昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十一)

2023-03-09 08:00:14 | 物語り

 よくじつのこと。久しぶりの武蔵の訓示だ。全社員が、直立不動でたっている。
「きょうは、みんなを褒めようと思う。みんなだ、全員だ。俺以外の全員をだ。
そしてみんなして、社長であるこの俺を、御手洗武蔵をしかってくれ」
 何事かとざわつく面々に、
「みんなの頑張りのおかげで、富士商会の業績はのびている。
ひと頃ほどではないにしろ、同業他社よりはるかにいい業績だ。
しかし気になることが出てきた」と、切りだした。

「本来なら、社長である俺が、もっと早く気づくべきだった。
かるく考えすぎた。富士商会は、仕入れ値をおさえることには長けている。
そのことに胡坐をかきすぎたかもしれん。一部とはいえ、集金時に値引き要求をする店がある。
小額だったゆえに、俺もやむ得ぬかと決済してきた。
しかし、よくよく調べてみると、かたよった地域に限定されていることに気づいた。
それで専務に調べさせてみると、日の本商会なんてふざけた名前の会社があがってきた。
富士商会に対抗しての、日の本商会だろう。しかもだ、おんな社長だ」

 怒り心頭で、拳を振り上げる武蔵だ。
「いいか、みんな。女なんかに負けられるか? 家庭の中で負けるのはかまわん。
まして、寝屋で負けるのはしかたない。そうだろう? 
しかし、しかしだ! こと、商売に関しては、負けるわけにいかん。
この地区は、いま服部が担当している。話を聞くと、行く先々で競合しているらしい。
そしてほとんどで負けている。押しが足りんからだと、叱責してしまっていた。
一喝してしまったが、悪いことをした。そうじゃなかった。服部、すまなかった。
チャラチャラしている普段のお前から、つい手抜きをしていると思ってしまった。
竹田からもその旨きいていたが、聞く耳を持たなかった俺がわるい」
 深々と腰をまげて、社員に頭をさげた。

「よって、むこう三ヶ月間、社長の給料を半減する。
そして服部には、これまでの叱られ賃として、三ヶ月のあいだ給料の二割をふやしてやる。それで勘弁してくれ。」
 武蔵の謝罪にもかかわらず、社員たちが叱責されているようにうけとめていて、ほとんどの者が下をむいている。
「ましかし、服部のことだ。その金で、キャバレー通いが、また増えるだろうなうらやましいことだ。ほどほどにしておけよ、な」
 笑いをとるべくはなしを柔らかくしたが、笑いがもれることはなかった。
「そこでだ、対策として、日の本商会のとくい先をすべて洗い出して、徹底攻勢をかける。
富士商会のなわばりを荒らしたらどうなるか、天下にしめしてやる。
以後、富士商会には二度と手をださせなくしてやる。半端なことはしない」



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