昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・れいでぃ~

2023-03-04 08:00:46 | 物語り

(二)不安だった

川のなかに投げ込まれた石でもって波紋をよんだとしても、そのあとにくる平穏な水面をかんがえるとき、不安だった。
このかいらくの巣である街にたった独りでいることが、そこに溶けこめないことが、なによりも不安だった。
そしてそのふあんは、うろうろとうろつく野良犬が出現すれば、少年の独歩のいみが跡形もなくきえさるかと思える不安だった。

しかし幸か不幸か、この街には、はらをすかせた狼はいても残飯をあさる豚はいても、野良犬はいない。
まして少年はいない。
同世代の少年たちに、お子ちゃまとやゆされる少年はいない。
どんなに大人を演じても、けっして認めてはくれない。
どんなに大人の型――タバコ・さけとすすでも、お子ちゃまと揶揄されてしまう。

濃茶のストレッチズボンにのうちゃのコール天のスポーツシャツ、そしてうす茶のコール天のブレザー。
くつも濃茶のスウェード地と、茶色がおとなのシンボルだとばかりに全身を茶系色で統一した。
ラフなスタイルにと気をつかい、シャツの上ボタン二つをはずしもした。
それが大人のスタイルだと信じて。

いかにも遊びなれた漢と演じるべく――そのじつ、遊び人の表情を知らないけれども――口を真一文字にむすんでいる。
ニヤけた顔にならぬようにと気をつけながらも、うすわらいを浮かべた表情をとかんがえている。
そして、眉をひそめて“ふん”と鼻をならすことを忘れぬようにしている。

ときおり、店のまえにたむろするホステスが少年をからかう。
「ねえ、ボーヤはもうねるじかんでしょ」
少年はできるだけ平静をたもちながら、口をとがらせて、「チッチッチッ」。
そして、手を二度よこに振る。
二度でなければならぬ、と決めている。
銀幕のアクションスターがスクリーンで見せた仕種が、目にやきついている。



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