昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~100万本のバラ~  (七)

2023-09-06 08:00:11 | 物語り

 昨夜も口論となった。
中食と称される総菜類をならべるユカリに対し「たまには料理ぐらいしたらどうだ!」と、松下がこぼしたことからの口論だった。
家政婦じゃないんだから、と言いかえしたものの、おのれに非があることが分かっているユカリ、ただ泣き叫ぶしかなかった。
「あたしがどれだけの犠牲をはらったと思っているのよ。
ナンバーワンのあたしがおみせを辞めて、ここに来てあげたのよ」

 しかし松下の反応は冷たいものだった。
「なにが来てやった、だ。頼んだおぼえもないのに勝手に住みついたんじゃないか。
ナンバーワンだ? ほのかに追い抜かれて、KAYの三人娘にも追い上げられて、青息吐息だったろうが。
ことみ・あかね、わかの三人だよ。
おれの情報収集力をなめるなよ。投資というのは、情報が命なんだよ。
そもそもあの店にかよったのは、なにもおまえが気に入ったからじゃないんだ。
あそこにかよっていた、、、」

 話しつづける松下の言葉が、ユカリには届かなくなった。
ナンバーワンではなくなっていたという事実、与えられていた特権を剥奪されたという事実、松下のもとににげこんできたという事実、それらすべてを見透かされていた。
ユカリのプライドが、いま、ずたずたにひき裂かれた。

ふらふらとテーブルを離れ、寝室に閉じこもった。
  さすがに言い過ぎたと感じた松下、ドア越しに「わるかった、ユカリ。言い過ぎたよ。
こんど、食事に行こう。それからどうだ、もういちどパリに行かないか。
明日にも相談しようじゃないか」と、声をかけた。

このことがあっての今日だった。
楽しみにしていたユカリに対し、松下からなんの話もない。
朝から夜になったいま今のいままで、株のチャート画面ばかりを見ている。
 朝に声をかけたおりには、三台あるモニター画面のひとつとして、旅行会社のサイトは出ていない。
ならば午後からにと思ってもおなじくで、そして夜になってもだ。
きのうのことばはその場かぎりのことだったと、ユカリの気持ちが爆発した。



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