昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十八)  手紙の返信

2013-10-22 19:06:06 | 時事問題
(五)

そしてその手紙の返信は、すぐに武蔵から届く。

「ご尊父さま。ご健勝とお見受けします。
至極結構なことで、喜びにたえません。

今回の進学に関しまして、いつも通り、奨学金を月額壱萬円にて用意いたします。
又、入学金等一時金につきましては、別途用意いたしますのでご提示ください。
それでは、お体をご自愛くださいますように。」

慇懃に書かれたその文面が、茂作には面白くない。
奨学金と言う名目の金銭援助、幾人に与えることになるのか。
両の手を広げても足りなくなった。

村の子どもたちを思い浮かべると、赤子も含めてまだ七、八人が居る。
いつまで続けるつもりかは茂作には分からぬけれども、
相当額の金員負担になることは容易に想像できる。

“それがために小夜子に不自由を強いることなど、決して許されることではないぞ”

縁側に座り、おすそ分けにと持参された酒のつまみを供にしての茂作。
どうしても武蔵を認める気にはなれない。

満月の今夜、これから欠け始める月を見つめて、
「うぅぅむ……」と、ひとり唸りつづけた。


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