昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十九)

2023-03-07 08:00:11 | 物語り

 焼きものに興味をいだいている父親が、とつぜんに割りこんできた。
己の自慢ばなしのごとくに、有田焼の起源やらを東陶と話しはじめた。
「明治以降なんですなあ、有田焼という名称がうまれたのは。
江戸時代には、三川内焼、波佐見焼、鍋島焼などとともに、伊万里焼と呼ばれていました。
秀吉の朝鮮出兵にさかのぼるんですよ。
鍋島藩の藩祖である鍋島直茂が、朝鮮の陶工たちを日本に連れ帰ったんですなあ」
 商売になるかと話にききいる武蔵だが、同好の士だと勘ちがいをして、ますます話に熱がはいってきた。

また始まったとばかりに、ほかの家人たちはそそくさとその場を立ち去っていく。
「あまり遅くならないうちに帰りなさいよ」と祖母がいい、そして、老人が苦言を残していった。
「甘やかしすぎだ、れいを」
「大丈夫ですよ、お義父さん」と立ち上がって、父親が最敬礼をみせた。
軍人上がりの祖父は、うん、とうなずきながら立ち去った。
「むこ養子でしてね、わたし。ましかし、跡取りをつくたんだ。
ある意味、お役御免ですわ。娘のれいが生まれたときは、散々でした。
まるで種馬あつかいです、ひどいものです。
でね、やっと隼人が生まれてくれたんで、大事にしてもらえるかと思いきや。
どうしてどうして。『実家に帰りたくないか?』などと言われる始末ですよ」。

たばこを取り出して武蔵にすすめながら、
「これもなんです。家の中では、吸わせてもらえんのです。
義父が吸いませんのでね、外ですよ。
まあね、義父が死んだらねえ。これみよがしに、そこら中で吸ってやろうと思っているのですが。
だめですなあ、義母が許してはくれんでしょう」と、ぐちをこぼしはじめた。
「で、義母がいなくなっても、こんどは妻がねえ。
かかあ天下です、うちは。というより、この地では大半がそうなんですが。
九州男児などといきがってはいますが、外ではそうなんですが、家に入るととたんに。
まあしかし、その方が円満です。おたくはいかがです?」

 武蔵の嫌がるはなしに行きはじめたため「それはまあ、ご想像におまかせしますよ。
どこに行きましたかね、ふたりは」と、小夜子と娘のふたりが気になるそぶりをみせた。
「おおかた、あの野良犬をかまっているんでしょう。ほんとはねえ、飼ってもいいとおもうんですが」
と、あくまでぐち話をつづけようとしてきた。
「隼人のやつが、とんと意気地のないむすこでして。そのことも、わたしに対する……」
「ああ、いましたいました。そうですなあ、犬と走ってますよ」と、はなしの腰をおった。
“いつまでもくだらんはなしに付き合ってなんておられん”。口にはださないが思いっきり蔑視の視線をむけた。
さすがに愚痴が過ぎたと気づいた父親も、
「初対面の方にするはなしではなかった。つい同好の士だと気を許してしまいした。失礼しました」と、頭を下げた。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿