昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… 祭り (二十)

2023-11-05 20:42:40 | 物語り

手紙(四)

 お母さんの話では、病気を苦にしていたとのことだ。
「一生を病人で過ごしてわたしに迷惑をかけるくらいなら、と自殺をはかったんです。
この子は、あなたもご存じのとおりに、とても気のやさしい性格ですから」
 そしてまた、こんな話も。
「元気でいてほしい、健康であってほしい、そう思いますよ。
でもね、いざこうなってみると、親としてはどんな形にせよ、生きててほしいんです。
たとえずっとベッドの中にいることになっても、やっぱり生きててほしいんです。
それがあの子にはつたわらなかったのでしょうか…。
それとも、これがあの子の復讐だったんでしょうか。
母親であるわたしに対する復讐だったんでしょうか」

「のぞまれない子どもだったんだ」と、苦しげに告白した友人。
真夜中に両親のそんな会話を聞いたという友人。
そのことを告げると、目にいっぱい涙をためて悲しげに
「あれは叔父夫婦のことなのに。聡も納得してくれたのに。
あたしが信じられなかったのでしょうか」と話された。

 両親に愛されなかったことが、いやそう思ってしまったことが、友人を苦しめたんだ。
そしてぼくに救いを求めてくれたのに…。
そのぼくが離れてしまい、絶望の淵に立たされたのだろうか。

 友人は、生きていくことに疲れてしまったのだろう。
いちどならず二度も、自殺をこころみるなんて。
神さまのお許しをえたから、もういちどだなんて…。
でも、また生き返るつもりだったのだろうか。
一度リセットするつもりだったのかい? 
「こんど目が覚めたら、きっと違うぼくになっているから。
元気な強い子になっているから」

 あるいは、お母さんのことばが正しいのかもしれない。
多分そうなのだろう。病気が彼を苦しめ、精神的重圧となったのだろう。

 ごめんね、ごめんね、聡くん。
きみの気持ちに気づかずにいて。
ぼくも、聡くんとの友情を、ほんとは取りもどしたかった。
以前のように、馬鹿話をしたかったよ。
そして、やっとできた彼女を、妙子を紹介したかったよ。

 だけど、そのきみは、もう、この世にいないんだね。
 いないんだね、もう…。
 ごめんね…ごめんね…    



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