昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

小説・はたちの日記  二月十日 (雪):前

2024-12-22 08:00:50 | 物語り

[ただいま……]

冷たい雪だった。
風もつめたかった。
けれども、外の方がまだ暖かい。
わかっているよ、きみの言いたいのは。
あれ程きみに約束したのに、結局もどってきてしまった。
わずか四十日ちょっとだけど、耐えられなくなったんだ。
仕方ないんだ……
 
チコと別れたのは、正月休みのあとだったよ。
そのあと、一ヶ月あまりがまんした。
耐えたんだ。じっくりと、お互いのことを考えつづけたけれど、どうしてもダメなんだ。
いや、けっして嫌いになったんじゃない。
いまでもすごく好きだし、会いたい。
だけど、ダメだった。耐えられないんだよ。

ぼくが子どもなのかもしれない。
ぼくのエゴかもしれない……

いまは、自分が身の毛もよだつほどキラいだ。
こんな嫌悪感ははじめてだ。
こんやは、きはみに全部はなすつもりだ。
わかっている。
所詮、きみは日記であり、ぼくの一方的な告白であり、単なる愚痴にしか過ぎないってことは。
そうとわかってても……


[味の保証]

あの夜チコは、ぼくをベッドに寝かせてくれた。
チコは、ごろ寝でいいって聞かない。
慣れてるからって。
ぼくは、興奮気味だったこともあるけど、なんども起きたよ。
チコは、どういうのかな、スヤスヤと眠っていた。
習性なんだってさ。
「いつもは夜行バスのなかでねむるの、宿泊代も馬鹿にならないから」
スター歌手なんかでも、車のなかでらしい。
もっとも、倹約のためではなく時間が取れないということ。

あさ、七時ごろに目が覚めた。チコはもう起きていた。
「おはよう!」って、笑いかけてくれた。
とってもすがすがしそうだった。
チコの用意してくれた朝食、パンとコーヒーだったけど、すごくおいしかった。
食事のあと、すぐにアパートに戻った。

管理人のおばさんに書き置きをあずけて、チコのアパートにすぐ戻った。
いやがるチコと一緒に大掃除をしたよ。
夕方近くに買い物に出かけて、
「弟さんと一緒の買い物? 仲がいいのね。」だって。
「ひさしぶりに作るから、味の保証はないわよ」って言うだけのことはあって、たしかにおいしくはなかった。
けど、楽しかった。


[ショック!]

だんだん口数がすくなくなってきてね、チコが心配してた。
「そんなに不味かった?」って。
で、チコに話した。
毎年、おふくろのお迎えで実家で新年を過ごしていることを。
悲しそうな顔をしてくれるかと思ったけど、そうでもなかった。
ショック!

「今年は帰らない! もう、親ばなれする!」と、宣言した。
うれしそうな顔をしてくれたけど、すぐに
「やっぱりダメ、帰りなさい」って叱られた。
「けど、帰らないってメモ書きを置いてきてるもん」

なごりおしかったけど、とりあえずアパートに戻った。
ことしは帰らない! って言うつもりで。
道々、その理由を考えたけれど、なかなか妙案がでない。
結局、先輩といっしょに初詣に行くということにした。
でもいざアパートの灯りを見たら、なんだか部屋に行くのがおっくうになった。

結局、そのままチコのアパートに戻ることにした。
おふくろに会ったら、ぜったいに帰ることになるような気がしたんだ。
おふくろの涙に弱いんだよ、ぼくは。
「正月は、帰れないかもしれない。
今夜も戻れない」と、書き置きしたことだしさ。

冷たい雪だった。
風もつめたかった。
けれども、外の方がまだ暖かい。



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