昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十二)の四

2011-08-05 21:21:54 | 小説
突然アナスターシアの表情が明るくなり、
前田に日本語を教えてくれるようせがんだ。
「サヨコ,
オフロイッショ.
オーケー?」
目を丸くして、
小夜子はアナスターシアを見た。
「オーケー?」
「うん、うん、
もちろんです。」
返事を催促された小夜子は、
激しく頷いた。

円形の大きなバスタブに二人して入り、
きゃっきゃっと嬌声をあげ湯を掛け合った。
「肌が、
ほんと白いわ。
うらやましい。
それに、
髪も金色にきらめいて、
きれい。」
うっとりと見つめる小夜子に、
アナスターシアの手が伸びる。
小夜子の漆黒に輝く髪の艶に、
にこりと微笑む。
指を滑らせ、
肌のきめ細かさに感嘆の声をあげる。
言葉は通じなくとも、
互いの目で意思の疎通を図った。

「彼の名前は?」
「正三、
佐伯正三と言います。」
前田が通訳すると、
人なつっこい笑顔を見せた。
「あなたのボーイフレンド、
お友達でなかったら、
あたしのフレンドにしたいところだって。」
大きくバツ印に腕を組んで
「だ、だめです。」と、
慌てて手をふる小夜子だった。
昨日までの小夜子だったら、
アナスターシアに会うまでの小夜子ならば、
笑って
「熨斗を付けて差し上げますわ。」と、
答えたろう。
しかし今の小夜子には余裕がない。
アナスターシアに出会って、
小夜子の鼻柱の強さも折れてしまった。
前田とのヒソヒソ話の後に、
アナスターシアが
「サヨコ,
ケチンボー!」と声を張り上げ、
大きく笑った。


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