「竹田! 武蔵は、なにしてるの! 一度来てくれたきりじゃないの!
まさか、もう浮気してるんじゃないでしようね。
これ幸いって、遊びまわってなんかいないわよね」
「まさか、社長は毎日をいそがしくされてます。
おふたりのためにと、もう以前にもまして活動的です。
浮気だなんて、とんでもないです。それはもう、あちこちに電話をかけられていますよ」
多少の後ろめたさを感じつつも、“得意先の接待なんだから。
以前よりも増して、仕事に熱を入れられているのは間違いないんだ”と、己に言い聞かせる竹田だった。
「よし! こんやは、近辺の旦那衆だ。れんらくはいれてあるな?
よしよし。で? どのくらいの人数があつまるんだ? 十人か? 二十人か?
なに、なんだ? 七人に声をかけて、三人だと? バカヤロー、なんだそれは」
行ってきました、とかえってきた事務員の返答に、おもわず声をあらげる武蔵だった。
お留守なんですよと言い訳をすると、なおも機嫌がわるくなる。
当日になってうかがいをたてにまわったことも、武蔵には不満だった。
事務員にしてみれば〆後のことで、請求書づくりを優先させたのだが、武蔵にしてみればひとりぐらい抜けても……という気持ちがあったのだ。
「社長、ちょっと度が過ぎていませんか? こうも毎晩の連チャンでは、からだをこわしますよ。
お姫さまのところには、一度だけでしょ? おこってらっしゃいますよ、きっと」
心配する女子社員の声にも
「なにを言ってるんだ、おまえたちは。お祝いだぞ、俺のあと継ぎが生まれたんだ。
みなさんに祝っていただくんだぞ、日ごろお世話になっている方たちなんだぞ」と、まるで耳を貸さない。
「お祝いというのは、相手がするものでしょ? 接待をうけることじゃないわよねえ」
「要するにさ、社長はあそんでるのよ。やっぱり社長も、そこらの男いっしょだってことよね」
陰でささやきあう女子社員たちの声にも、馬耳東風の武蔵だ。まるで意に介さない。
“いま遊ばないとな。鬼のいぬまの、いのちのせんたくだ。
そして退院してきたら、夜のあそびから、めでたく卒業というわけだ”
「専務、せんむぅ! 社長にいってくださいよ。
あたしたちでは、ぜんぜん効き目がないんだから。
専務からガツンと言ってやってくださいよ。お姫さま、きっと淋しがってらっしゃいますよ」
「ああ、そうだな。たしかに、おいたが過ぎるな。
分かった、わかったよ。俺からもひと言、言っておくさ」と、答える五平ではあった。
「専務、どうしたのかしら。なんだか元気がないのよね。
ひょっとして、社長の後がまをねら
っていたのかしら?
跡継ぎができたってことは、もう専務はせんむどまりということよね」
辛辣なこえをあげる者もいれば、
「それはないでしょ、年齢を考えてごらんなさいよ。専務のほうが、年上なのよ」
「そうよね、そうよね。元気のなさは、昨日きょうのことじゃなかったしね」
「それよ、それ。この間なんか、大きなため息なんか吐いてたわ。びっくりよ、ほんとに」と、うちけす声もあがった。
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