昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ボク、みつけたよ! (四十三)

2022-02-26 08:00:13 | 物語り

「男の沽券に関わる」と、男の美学から口にしないという逃げ口上を考えちゃうんです。
でも実のところは修羅場になるのがいやなわけで、怖いわけです。
いままで、誰にもいつのときでも、本音を吐露したことがないわたしです。
どんなに辛辣なことばを投げつけられても、体をかわしつづけてきちゃったんです。
まともに反論することはありませんでした。
おのれに非がないと思っていても「面目ない」とばかりに頭を下げてしまうんです。
それで収まるならいいじゃないか、とばかりに。

 言い訳をしないことが男の美学だとばかりに応じてきました。
「男らしいじゃないか」。昭和の御代では、それでよかったのかもしれません。
いっぱしの男として、クドクドだらだらと言い訳をしないことが、ある意味立派なこととして見られたかもしれないです。
でもいまは、平成そして令和の時代ですしね。ジェンダーフリーが叫ばれていることですし。
いや、正直にお話ししましょう。
怖かったんです。
むちゃくちゃな論理をふりかざしての言い訳が、どんなみじめな結果をもたらすか、想像しただけでも恐ろしい。
まともな喧嘩など、一度もしたことのないわたしです。

「おとなしい子どもだ」。「優等生だね」。そんな評価を口にされるたびに「おくびょうなだけです」と、口にしたかった。
けれどもできなかった。
小学生ならばそれで良かった。中学時代には、そんなおのれにうすうす気付きながらも「家庭がムチャクチャなんだから」とごまかせた。
しかし高校時代には、もうごまかしがきかない。もう家庭のせいには、父親のせいにはできない。
おのれの、この性格が資質がうらめしい。
なにごとからも逃げ出すを覚えた自分がうらめしい、腹だたしい。

文字を操る少しの能力を得たおかげで、作文の中に逃げ込んでしまった。
「だって、だれも助けてはくれなかったじゃないか」
いやちがう、真相はこうだ。
「助けをもとめなかった」。ただ、それだけのことだ。
みずから壁をつくって、他人を寄せ付けなかった。他人どころか、身内さえもだ。
自業自得、そんなことばが頭の中をグルグルと回っている。
今夜は、眠れるだろうか。

 室温は13度を下回っている。暖かいベッドからおりて、もう30分以上も冷気にさらされている。
寒い、寒いよお。暖気がほしい。
温風ヒーターがある。点火すれば、暖風をおくってくれる。室温も上がる。
身体は寒がっているし、暖気を欲している。
しかしこころが「要らない」という。室温以上に冷え切ったこころが、「要らない」という。

 目が冴えてきた。「このまま起きててもいいぞ」。身体がいう。
頭の中もすっきりしてきた。パソコンを起動させて、ミミズがはったような悪筆を起こそうか。
ねむくなったら、少しねむればいい。時間はあるさ。
よしんば寝過ぎたとしたら、仕事は休めばいい。
わたしの仕事など、同僚たちがカバーしてくれる。
逃げろ、逃げろ、また逃げちまえ!  

 しかしこころが言う。こころが、また言う。
「要らない」
今日は今日、明日は明日。今日のために明日を犠牲にしたくない。
今日の時間を失えば、今日を明日に使わねばならぬ。
今日は今日、明日は明日。時間を区切りたい。
ねむろう、明日のために。数時間ののちに訪れる明日という朝のために、ねむろう。

ねむらねば、ベッドに入らねば。
こころが、わたしを後押ししてくれる。
「身体が寒がっているから」
こころが、ことばを見つけてくれた。



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