「竹田。祈祷師がいたでしょ。つれてきて」
さすがにこれには竹田も反対した。小夜子の説得にと五平に連絡をとり、そして徳子までがかりだされた。
竹田の母親が見舞いにきたときには、すこし気が動転してみえるからと話し、まともに請け合わないようにと念をおした。
万が一にも勝子に処したような、民間療法的なことをいいだされてはこまるのだ。
さすがにこりているのか、「ばかをお言いでない!」と一喝された。
気丈にふるまう小夜子だったが、竹田の母親にだけは思いがあふれでた。
ソファで落ち着かない母親のひざに泣き伏して、大声で「武蔵は、あたしを見捨てる気なのよ」と号泣した。
やさしく背中をなでながら、「そんなことはありませんよ」と声をかけ、
「たたかってらっしゃるんです、いま。小夜子さんの応援があれば、きっときっと、ね」と励ました。
「そうね、そうよね。いまたたかってるのよね、あたし武蔵に声をかけるわ」
武蔵の手をにぎって、「あなた、あなた。武士も待ってるわよ。あたしも待ってるから」と、何度もなんどもほおずりをくりかえした。
そして10日の後に、やっと武蔵の意識がもどった。
「『あなた』って呼びかけてくれたのを聞いてな、こりゃ起きなきゃいかんって思ったぞ。
どうせもう二度と呼んでくれないだろうからな」
弱々しい声ながらも、小夜子の手をしっかりとにぎって笑った。
「ばか、バカ! ほんとに心配したんだから。
あなたが死んだら、あたし、あたし。もう耐えられない!
アーシァが死んで、勝子さんも亡くなって、それからそれから……」
みるみる小夜子の目に涙があふれ出した。
「おいおい。泣くなよ、生きてるんだから、おれは。
かわいい恋女房をのこして、あの世に行くわけにもいかんだろうが。
それに、武士もいることだしな。そうだ、武士はどうした? 母さん恋しってないてないか?」
しゃくり上げる小夜子にことばをかけるが、小夜子はあふれ出る涙を拭おうともせずに
「だいじょーぶ。千勢がしっかりと面倒をみてくれてるわ」
うんうんとうなずきながら、「千勢か……。家事なら任せられるが、赤ん坊はどうなんだ?
子守りの経験はあるのかなあ」と、まだ安心できんとこぼした。
「だから、大丈夫だって。おしめの交換なんかうまいもんよ。
あたしなんかよりよっぽど手際がいいわ。
あたしだとグズるくせに、千勢だとキャッキャって喜ぶんだから」
少し上目づかいですねた表情をみせながら、武蔵の手をジブンのほほに押し当てた。
「はやく帰られるよう、がんばってね」
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