はい、その前にPEN-Sの駒数ガラスの接着をします。この個体は、オーバーホール後、3回ぐらい帰って着たかな? 前回はカウンターが動かないとのことで戻りましたが、原因はオリジナルの駒数ガラスの接着剥離によりガラスと針が干渉していたものでした。通常のオーバーホールでは駒数ガラスには触れていません。そこで、うちのオリジナルの駒数ガラスに交換接着をしてお返ししたのですが、また、同じ症状で戻って来ました。カウンターボタンを操作する時に、駒数ガラスにも過大な圧力を掛けたためと推測します。特に、エポキシ接着剤は最大接着強度に達するまでには数ヶ月掛かりますので、再接着をした当初は、極力、駒数ガラスに圧力を掛けないようにお願いします。私も、クレームには真摯に対応して来ましたが、このような原因で、複数回戻ってくるのは困るのです。
では、デミSです。さすが、キヤノンだけあって、デザインは非常に洗練されて商品性が高いと思いますし、私もデザインは大好きです。しかし、ダイヤル35も同様ですが、デザインを優先するあまり、組立が非常にしにくい傾向にあると思います。合理的な設計のPENに慣れていると「何で外れないの」という個所が多数あります。不良個所のご指摘にはありませんでしたが、露出メーターの針が突然振れなくなる症状がありますね。画像のように光源に向けても全く振れていません。上下カバーが黒のため元はカラーデミではなくて黒のシボ革モデルですね。カラーデミはグレー色です。
外装はアルミアルマイト製になったもので、落下をするとすぐにへこんでしまうという弱点がありますね。また、この個体は、ジボ革を本皮の強力な両面テープ貼りとしてありますが、これは市販品なのかな? しかし、本皮は強度が無く、剥離時に溶剤も使えないために使いにくい素材です。再分解を考慮するメーカー製では採用しない理由です。過去に何度も分解を受けており、レンズのゴミ混入や距離リング、シャッターリングなどの作動が堅いなどの症状がありますので、分解メンテナンスをしておきます。
シャッターを分離して洗浄、スローガバナー注油、レンズ清掃などをしてあります途中の画像は撮り忘れました。何度も分解を受けて、無限遠が出ていませんね。ピントの調整範囲は非常に小さいため、ヘリコイド部の調整を変えるとチャージのリンケージが干渉して、無限遠の調整が出来なくなります。
ご指摘頂いていた他にも、あっちこっち不具合がありますね。カウンターが作動しません。原因は二つあって、まず、トップカバーの角部へこみのため、カウンター板と接触をして作動不良になっていることです。ギリギリのクリアランスですから、少しへこますと干渉してしまいます。二つ目はピンセット先の運針したカウンター板を保持する爪のバネ力が劣化しており、カウンター板を止められないという不良。Sから動きそうになっても戻ってしまう症状。トップカバーのへこみ修正とバネの修正をして改善しています。ファインダーはご覧のようにプリズムでオフセットされた構造。プリズムの腐食も多く、清掃をしても改善しない個体が多くありますね。
デミは最中構造ですが、Sの場合は前面カバーに上下ツーピースになっています。シボ革は張替えられいているのば良いとして、オリジナルの糊カスがそのまま残っています。アマチュアさんに良くある作業で、完全に清掃した仕上がりとはおのずと違ってくるのです。工数に制約のないアマチュアさんほど、時間を掛けて丁寧な作業を心がけるべきです。
このカメラで面倒なモルトの張替えをしました。オリジナルの接着剤と、その後に貼ってあった、植毛紙が頑固に固着しており、完全に清掃するのには時間が掛かりました。しかし、この作業を蔑ろにすると仕上がりは良くなりません。モルトはオーナーさんの支給品で、市販されているようですが、確かに便利ではありますが、実際にきれいに貼るのには、それなりの器用さが必要でしょうね。細い糸状の部分が多く、このよう場所は、両面テープ貼りでは無理があります。本来は接着です。また、この個体は特に、上側の右端部分に落下によるへこみがあって、モルトを貼ると、本体側に干渉して剥離してしまいます。この点からも両面テープでは困難なのです。へこみを修正しておきました。
これで完成です。可愛いデザインのデミですから、赤いシボ革は華やかな雰囲気で良いですね。オリジナルのシボ革は、厚みがあって、シボの形も手に滑りにくいものですが、その点では、本皮はちょっと劣る気がします。小さくて重いカメラですから、滑らないという性能は無視できないと思います。落下をすれば、すぐにへこんでしまうカメラですからね。