「いいかげんにしろ、こらっ! いくらなら払えるんだよ、こらっ!」
「いくらならだなんて、あなた。
ほんとに観たものなら、30が40でもお支払いしますよ。
けどですね、ほんとに観てないんですから。
ほんとに、あたしじゃないんです」
思わずミエを張ってしまった。
30万だの40万だの、そんなのとうてい払える金額じゃない。
万がいちにもそういった事態になってしまったら、「ローンでは……」となってしまうに決まっている。
毎月の給料が7万にも満たないのだ、
市営住宅の低家賃だからこそ成り立つ、家計状態なのだ。
そりゃあ、なにがしかの蓄えはある。
離婚後にひっしの思いでたくわえた、たしか50万はあるはずだ。
3ヶ月ほど前に記帳したとき、その50という区切りの良い数字が光って見えたものだ。
そしてそのとき、つぎは100万だと気負った気がする。
1万円の積み立て貯金を組み、なんとかここまでたどりつけた。
大きな出費もなく、やっとここまでたどりついたのだ。
「よし分かった。お前がその気なら、こっちも最終手段に出るよ。
もういい、もういいよ。謝っても、だめだから。
払います、振り込みますって言っても許さんから。
待ってろや、これから行かせるから。といってもだ、俺だって鬼じゃない。
お前がな、頭を下げてだ。
これからすぐにもふりこみますって言うんやったら、考えんでもない。
どうや、どうする? はらうか?」
男の「振り込む」ということばに反応するかのように、冷蔵庫の側面にはってある広報紙に目がいった。
[振り込め詐欺に注意!]
さくねんの暮れに受けた講習をおもいだした。
自分にかぎってそんな事態にはならないさ、と高をくくっていたわたしだった。
平日の夜ということもあり、欠席するつもりでいた。
思いのほかに仕事がきつく、体を充分に休めなければ、翌日をやすむ羽目になる。
しかしお節介な隣人にさそわれて、しぶしぶ参加した集会だった。
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