 前板を装着して作動のテストをしています。ご覧のように、低速も正常に作動しています。

Dscf101934 ほぼ組み終わっていますが、正常な個体でも、シャッターダイヤルを1/8から1/4に回す時には多少の抵抗感があるのですが、これは、ギャを変速するためのレバーが作動するためです。抵抗感がある時に無理に回すのは厳禁です。ギヤに負荷が掛かって磨耗をしてしまいます。で、この個体ですが、そのレバーの指示部分が激しく錆びていましたので、修正をしても、どうしても作動に抵抗感があります。少し戻し気味にしてから回すように心がけること。

Dscf102081 で、完成しています。新しいペンファンの方の手元に届くことを願っています。

Dscf102194 付属で38mmが2個来ていますのでオーバーホールをしておきます。これは、設計変更後の個体。絞り羽根部分に、流化したヘリコイドグリスがべったりと付着するため、絞り羽根の動きが規制されてしまうのです。画像は、全て洗浄脱脂をして組み立てているところ。


Zuiko 38mm f1.8 のトラブル

2012年04月03日 21時15分37秒 | インポート

Dscf101315 最近は標準レンズのメンテナンスも多く入って来ますが、只のレンズ清掃では済まない個体が増えていますので、ちょっと工数が合わなくなっていますね。この個体は#27777(ちょっと素敵な番号)と、設計変更前ですが、レンズは後玉外周曇り以外は比較的きれいです。問題は、ピントリングが回らなくなったということ。FT用のピントリングには通常の絞り値とTTLナンバーの両方を回転させて表示する設計ですが、ピントリングとボール受けリングの組み立て小ネジ2つのうち1つが脱落していたもの。ピントリングを手前に引いて回転させるためのバネが多数使用されているため、ストレスのため小ネジが揺るんだ状態で使い続けたことが原因ですね。幸い、バネやスチールボールの紛失はありませんでしたので、すべて分解洗浄をして再組立をしてあります。

Dscf101025 38mmは画像1枚で終ってしまいましたので時計をUPしておきます。56キングセイコーの機械のみ不動ジャンクが手に入りましたのでO/Hをして手持ちのケースに入れて完成させようという魂胆です。56キングセイコーというと、ワンピースケースが多いのですが、それに搭載されている機械は5625Aというタイプ。この個体は1973年製造の5625Bで、通常の裏蓋ねじ込み式のモデルです。よって、裏蓋のメダルは省略されています。56系は、それまでの機械の基本レイアウトとは異なり、セイコー最後の機械式ユニットとして、斬新な設計をされています。それによって、部品の耐久性に問題がある揺動レバーは不良となっていました。まず、分解洗浄をしましたが、自動巻きの歯車に磨耗と揺動レバーの他は、特に問題はないと思います。基礎キャリバーのロードマチックが6振動から8振動に改良されているため、テンプ、アンクル、ガンギ車、そして香箱などは別仕様で共用は出来ません。

Dscf101275 UPの予定は無かったため、画像は撮ってありませんで組立はほぼ終っています。作動は安定しており、特に問題はありません。なんでジャンクになったのかな? 一応キングセイコーでしょ。それが1.800円で売られてさ。で、手持ちの文字盤をつけていますが、入手をしたジャンクはデイトのみの表示仕様でしたので、文字盤に合わせてデイのリングと作動メカを移植してあります。針は付属のものを使うつもりでしたが、腐食と軸に圧入をしても緩くて使えないため、以前に入手しておいたリプロ針を使用します。本来は、この文字盤には剣型ではなくて普通の針が正規ですが、キングセイコーなら剣型でしょう。という私の思い込みです。リプロにしては仕上がりは非常に良いと思いますが、残念なのは、中心に入る黒線のプリントが艶消しが強すぎて黒に見えないこと。これ、タイ国から送られて来ます。

Dscf101487 で、ケースに収めて完成です。風防はガラス製ですが、ジャンクは殆どキズたらけのため、社外品の新品に交換してあります。バンドは腐ってもキングセイコーなのでイタリア製のモレラートを奢ってあります。やはりセイコー5よりは高級感がありますね。