昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~地獄変~ (四)夢:後

2024-03-13 08:00:11 | 物語り

足もとに目をやりますと、なにやら蠢いております。
トカゲのようなゴキブリのような、そんな気味の悪いものがわたしの足指やら、ええっ! 手指の間やらをはいずり回っております。
わたしの体を這っているのでございます。

ナメクジのような、ウジ虫のような、……うわああぁ!
お腹といわず、胸といわず、股間もでございました。
お待ちください、それだけではないのです。
じつは、おぞましいことに、口のなかからも出てくるのでございます。
湧きでてくるのでございます。

あ、あろうことか……。あ、ありえません。
わたしの顔を持った、大便にたかる銀蝿が、口といわず鼻といわず、耳からも飛びだすのでございます。
ああ、も、もうし訳ありません。
もうこれ以上のことは、わたしには申し上げられません。

失礼いたしました。
ここでやめては、なんのことかおわかりにならないでしょう。
気をとりなおして、お話をつづけさせていただきます。
まだまだ夢はつづくのでございます。

真っ赤な血の川をわたっているはずのわたしの小舟が、とつぜんに現れるさけめの中に真っ逆さまに落ちていきます。
岩をつたって逃げようとしますとその岩がとたんに砕け、わたしの手がはさまれてしまいます。
いままでに味わったことのない痛みに、あやうく失神するところでございました。
万力にはさまれた手の骨が、ミシミシと音をたてております。
五倍十倍の太さにはれあがった指から、いまにも血が飛びちりそうでございます。

と、いつ持っていたのか、もう片方の手に斧があるのでございます。
そして恐ろしいことにわたしの意志に反し、その斧で岩にはさまれた手を切っていたのでございます。
どっとあふれ出るわたしの血に、わたし自身が押し流されます。
ひっしに、その血の海を泳いでおります。
ところが、すぐ近くに見える岸辺が、泳げばおよぐほど遠くなっていくのでございます。

もう、気も狂わんばかりでございます。
ああもう、そのまま気絶した方が良かったと思えるほどでございます。
おわかりいただけますでしょうか? この恐ろしさというものが。

とにもかくにも、こういった夢を毎晩のように見るのでございます。
さくやは眠るまいといたしたのでございますが、いつの間にか徒労に終わりウトウトとしております。
ハッと気づき、両手でほほを叩きますです。
首をたたき、胸をたたき、腰をまわして、太ももも叩きます。
しかしその痛みを感じません。それらすべてのことが、夢でのできごとようにも思えるのでございます。
もしかして、いまこの時の、この告白も、夢? なのかもしれません。



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